第12話_焦げたフィルム
木曜の夜七時。町工場の試作室には、金属の匂いと熱気がこもっていた。
航平は新しい加工機の試運転を行っていたが、突然の異音に顔を上げた。
「……止まれ!」
叫ぶ声と同時に、機械の内部から火花が散った。次の瞬間、煙が立ち込める。
航平は慌てて消火器を手に取り、火元に噴射した。煙は収まったものの、室内には焦げた匂いが広がっていた。
安堵したのも束の間、航平の膝ががくりと折れる。
「航平さん!」
駆けつけた悠大が彼を支える。顔色は青白く、息が荒い。
「救急車呼ぶぞ!」
「……いや、大丈夫……少し休めば……」
そう言いながらも、航平は意識を手放した。
一方、愛乃はジェレミーの依頼でプレゼン資料の最終調整をしていた。
智哉への連絡は後回しになっており、二人の距離はここ数日ぎこちないままだ。
その時、智哉のスマホが鳴った。悠大からの緊急連絡だ。
『航平さんが倒れた! 今、救急搬送してる!』
「……え?」
智哉は撮影を放り出し、病院へ向かった。
到着した時には、航平は処置室に運ばれた後で、悠大が不安げに待っていた。
「原因は?」
「過労と軽い煙吸入だろうって。命に別状はないけど、しばらく安静だ」
智哉は胸をなで下ろしつつも、唇を噛んだ。
「俺、審査会どころじゃ……」
「智哉くん、今は航平さんを信じろ。それに、あんたの写真も待ってる人がいる」
悠大の言葉に、智哉は迷いながらもうなずいた。
一方その頃、愛乃は焦りながらも資料づくりを進めていた。
ジェレミーのプレッシャーは強く、「期限は絶対」と言い切られていたのだ。
知らないうちに、二人の時間は完全にすれ違い始めていた。