侵略の幕開け5
この話には残酷な表現があります。
ご注意ください。
冴島が会議室を見回す中、再び発せられる警告の報告に耳を澄ませていた。
スクリーンに映し出される宇宙船とドローンの動きは、不気味なまでに整然としている。
人類はそれに対抗するすべを持たないまま、ただ押し寄せる敵意を感じ取るばかりだった。
「軍事的な行動はこれ以上控えるべきです」
冴島が冷静な声で提案した
「だが冴島、何もしないで黙って見ているわけにはいかないだろう」
国防高官が声を荒らげる
「暴発はさらなる敵意を引き起こすだけだ。侵略者はこちらの戦力を圧倒している。それが既に証明された今、無駄な行動は避けるべきだ」
「では、何をするというのだ?捕獲される市民をただ放置するのか?」
外交官が食い下がる
冴島は一瞬目を閉じ、深呼吸をした。
「敵の目的を見極める。それが最優先だ。彼らがこの地に降り立った本当の理由を理解しなければ、対策を講じても意味がない」
会議室に再び静寂が戻る。
しかし、その静けさは決して安堵からくるものではなかった。
冴島は冷静を保とうとしていたが、明らかな焦燥感が胸の奥で燻っているのを感じていた。
その時、再び通信機が鳴り響いた。
会議室に集まる者たちが一斉に振り向く。
画面に映し出されたのは、空港付近でのドローンの動きだった。
人間を捕らえたまま、宇宙船に向けて引き上げていく光景が映されている。
「これは…」
冴島の目が険しくなる
「彼らは捕獲した人々をどこへ連れて行くつもりだ?」
国防高官が呟く
「それが分かれば苦労しないさ」
外交官が不機嫌そうに言い返した
冴島は資料を閉じ、再び冷静な声で口を開いた。
「まずは市民にこれ以上の混乱を与えないため、正確な情報を公表する。そして、侵略者が何を狙っているのかを探る手段を模索する必要がある」
全員が彼を見つめていた。その視線には期待と不安が混じり合っている。
「我々は時間を稼ぎながら、次の一手を考えるべきだ」
冴島が断言する。
「あらゆる言語・方式で通信を続け、拐われた人々の解放と退去を求めるんだ」
一方、智之はネット掲示板で新たな書き込みを読みながら、次の行動を考えていた。
「ドローンの動きにパターンがあるようだ。特定のエリアを繰り返し巡回している」
「捕獲された人たちはどこへ連れて行かれるのか?」
その言葉に、智之の目が止まった。
「パターンがある…?」
彼は掲示板の情報を整理し、見逃していた可能性のある手がかりを探り始めた。
敵の行動に法則性があるとすれば、それを突くことができるかもしれない。
「まずは確証を得る必要があるな」
智之は窓の外に目を向け、静かに息を吸い込んだ。
闇に浮かぶドローンの影が、次のステップへの手がかりを隠しているかのようだった。
夜空には相変わらずドローンが群れをなして動いている。
その動きは一見ランダムに見えるが、ネット掲示板の情報を整理していくうちに、それが完全に無秩序というわけではないことに気付いた。
「一定の区域を繰り返し巡回している…」
彼はつぶやきながら、掲示板に投稿された目撃情報を地図上にプロットしていった。
ドローンが目撃された場所と時間を記録し、それらの位置を結びつける。
すると、徐々に規則性が浮かび上がってきた。
「この軌道は、特定の地点を中心にしているようだ」
智之はさらにデータを集める。投稿された情報の中から、ドローンが巡回するエリアに共通する点を探し出した。
交通の要所、通信施設、そして何かの輸送基地――それらが巡回エリアの中心に存在していることに気付く。
「輸送基地…まさか」
彼の脳裏に、一つの仮説が浮かぶ。侵略者がこれらの地点を戦略的に利用している可能性だ。
基地を拠点とし、捕獲した民間人をさらにどこかへ移動させるのではないか。
その目的を突き止めるには、現地での直接的な観察が必要だった。
智之は静かに息を吐いた。
彼は手帳を取り出し、次に向かうべき場所を記録する。
ドローンの動きは法則を持ち、侵略者の目的を示しているように見える。
この手がかりを元に、彼は次の行動を計画し始めた。
「まずは現地の様子を確認する。その後で判断だ」
小さく息を吐き出して背筋を伸ばし、覚悟を決めた。
ドローンの動きを解明することで、侵略者の本当の目的に迫れるかもしれない。
自分にできることは少ないかもしれないが、慎重に、そして臆病なくらいに用心深く進むべきだと自覚していた。
智之は夜の街へと歩みを進めた。
手にした地図には、先ほど割り出したドローンの巡回ルートが記されている。
しかし、その道を進む彼の周囲からは、人々の気配がほとんど消えていた。
街全体がひっそりと静まり返っている。
普段なら聞こえるはずの車のエンジン音も、話し声も、笑い声もない。
その代わりに耳に届くのは、遠くで響くドローンの微かな風切音だけだった。
「臆病であれ…慎重に」
小さく呟いた智之は、建物の壁際を歩くように注意を払った。
堂々と歩けば、すぐに目立ってしまう。
恐怖に駆られた人々は、すでに建物内に避難しているはずだ。
街の通りはまるで廃墟のように静まり返り、一人歩く彼の足音がやけに大きく響いていた。
一瞬、近くの窓からカーテン越しに人影が見えた。
だが、それもすぐに引っ込んだ。誰もが自分の安全を最優先にしているのだろう。
智之はその気持ちを理解しつつも、行動しなければならない自分の役割を思い出す。
目の前に広がる交差点で、彼は一瞬足を止めた。
そこはドローンが頻繁に巡回しているエリアだ。
地図に描かれた軌跡が示す通り、この辺りは特に巡回が厳重なようだ。
智之はポケットから双眼鏡を取り出し、慎重にエリアを観察した。
