繰り返す葛藤
康弘の働く水族館は土曜、日曜、祝日は忙しいので休みを取ることができない。
その為平日に休みとなるのだが、高校生である麻衣は逆に平日に休みなんてない。
一緒に過ごすと言えば何日かに一度、康弘が仕事を終えてから麻衣の門限までの時間を車内で過ごすパターンがほとんどだった。
お互い生活する環境が全く違うので我慢したりさせたりを繰り返したが、康弘と麻衣の互いを思う気持ちは強く、順調に甘く幸せな時を重ねた。
…が、二人が付き合い始めてから約半年。
この頃から次第に康弘の心に変化が起こり始める。
麻衣が県外(と言っても隣の県だが)の大学へ進学する事が決まったのがきっかけだった。
志望大学の受験に合格し、胸を撫で下ろす麻衣。
それに対して康弘は素直に喜べずにいた。
心配症でヤキモチ妬きでネガティブ思考…
康弘は、そんな性格で「遠距離恋愛」をする自信が無かったのだ。
大学に入ると同年代との新しい出会いが山ほどあるだろう。
そんな中で、遠く離れた場所で暮らす自分の存在が薄れる事を恐れた。
会いたい時にすぐ会えないような環境で、果たして麻衣は変わらず自分を好きでいてくれるだろうか?
若い女の子の一人暮らしも心配だ。
かと言って、自分の束縛によって麻衣の楽しい時間を奪うのも嫌だった。
麻衣にとって人生最後の学生生活になるであろう大学生活。そして初めての一人暮らし。
そこで自分が彼氏である事によって、「あれダメ、これダメ」と制限してしまい、多くの楽しみを奪ってしまうのではないかと思った。
遠くに離れれば今よりも麻衣を束縛するであろう自分が嫌だった。
好きが故に…だとしても、麻衣にとってそれがプラスになるとは思えなかった。
康弘はそれらを麻衣に伝える事なく、一人悩んだ。
別れるべきか…
続けるべきか…。
好きだからこそ、葛藤を繰り返した。
麻衣はというと、遠距離恋愛に多少不安があるものの康弘と別れるという考えはなく、大学生になって遠く離れていても好きでいられる自信があったし「好きだから離れていても恋人同士でいたい」それが当然だと思っていた。
しばらく悩む日々が続き…
康弘は自分なりの答えを出し、次第に麻衣を突き放そうとしていた。
あれ程楽しくて仕方なかった麻衣とのメールのやり取りも素っ気なく返事をするようになり、会っている時の会話もどこか上の空の返事ばかりするようになった。
決して麻衣に対する想いが冷めたという訳ではなく、それが麻衣の為だと自分に言い聞かせていた。
しかし麻衣にはそれが理解できなかった。
好きなら冷たくして欲しくないし、お互いに好きな気持ちが変わらないのなら例え遠距離になろうとも彼女でいたい。
康弘の突き放すような態度は、麻衣にとって「悲しい」以外の何者でもなかった。
なんで…
どうして…
ただただ、悲しかった。
そんな麻衣の反応を見ても康弘の考えは変わらなかった。
どころか、麻衣が高校を卒業してから大学生活の準備をするようになった頃には、突き放すような態度はどんどん増していった。
どうせならキッパリと別れたほうが後々お互いに良かったのだろうが、康弘の中には「好き」という気持ちがあったので「別れよう」とケジメをつける事ができずにいた。
2月…3月…と時は過ぎ、ズルズルした関係のまま桜の咲く季節となった。




