第16話_光と影の投票箱
同日午後一時。日本橋ホールの中央に設置された投票箱には、来場者が次々と投票用紙を投じていた。
ジェレミーはスマホを片手に、SNSでライブ配信をしている。
「見てください、これが東京の新しい顔です!」
彼の英語混じりのトークに、多くのフォロワーが反応し、会場にはさらに人が集まった。
一方、智哉と愛乃のブースは静かだった。だが、その空気は決して冷たくなかった。
年配客や地域住民が次々と投票用紙を投じていく。
「この写真、父の工場だよな?」
「そうそう、懐かしいなぁ」
地域の人々の声が響き、少しずつブース周辺に温かな輪が広がった。
莉菜とアリヤも会場に駆けつけ、クラウドファンディング支援者に声をかけて回っている。
悠大はスマホで拡散用の写真を次々とアップロードした。
「SNSで勝負はできないけど、人の気持ちは動かせるはずだ」
智哉が小さくつぶやくと、愛乃は微笑んだ。
「ええ、私たちの写真には、この町で生きる人たちの想いがあるから」
夕方、来場者投票は締め切られた。
集計は翌日公表される予定だが、ジェレミーのブース前では勝利を確信したかのような空気が漂っていた。
「明日が楽しみですね」
愛乃が言うと、智哉は頷く。
「勝ちたい。だけど、それ以上にこの町の魅力を伝えられたなら、それでいい」
二人は会場を後にした。外に出ると、街の灯が静かに瞬いていた。
勝負の行方は、まだ誰にも分からなかった。