暗闇の中に浮かぶ小型ドローンの影が、一定のパターンで行き交っているのが見える。
「やはり、動きに規則性がある」
彼は息を呑み、周囲を見渡した。
次の瞬間、一台のドローンが急に高度を下げ、通りを低空で飛び始めた。
智之はすかさず建物の陰に身を隠し、その動きをじっと見つめる。
「慎重に…戦場を思い出せ…」
低空を滑るように飛び去ったドローンを見送りながら、智之は再びその足を進めた。
周囲の静寂が彼の神経をさらに鋭敏にしていく。
次のターゲット地点はもうすぐだ――智之は自分にそう言い聞かせながら、物音一つ立てないように慎重に歩き続けた。
智之は、輸送基地の外縁に到達した。
薄暗い夜の中、基地のシルエットが月光に浮かび上がっている。
その周囲には高いフェンスが設置されており、立ち入り禁止を示す警告板が無数に取り付けられていた。近づくだけで、これが通常の施設ではないことは明白だった。
彼はフェンスの陰に身を隠し、静かに双眼鏡を取り出した。
基地内部を観察すると、何台ものドローンが滑らかに動いているのが見える。
これまで見てきた巡回用のドローンとは異なり、ここにいる機体はより大型で、輸送機能が備わっているように見えた。
「やはり、ここが拠点か」
智之は低く呟いた。
ネット掲示板の情報と、これまでの観察結果が一致する。
この基地は、捕獲された民間人をどこかへ運ぶための中継地点として利用されている可能性が高い。
さらに視線を動かすと、施設の中央に大きなコンテナが並んでいるのが見えた。
その周囲では、小型の無人車両が行き交い、何かを積み込んでいるようだった。
「輸送計画…いや、それ以上かもしれない」
彼の背筋を冷たい汗が伝う。
侵略者はただ恐怖を与えるために人間を捕獲しているわけではない。
この基地で何らかの実験が行われている可能性を考えざるを得なかった。
基地の周囲をさらに観察していると、フェンスの内側を巡回するドローンの一つが急に動きを止め、こちらに向きを変えた。
智之はすぐに身を低くし、影に隠れた。
「気づかれたか…?」
ドローンは一瞬の間を置き、そのまま再び巡回を続けていく。
智之は心臓の鼓動を落ち着けながら、息を整えた。
「ここで無駄な行動はできない。さらに情報を収集する必要がある」
彼は慎重に立ち上がり、別の観察ポイントを探し始めた。
この基地の謎を解き明かすためには、できる限りの情報を集め、次の手を考えるしかない。
それがたとえ危険を伴うとしても、彼にはそうするしか道は残されていなかった。
智之は輸送基地を慎重に観察しながら、その機能について考えを巡らせていた。
目の前の施設は、外観だけでは侵略者の関与を示す兆候がない。
基地の看板には流通サービスを示すロゴが描かれており、建設の目的はおそらく都市間の物流の効率化だったのだろう。
しかし、ドローンが基地内を飛び回り、大型コンテナを次々と運び出しているその光景は、通常の流通業務とは異なる異様な印象を智之に与えていた。
「ただの捕獲と移送であれば、この動きは説明がつかない」
彼はつぶやきながら、さらに注意深く双眼鏡を動かした。
基地内には多くのトラックやコンテナが配置されているが、そのいくつかには侵略者の技術の痕跡が感じられる。
「流通基地に何を隠している?」
智之は周囲の巡回ドローンを確認しつつ、近づくタイミングを慎重に見極めた。
基地のフェンス外で動いているトラックの荷台には、通常の商品に混じって何かしらの異物が含まれているように見える。
その異物が侵略者によって運び込まれたものかどうかを判断するには、更なる調査が必要だった。
基地の様子を記録しながら、智之は次に取るべき行動を練っていた。
この流通サービスの基地が侵略者の行動にどのように関与しているのかを突き止めることで、侵略の意図を明らかにする手がかりを得られる可能性があった。
智之は息を整え、基地の裏手に回るルートを選んで移動を開始した。
その姿勢は低く保ち、影を利用しながら基地へのアクセスを模索する。
その先に何が待ち受けているのか、彼自身にも分からない。
智之は薄暗い通路を慎重に進み、ようやく輸送基地の内部へと足を踏み入れた。
周囲は静まり返り、不気味なほどに整然としている。
巨大なコンテナが並ぶその場所で、彼の目に飛び込んできたのは、小型ドローンが人間を運んでいる光景だった。
ドローンは空中に浮かびながら、人間を固定し次々とどこかへと運び去っている。
その動きは機械的で、ためらいが一切ない。
しかし、さらに奇妙なのは――運ばれている人間たちが一切の抵抗を見せていないという点だった。
智之は息をのむ。
「なぜ…」
彼は人間を観察してみた。
よく見れば彼らからは何らかの液体が滴り落ちている。
「あれは…血なのか?」
暗がりからでは目を凝らさないとハッキリとは視認できなかったが、目が慣れてくるにつれて見えだしたものは頭部を開かれ、胸部を引き裂かれた人体だった。
この異常な状況が示唆するものは何なのか。
一つの可能性が彼の頭をよぎった。
侵略者が捕獲した人間から、何らかの手段で脳や内臓を摘出している。
智之は立ち尽くしながら、ドローンが運び去る人々をじっと見つめた。
彼らがどこへ向かっているのか、そして何の目的でこの状態にされているのか、確かめる必要がある。
だが、それは危険な行為を伴うことを意味していた。
「この先に、答えがあるのかもしれない」
彼は拳を握りしめ、決意を固める。
震える体を自覚しながらも、次の手を打つべき時が来ていると悟った。
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