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雨粒ごしの約束――下町カメラマンと広報女子のリスタート・ラブ

作者:乾為天女
 雨の夜――浅草寺の軒先で、町工場を継いだばかりの青年カメラマン・智哉は、傘を忘れて立ちすくむ広報担当・愛乃と出会う。趣味で磨いた腕前だけが取り柄の彼は、濡れたレンズ越しに捉えた彼女の笑顔に不可思議な温度を感じた。
 「その写真、次の地域活性プロジェクトに使わせてもらえませんか?」
 愛乃の素直なお願いから始まった共同取材は、次第にふたりの心のピントを合わせてゆく。智哉は、家業の町工場が負債で崖っぷちだと知りながら、飾らない下町の光景を撮り続ける。一方、愛乃はかつて企画の大失敗で左遷寸前になった過去を抱え、「行動で信頼を取り戻す」と誓っていた。
 そんな矢先、海外メディアの編集者ジェレミーが「日本のローカルを世界へ」と豪語し、愛乃を専属スタッフにスカウト。公開審査会で写真を競う“勝負”を智哉に仕掛ける。「腕前と覚悟、どちらが強い?」――煽るジェレミーに、智哉は負けられない理由を悟る。
 同時に、兄代わりの航平が工場の経営破綻を隠していることが発覚。資金繰りを支える悠大、即行動で支援策を立てる莉菜、クラウドファンディングを企画するアリヤら仲間が集結し、町工場再建と写真勝負はリンクしてゆく。
 取材先で交わした「必ず守るから」という智哉の言葉が、愛乃の胸に雨粒のように沁み込む。だが審査会直前、工場で小火騒ぎが起き、智哉は撮影を捨てて救助に走る。残された愛乃は、ジェレミーの圧に耐えながら写真を撮り続けるが、心は智哉の無事を祈るばかり――。
 翌朝、病院の屋上で再会したふたり。愛乃は手帳を差し出し、「写真で世界を救えるなんて信じてなかった。でも、あなたが撮る瞬間の光を私は信じたい」と涙をこぼす。智哉は工場を題材に“人の手の温度”を写し込み、下町の真実を作品へ仕立て直す。
 審査会当日。ジェレミーの派手な海外作品が喝采を浴びる一方、智哉と愛乃の“地味で温かい”写真は静かに観客の心を揺らす。結果はわずか数票差で逆転勝利。町工場のクラウドファンディングも達成し、仲間たちは新しい歩みを始める。
 黄昏の隅田川テラス、初めての場所で撮った一枚にプロポーズの言葉を忍ばせた智哉。愛乃は雨粒ごしに映る未来を見つめ、「これからも行動で信頼を築くから」と応える。ふたりの手作りストラップが寄り添い、夕陽の光を反射して小さく揺れた――。
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