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孤星の抗戦  作者: 轟蓮次
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侵略者の目的2

響子が智之と初めて出会ったのは、数年前の大規模災害の夜だった。

地震の影響で都市部の一部が崩壊し、多くの建物が倒壊した。

救助活動が続く中、智之はボランティアとして現場に入り、自衛隊員とともに被災者の救助に協力していた。


「この先の瓦礫の下に人がいる可能性がある!手を貸してくれ!」


現場の混乱の中、智之が叫ぶ。

彼の足元には崩れたコンクリート片が散乱し、街路の一部が完全に寸断されていた。

そこで、防衛服を着た一人の女性自衛官が近づいてきた。


「あなた、民間人よね?ここは危険すぎる。いつ崩落して二次被害があるかわからないわ…避難を」


響子だった。彼女は冷静な表情で、周囲の状況を確認している。

だが智之は首を振った。


「この下に誰かいる。助けたいんだ」


響子は一瞬だけ智之の目を見つめた。

そして、短く息を吐くと、防衛班に指示を出す。


「こちらで瓦礫の撤去を急ぐ!全員、手を貸して!」


数人の隊員が響子の指示を受けて集まり、智之とともに瓦礫の除去に取りかかる。

時間が経過する中、ついに埋もれた人の姿が見えた。

響子はすぐに手を伸ばし、隊員とともに慎重に引き出す。


「大丈夫?」


か細い声で応答がある。

命は助かった。

智之は深く息を吐き、瓦礫の中で必死に手を動かした自分の手を見つめた。

その時、隣で響子が静かに言った。


「勇気と無謀は違うものよ。あなた、覚えておいて」


それが二人の最初の会話だった。

以降、彼らは連絡を取り合うようになり、響子は智之にとって「信頼できる自衛官」としての存在になっていった。

懐かしい記憶だ。

響子は端末の画面を見つめながら、深く息を整えた。

智之との通信を終えた今、彼女の手には侵略者の映像という決定的な証拠がある。

この情報を確実に届けるため、彼女はすぐに行動を開始した。


「解析はどうなっている?」


情報解析室に戻ると、田村は端末を睨みながら慎重にデータを分析していた。

他の解析官たちもスクリーンに映る映像を見ながら、情報の信憑性を確認している。


「映像の改ざんや異常なデータは見当たりません。情報は純粋な記録であり、敵からの干渉はほぼないと判断します」


響子は頷いた。


「つまり、この映像は本物ということね」

「ええ。これが本当に侵略者の姿ならば、我々が把握している情報とは全く別の次元の問題になります」


響子は腕を組み、考え込んだ。この情報を兄である冴島に渡し、政府の対応を促す必要がある。

しかし、それと同時に、侵略者側がこれを感知している可能性もある。


「田村、解析結果を即座にデータ化し、暗号化して送信する準備をして」


田村は指示を受けると、すぐに端末を操作し始めた。

データは強固な暗号技術を施され、政府内の防衛網へと送信される手筈が整う。

響子は、兄との次の通信の準備を進めながら、窓の外を見つめた。

今この瞬間も、侵略者は静かに動いているのかもしれない。

だが、彼女の任務は明確だった。


「この情報が政府に届けば、状況は変わるはず…」


彼女は静かに呟き、送信の準備が整うのを待った。


響子からの連絡を受け、冴島はデスクの上に散らばる資料を整理しながら、妹からの通信を待っていた。防衛省の会議室は深夜になっても明かりが消えず、職員たちはそれぞれの端末に向かいながら情報を集めている。

