真の聖女
「この国は第一王子、いや、国王たるこのチャーリーが占拠した!」
高らかにその宣言をするのはつい最近まで屍人だった男である。
「父上は!?父上を何処にやった?!」
「父上?父上ならここに…………」
チャーリーが指さす場所には腐りかけの肉が付いた頭蓋骨が剣を突き立てられて横たわっている。
「「?!」」
マリーもウィリアムも息を飲んだ。
「何故、何故だ?!父上を殺すなど?!」
「何故?それが彼女の願いだからだよ。」
チャーリーはエリザの顎に手を置いて唇を親指で撫でる。
「チャーリー様は素晴らしいご決断をされました。聖女たる私の願いをなんでも叶えてくださると約束したのです。」
エリザは恍惚とした顔でそう言う。
「兄貴、どうやって生き返った!?」
ウィリアムが怒鳴る。チャーリーは威厳ある態度で答える。
「ここにいる聖女エリザのおかげだ。」
「エリザが?本当に……?」
「ああ、彼女は私を蘇らせた、真の聖女だ。」
「ふっ、それはどうかな?」
「?」
チャーリーはウィリアムの意図が読めない。何故彼がそれはどうかなどと言うのか理解できない。
「本当の聖女は!ここにいるマリーだ!!」
「?!馬鹿な……」
チャーリーはウィリアムの宣言に驚く。しかし、エリザはいけしゃあしゃあとこう答えた。
「チャーリー様!騙されないで!私こそが!真の聖女なのです!」
「そうだ!エリザは私を蘇らせた!!これは聖女の奇跡でなくてなんという!!」
「!まさか……」
チャーリーがエリザを聖女だと言うのを聞いてマリーはある答えにたどり着いてしまった。
「マリー・ヴィル?どうした?」
ウィリアムの問いにマリーは深刻そうな顔でその答えを口にする。
「エリザ様、貴方、チャーリー様をか……」
エリザはマリーが最後まで何かを言う前にマリーへと魔法で攻撃を放った。ウィリアムはそれを魔法のバリアーで止める。エリザはその本性をついに表す。
「マリー・ヴィル!どこまでも邪魔な女ね!!」
エリザは鬼の形相でマリーを睨む。
「ここで死んでもらう!」
エリザはマリーへと攻撃をする。しかし、ウィリアムが邪魔をして攻撃が届かない。
「ちっ……チャーリー様!!どうかお力添えを!!」
「……わかった!」
チャーリーはウィリアムへと攻撃をする。これにより、エリザはマリーへと攻撃をすることができた。
「死ねぇ!!」
「きゃーー?!」
マリーに魔法攻撃は直撃した。否。
………………あれ?私、どうして……。
眼を開けると血が床に滴る。それはマリーの血ではなく、ウィリアムの血だった。ウィリアムがマリーを庇っていたのだ。
「ウィリアム様!?」
「マリー……」
マリーは直ぐにウィリアムに魔力を注ぐ。ウィリアムはなんとか怪我を回復できた。
「馬鹿な!!魔力を回復させただと?!」
チャーリーはまさかの光景に口を開けて驚く。回復魔法を使える者は滅多にいない。しかし、更に魔力を無限回復できる者などいなかった。
「死になさい!!」
エリザがマリーに忍び寄っていた。
「マリー!」
ウィリアムはマリーを引き寄せて転移魔法でその場から逃げた。エリザは舌打ちをして苛立ち、チャーリーは残念そうにしていた。
「…………ちっ!」
「仕留めそこなったか……。」
★★★★★
「ウィリアム様!」
「…………怪我はないか?」
「はい!私よりもウィリアム様の方が……」
「俺は問題ない。」
「……撤退の英断、流石です。」
「…………すまない。お前を巻き込んだ。」
「え?」
ウィリアムが素直に謝るのは初めてだった。マリーはそれを聞いて驚く。
「いえ、私のことより、これからどうなさいますか?」
「…………あいつらを王の座から引きずり下ろさなければならない。そうしなければ俺達に明日はない。」
「そうでしょうか?このまま見逃してくれないでしょうか?」
「無理だ。お前、エリザの真実にたどり着いてしまっただろう?」
「!!ウィリアム様。知っておられたのですか?!」
「ああ。エリザは」
ウィリアムは少しそれを口にするか迷ってから間を開けて重々しい雰囲気で、その事を口にする。
「……聖女ではない。」