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第8話_覚悟のレンズ

 日曜の朝五時、築地場外市場はすでに活気に満ちていた。魚の匂いと威勢のいい掛け声が混じり合う中、智哉と愛乃はカメラとメモ帳を手に歩いていた。

 「こんな朝早くから動けるなんて、私、正直自信なかったです」

  愛乃は苦笑しながら、足を止める。

 「でも、いい表情してますよ」

  智哉はファインダー越しに愛乃を見て、自然とシャッターを切った。

 「えっ、私撮ってたんですか?」

 「この時間帯の雰囲気がすごく似合ってるから」

  愛乃は頬を赤らめ、メモ帳を握り直した。

  市場の一角では、包丁を研ぐ職人の姿があった。無駄のない動きに、智哉は思わず身を乗り出した。

 「愛乃さん、メモをお願いできますか? 職人さんの名前と店の情報も」

 「了解です!」

  愛乃は素早くメモを取り、取材許可を取り付ける。段取りは驚くほど早かった。

 「助かります。愛乃さんがいると、撮影効率が段違いですね」

 「やっと役に立ててる気がします。……実は、広報異動になった時、自信なくしてたんです。でも、智哉さんと一緒に動いて、やっと前を向けそうで」

  愛乃は真剣な瞳で言った。智哉は一瞬言葉を失い、ファインダーを下ろす。

 「俺も同じです。写真を仕事にするなんて考えてなかった。でも、今は本気でやりたい」

  二人の視線が重なり、静かな決意が流れた。

  その後も、二人は市場の隅々を歩き、働く人々や活気ある風景を撮影した。愛乃の段取りと智哉の撮影技術は、まるで二人三脚のようにかみ合っていた。

  最後に市場を出る時、愛乃が言った。

 「審査会まであと一か月……絶対に勝ちましょう」

 「はい。写真で、そして気持ちでも負けません」

  智哉はカメラを握り直し、朝日に向けて一歩踏み出した。

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