彼はすでに侵略者の動向に関する報告を何度も受け取っていたが、決定的な証拠が不足していた。

政府としては慎重な姿勢を取らざるを得ず、強硬策に踏み切るだけの根拠が不足していたのだ。

そこへ、響子からの暗号化通信が届く。冴島はすぐに受信し、解析チームへ指示を出す。


「響子からの映像だ。最優先で確認しろ」


防衛省の情報分析官たちは即座に反応し、端末を操作してデータを展開する。


「映像確認。異星生命体の姿が映っている…」


スクリーンに映し出された存在に、会議室の空気が変わる。

誰もが息を呑み、画面を凝視していた。

これまで未確認だった異星人の明確な姿、基地内部の異様な動き、それらが記録された映像だった。

冴島は腕を組み、映像を繰り返し確認する。


「この情報が真実ならば、政府の対応は根本から見直さなければならない」


部下の一人が冷静な声で補足する。


「映像の改ざんや異常なデータは見当たりません。信憑性は高いと判断されます」


冴島は深く息を吐いた。


「響子、よくやった。すぐに対策会議を召集し、この情報を首相へ報告する」


彼は端末を閉じ、立ち上がる。

今まで停滞していた政府の対応が、この情報によって加速する可能性があった。


「侵略者に関する初の決定的証拠だ…この一手を間違えてはならない」


彼は歩きながら、次の指示を考えていた。

政府はこれをどう動かすべきか。

慎重に、しかし確実に戦略を立てなければならなかった。


智之は静かな部屋の中で、通信端末を操作していた。

政府に提供した情報は響子を通じて冴島へ渡った。

しかし、敵の動きを考えれば、もう一つのルートを確保することが重要だった。

彼が次に連絡を取るべき相手——それは米軍所属の軍人ジョーンズだった。

ジョーンズは侵略者に関する独自の軍事情報を持つ立場にある。

政府とは異なるルートで情報を渡すことで、国際的な対策へと繋げる可能性があった。

智之は慎重に通信端末を操作し、ジョーンズとの暗号化回線を開いた。

信号が安定すると、短い電子音とともにジョーンズの声が響く。


「智之か?何か分かったのか?」


ジョーンズの声は低く、鋭かった。


「重要な情報がある。侵略者の記録だ」


ジョーンズは数秒沈黙した後、短く答えた。


「送ってくれ」


智之は端末を操作し、映像データを暗号化した上で送信する。

数秒後、ジョーンズの端末にデータが転送される。

彼は即座に再生し、画面に映し出された異星人の姿と輸送基地の記録を確認する。

映像の最後まで目を通すと、ジョーンズは息を吐いた。


「…これは想像以上だ。日本政府はどう動く?」


智之は小さく首を振る。


「俺が伝えたのは自衛隊の響子経由だ。政府がこれをどう扱うかはまだわからない」


ジョーンズは端末を操作しながら答えた。


「こちらの軍事司令部にも共有する。お前も警戒を怠るな」


智之は静かに頷いた。


「もし追加情報が必要なら知らせてくれ」


ジョーンズは短く答えた。


「了解。お前も気を付けろ」


通信が途切れ、智之は深く息を吐いた。

これで日本政府と米軍、二つのルートで情報を拡散できた。

だが、これがどのように動いていくかはまだ分からない——智之は静かに考えを巡らせながら、窓の外に広がる夜の闇を見つめた。


ジョーンズは深夜の軍司令部に足を踏み入れた。

冷たい蛍光灯の光が軍用端末の画面を照らし、室内には機密情報を扱う者たちの沈黙した気配が漂っていた。

彼はデータを確認しながら、上司であるブリッグス少将の執務室へと向かった。

ブリッグスは米軍の防衛戦略を担う高官であり、今回の侵略事案についても最前線で状況を把握しているはずだった。

彼の判断次第で、この件に対する米軍の対応が大きく変わる。

扉をノックすると、中から低く鋭い声が響く。


「入れ」


ジョーンズは深呼吸をし、端末を手にしたまま執務室へ足を踏み入れた。

そこには軍用デスクが置かれ、ブリッグス少将が端末を見ながら資料を整理していた。

彼は鋭い視線をジョーンズに向ける。


「報告があるならば簡潔に報告しろ、ジョーンズ」

「サー!イエスサー!重要な報告があります。コチラの映像をご確認ください少将」


ジョーンズは端末を軍用モニターに接続し、映像データを展開する。

「日本国内で撮影された侵略者の映像です。信憑性の高い目撃記録と、基地内部での敵の活動が記録されています」


ブリッグス少将は腕を組みながら画面に映し出される映像を見つめた。

そこには異星人の姿と、日本の輸送基地での異様な動きが映っている。

静寂が室内を支配し、画面の中の存在が不気味なまでに強調されていた。


「…この映像は改ざんされていないのか?」

「米軍の解析システムを通して検証済みです。改ざんの形跡はありません。日本政府もこの映像を受け取っているはずですが、対応は未定です」


ブリッグスは一瞬考え込み、端末を操作する。


「日本側はどう動く?」

「防衛省と自衛隊が対応を検討していますが、決断には時間がかかるでしょう。政府内部での調整も必要になります。侵略者に関する明確な情報が不足していたため、慎重にならざるを得ないようです」


ブリッグス少将は低く息を吐く。

「連邦側にもこの情報を共有する必要がある。日本の防衛体制がこれに対応できない場合、我々が支援に動くことも考慮しなければならない」


ジョーンズは静かに頷く。

「すでに米軍内部の戦略会議への提案を準備しています。ですが、こちらが介入するには、より詳細な情報と日本側からの要請が必要になります」


ブリッグスは端末を閉じ、ジョーンズの目をじっと見た。


「お前はどう思う?」


ジョーンズは慎重に言葉を選びながら答える。

「これまでの情報から判断する限り、侵略者は単なる攻撃者ではない。彼らの動きには目的がある。我々がそれを特定する必要があります」

「つまり?」

「侵略者の行動パターンを分析し、彼らが何を求めているのかを明確にすることが重要です。軍事行動を急ぐより、まずは情報戦を徹底するべきです」


ブリッグスは静かに頷いた。


「良い判断だ。我々は慎重に動くが、必要ならば即応する」


ジョーンズは敬礼し、指示を待つ。


「今後の指示をお願いします、少将」


ブリッグスは短く答える。


「お前は引き続き情報を収集しろ。日本側との連携も視野に入れながら、適切な対応を準備しろ」


ジョーンズは深く頷き、端末を手にしながら執務室を後にした。

日本の政府、米軍、そして侵略者——それぞれの動きが交錯し、事態はさらに複雑になっていく。

彼は歩きながら、次の行動を考えていた。侵略者の目的とは何か?その答えが、この映像の中に隠されているかもしれなかった。


読んで頂きありがとうございます。

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