揺れる想い
一方「あの子」と康弘から言われる女子高生…麻衣は、水族館の男「あのお兄さん」の突然の行動に動揺していた。
正直、気にはなっている。
自分が将来就職したいと思っている職業の一つである水族館。
そこで働く「あのお兄さん」に対して憧れに似た感情もあるし、歳はわからないけど顔はけっこうタイプだ。
さっき名刺を渡された時、ドキドキしたのは何故だろう。
でも今の自分には、好きな人…というより「想いを断ち切れずにいる人」がいる。
もし今、この渡されたアドレスにメールをすれば、気持ちが「あのお兄さん」に向かってしまうかもしれない。
中途半端に断ち切れない想いを断ち切って、後で後悔しないだろうか…?
「ねぇ、ノリちゃん。私、どうしたらいいんだろぅ?」
帰りの電車の中、今日一緒に水族館に行った高2からの友達であるノリちゃんに麻衣は名刺を見せながら言った。
「うーん… 麻衣はアノ人の事、どう思ってるの?」
麻衣の事を良く知るノリちゃんは、いつもこんな相談を真剣に聞いてくれる。
「あの人って…水族館のお兄さん?」
「違うよ、元カレ」
「うーん、タカアキはこのまま好きでいても、辛いだけなのはわかってるんだけどね」
「そっかぁ、やっぱりまだ好きな気持ちはあるんだね。あんな別れ方されちゃ…ねぇ。無理もないよ」
「うん…。でも最近はだいぶ吹っ切れてきたかなぁ」
タカアキとは麻衣の元交際相手で、その別れは何ともあやふやなモノだった。
大きな喧嘩をしたわけでもなく、何が気に入らないとも言われず、嫌いになったとも言われず、ただ「別れよう」の一点張り。
そのくせ別れた後も普通に話しかけてくるもんだから、別れて半年が過ぎようとする今も、麻衣の心の中には「いつか、また…」という願いがあった。
「でも水族館に行くようになってから麻衣変わったよね〜。水族館の人の事はどう思ってるの?」
「………わかんない。でも、名刺渡された時、嬉しかった」
複雑な気持ちで「ふぅー…」とため息を一つついた時、電車が速度を落とし始めた事に気付いた。
「次は〜光ヶ丘〜、光ヶ丘〜」
麻衣の降りる駅だ。
ノリちゃんに相談をしてはみたものの、結局答えは出ないまま駅に着いてしまった。
「ノリちゃん、もう少し色々考えてみるよ」
「うん!最後に答えを出すのは麻衣だから。どう動くにしても、自分に正直にね♪」
「ありがとう」と手を振り、麻衣は電車を降りた。
駅からは、徒歩で家に向かう。
「自分に正直に」…かぁ。
家までの道を歩きながら、麻衣はタカアキの事を考えていた。




