第19話_世界を変える一歩
水曜の午後一時。東京都庁の記者クラブには、多くの報道陣が詰めかけていた。
クラウドファンディング達成記念の記者会見が行われるとあって、熱気が漂っている。
壇上に立ったのは、智哉と愛乃、そしてアリヤだった。
アリヤは手にしたギフトサンプルを掲げて言う。
「この記念ギフトは、下町の工場が持つ技術を生かしたものです。世界中の人に、この温かさを届けたい」
フラッシュが一斉に焚かれ、記者たちがペンを走らせる。
航平は会場の後方で静かに頷いた。倒れてから無理はさせられないため、今日はサポート役に徹している。
会見後、ジェレミーが智哉に歩み寄った。
以前の勝負の時とは違い、穏やかな笑みを浮かべている。
「君たちの写真、心に刺さったよ。僕は少し焦りすぎていたみたいだ。……もしよければ、海外販路の担当を僕に任せてもらえないか?」
「えっ、ジェレミーが?」
「この地域の魅力を、今度は僕が外に届けたいんだ。競争じゃなく、協力としてね」
智哉は一瞬考え、笑顔で手を差し出した。
「お願いします。あなたならきっとできる」
その握手を見ていた愛乃も、ほっと息をついた。
その後、工場では防火改修が完了し、航平と悠大の管理のもとで新しい設備が稼働を始めた。
町に再び、金属を削る音と笑い声が戻ってくる。
「世界を変えるなんて大げさかもしれない。でも……」
智哉が呟くと、愛乃が笑った。
「一歩ずつでいいんです。こうして仲間と歩けるなら」
二人は目を合わせ、小さく頷き合った。
その視線には、次の未来への期待が映っていた。