内情2
智之はジョーンズから受け取った情報をノートパソコンに入力しながら、深く思考を巡らせていた。
ジョーンズが語った異星人の現状――その詳細な内容はあまりにも信じがたいものだったが、それがもたらす意味を冷静に整理する必要があると考えていた。
情報の量と重要性に圧倒されながらも、一つひとつを精査していく。
「まず種族全体の人数が100万以下…この時点で驚きだが、実際に戦闘に従事するのはその中のたった10万人以下。戦力は過小。地球にとって脅威ではない可能性もあるが、油断は禁物だ…それに最期は玉砕覚悟で総力戦を仕掛けてくる可能性も否定できない」
智之はテーブルの上に散らばる資料を整理しながら、次の項目に目を向けた。
「資源が枯渇している。戦闘ドローンは老朽化が進み、整備不可能な状態。技術者の不足も深刻。これらを総合すると、彼らの戦争は持続的ではない。しかし、極限状態にある者ほど危険な行動を取る可能性が高い」
智之は情報をさらに深く掘り下げ、ジョーンズの言葉を思い返した。
「人体のDNAを利用して身体を改造し、この惑星に適応する――この目的のために侵略が行われた。これが彼らの最優先事項だ。戦争は手段に過ぎない可能性が高い」
彼は画面上にその結論を書き込む。
「侵略者の動機は生存本能。支配や征服ではなく、自らを存続させるための戦い。しかし、それが人類を脅かしているのは事実だ。つまり、彼らの動機がどうであれ、我々の選択肢は限られる」
智之はしばらくの間考えをまとめながら資料を見つめた。
そして、異星人の内部構造に関する情報に目を向ける。
「内部に反戦派が存在する――ジョーンズが直接接触した彼らは戦争を望まず、別の道を模索している。もしこの反戦派が影響力を持てば、侵略者の戦略そのものが崩れる可能性がある。しかし、軍部や指導層が反戦派を抑圧している現状では、これを利用するには慎重なアプローチが必要だ」
智之は深く息をつき、テーブルに手をついて資料をじっと見つめた。
「我々が彼らと対話を試みるべきか、それとも完全に排除するべきか。どちらも容易ではないが、後者を選ぶなら消耗戦になるだろうな」
さらに、異星人の母星消失の話を分析する。
「母星が消失し、彼らが漂流する状態に陥った。そして、他の住めそうな星には彼らより強い文明が存在していたため侵略を断念。地球を選んだ理由は、自分たちの条件に最も近い環境だったから――これが侵略の背景だ」
智之は眉間にしわを寄せながら呟く。
「数千年の歴史を持つ文明が衰退し、生き残るために戦争を選んだ。だが、その選択は計画性を欠き、不安定だ。人類が無計画にこれに立ち向かえば、我々自身が深刻な危機に陥る」
智之は画面を保存し、椅子に深く座り込んだ。ジョーンズが提供した情報の全てを分析することで、彼は新たな理解と重大な責任を感じていた。
「最終的には人類の存続と彼らの存続、その双方がどう折り合いをつけるかだ。戦うか、交渉するか――どちらを選んでも、我々は深刻な決断を迫られる」
智之はその言葉に続けて
「この情報を冴島さんにどう伝えるか。それが次の課題だ。それに彼らを実際にこの目で見ないことには自信を持って説明はできないだろうな」
と静かに呟いた。
翌日、智之は再びジョーンズと美深町の駅前で合流した。
ジョーンズはいつものように肩にバッグをかけ、どこか静かな決意を感じさせる表情を浮かべていた。
「準備はいいか?」
ジョーンズが軽く声をかけると、智之は頷いて答えた。
「ああ。お前の話が正しいかどうか、この目で確かめる必要がある」
ジョーンズは笑みを浮かべながら背を向ける。
「ついて来い。少し歩くことになるが、案内するよ」
ジョーンズの後に続き、智之は深い山道へと足を踏み入れた。
街のざわめきが遠ざかり、鳥の声と木々のざわめきだけが二人を包み込む。
急な斜面や生い茂る草木に足を取られながらも、ジョーンズは迷うことなく進み続けた。
「こ、こんな奥地に本当にいるのか?」
智之が疲れた声を上げると、ジョーンズは振り返りながら言った。
「ああ。連中はただ隠れているだけじゃない。俺たちには全く見えない迷彩技術を使ってる。気を抜いたら通り過ぎちまうぞ」
智之は半信半疑でその言葉を聞きながらも、ジョーンズの背中を追った。
自身とて日頃の訓練は欠かしたことはないのだが、やはり軍人のソレとは比べるまでもない。
帰ったら少し鍛えないとな…などと脳内で考えながら重くなりつつある足を動かした。
1時間ほど山道を進んだ後、ジョーンズが足を止めた。
智之は息を整えながら周囲を見渡したが、特別なものは何も見当たらなかった。
「ここか?何も無いようだが…」
