力無き弱者
「マリー・ヴィル!俺と結婚しろ!!」
「……?!」
その言葉を反芻する。結婚。ウィリアムと結婚?何度も何度も頭の中をその言葉が駆け巡る。
「おい!聞いているのか!?返事は?!」
「は、はい!」
いきなり声をかけられたことに驚いて思わずマリーは、はいと言ってしまっていた。
「それでいい!お前は俺の下僕だ!!」
目の前の者が何を言っているのか理解できなかった。公の場でありもしない罪を着せただけではなく、こんな辺境の地に追いやっておきながら、今更結婚?そして、下僕扱い。もう、我慢の限界だった。
「ウィリアム様!何故ここに来られたかはしりません!しかし、ただでさえ免罪を押し付けられ、こんな辺境に1人で追いやられた私をこれ以上侮辱することが王子のすることでしょうか?!」
ウィリアムはいつもの大人しいマリーとは違うその物言いに驚いた。そして、少し考えてから言葉を絞り出す。
「……もう王子じゃない。」
「?!」
「俺もお前と同じだ。裏切られた。」
「?どういうことですか?」
マリーの質問に答える代わりににウィリアムは新聞を放り投げる。
「読め。」
そこに書いてあったのは信じられない事だった。
「第一王子が蘇った?!」
そしてそれだけではなかった。そこにはこうあった。
第一王子を蘇えらせたのは救世主の聖女たるエリザの、魔法によるもので、エリザは第一王子の婚約者になったと、言うとんでもない内容だった。
「……そして、第一王子を暗殺した第二王子を国外追放……」
「わかっただろ?今、俺がどんな立場にいるか。」
マリーはただ頷くことしか出来ない。
「まあ、追放されたついでにお前を拾ってやるって言ってるんだ。感謝しろよ?せいぜい遊んでやるよ。」
マリーは思った。こんな男に一生こき使われて終わるなんて真っ平ごめんだと。
「お断りしますわ。」
「は?」
「こんな結婚受け入れられません!」
「魔法もろくにつかえねーお前を拾ってやるんだ。感謝してついてこい。」
「……」
そう、私は魔法が使えない。
「ほら!もっとこっちこいよ?遊んでやるぜ?」
ウィリアムはマリーの腕を無理やり引っ張って引き寄せる。
「おやめください!」
「黙れ!お前は一生俺の玩具なんだよ!!」
そうウィリアムが叫んだ時、茂みからクマが現れる。
「「?!」」
クマはこちらを獲物だと思っているらしく、飛びかかってきた。
「きゃーー?!」
「っ!」
クマはウィリアムにその鋭い爪で一撃を食らわせる。ウィリアムが倒れると今度はマリーの方へと走ってくる。
いやだ!死にたくない!こんな男と一緒にこんな所で死にたくない!
そう思った時、ウィリアムがマリーを庇った。ウィリアムの背中にクマの爪が掠める。
「ウィリアム様?!」
次の瞬間、ウィリアムは炎の魔法でクマをあっという間に黒焦げにしてしまった。
「くそっ!」
「ウィリアム様!」
怪我をしたウィリアムにマリーが近寄る。
「これぐらい平気だ。気にするな。」
「助けてくださってありがとうございます。」
「……勘違いするな。俺は俺の身を守る為にクマを倒したんだ。それだけだ。お前を盾にすれば怪我しないでよかったのにな。」
「!」
ウィリアムの言葉はマリーの心に刺さった。そうだ。この人はこういう人なんだ。私のことなんてなんとも……。
ウィリアムは回復魔法で傷を回復する。魔法さえ、魔法さえ使えれば。そう、魔法がつかえればこんなに惨めな思いをしなくても済んだのかもしれない。そう思うと涙が零れる。
「!マリー?!」
気が付くと泣いていた。
「どこか怪我でもしたのか?」
「いえ、怪我などしておりません。大丈夫です。」
「……はぁ、お前はいつもそうだ。泣けばなんとかなるとでも思っているのか?ばかばかしい。弱者め!」
ウィリアムの罵声がマリーの心を貫いた。
ああ、神よ。どうして私には何もないの……?
そう思いながら彼の力に縋るしかないと思う自分を、マリーは殴りたくなった。