智之が疑い深そうに尋ねると、ジョーンズは静かに頷いた。
「そうだ。周りをよく見てみろ。ただの木々に見えるだろうが、少し焦点を変えてみると違うものが見えてくる」
智之は眉をひそめながら周囲を観察した。
何度か視線を巡らせるうちに、奇妙な違和感を感じる部分があることに気づいた。
そこだけ空間が歪んでいるかのように見える。
「これが迷彩技術…?」
智之の声には驚きが混ざっていた。ジョーンズは少し得意気に頷いた。
「ああ。異星人の技術ってやつだ。これで外からは絶対に見つからないようになっている」
ジョーンズが一歩前に進むと、空間の歪みがはっきりと視覚化され、何かが浮かび上がる。
そこには、異星人の隠れ家と思われる簡素な建造物が姿を現していた。
あると言われなければまず気づかないだろう。
これがレーダーなどの何らかの探知装備に引っかかるならまだいいがそこをすり抜けられたらアウトだ。
防御シールドがマイクロ波で破れたことを考えるとそこまで万能ではないのだろうが。
智之は足を踏み出し、建物の中へと入る。
内部は外からの印象とは異なり、驚くほど整然としていた。
控えめながらも、異星人たちの技術が随所に光る設備が整っている。
その中で、数人の異星人が出迎えるように現れた。
彼らの姿はジョーンズが説明した通り、どこか怯えたような、だが誠実さを感じさせる態度だった。
「これがお求めの連中だぜ。言葉は通じる…話してみると良い」
ジョーンズが静かに語る。智之は彼らの目をじっと見つめながら、全身でその存在を感じ取っていた。
「ニュートラルな立場で話を聞きたい。お前たちが何を望み、何をしようとしているのか」
智之の言葉に異星人たちは互いに視線を交わしながら、ゆっくりと頷いた。
智之は数人の異星人を前にしながら、慎重に口を開いた。
彼の視線は彼らの挙動を鋭く捉え、同時にその表情や態度を観察していた。
異星人たちは一様に怯えた様子を見せつつも、こちらに敵意は感じられない。
「君たちは、ジョーンズが話していた反戦派というグループだな?」
智之が冷静な声で問いかけると、一人の異星人が小さく頷き、少し緊張した表情を浮かべながら言葉を発した。
「その通りだ。私たちは戦争を望んでいない。これ以上の犠牲を払いたくはないんだ」
智之はその言葉を確認しながら、さらに踏み込んだ質問を投げかける。
「だが、君たちは種族としてこの惑星を侵略する道を選んだ。それがどれほど人類にとって破壊的なものであるかは理解しているか?」
異星人のリーダー格と思われる者が少しうつむきながら答えた。
「理解しているつもりだ。我々の中にも、この選択が間違いだと考える者が多い。だが、追い詰められた我々にはもう後がない。指導部が決めたことには従うしかなかった…我々は君たちで言う民兵でしかない。訓練した軍人には抗いがたい」
智之はその言葉を聞きながら、ジョーンズの説明が正確であることを改めて認識した。
彼は続けて問いかける。
「君たちが戦争を望んでいないというのは信じたい。だが、それを証明するためには、君たちが具体的に何をしようとしているのかを知る必要がある」
異星人たちはしばらくの間視線を交わし、その後、リーダー格の者が再び口を開いた。
「私たちは対話を望む。ただ生き延びるために、この星を利用する方法を模索している。我々の中には、人類と協力して解決策を見つけたいと考える者もいる」
智之はその言葉に疑問を抱きつつも、少し希望を感じる。
「協力する解決策…それが具体的にどういうものなのか、君たちの計画を教えてくれないか?」
異星人は少し困惑した表情を浮かべ、
「私たちにはまだ具体的な案がない。ただ、戦争を続ければ双方が壊滅的な状況に陥る。それは避けなければならない」
率直な意見であると感じられた。
おそらく本心なのだろう。
彼我の戦力差や兵器群の技術的な差を考慮して「双方が」壊滅的な状況に陥るという考えも納得できる。
彼らは数に劣るが装備の性能は圧倒的に勝る。
人類は数に勝るが装備の性能は劣る。
戦いは数というが、相手に叩き込める鉄の量でひっくり返しうるのだ。
戦争が忌避されるのはそこも理由の一端と言える。
智之は黙り込み、異星人の言葉を深く考え込んだ。
彼らの窮状を知ると同時に、自分たち人類の未来への責任が重くのしかかる。
「ジョーンズの言葉は正しかった…だが、この状況をどう抗戦派に伝えればいい?」
智之はふと、先日冴島と交わした議論を思い出した。
冴島の強硬な姿勢を考えると、この情報をすぐに報告するのは危険かもしれない。
同時に、異星人の反戦派を完全に信じることにはまだためらいがあった。
ジョーンズが黙っていた口を開く。
「智之、どうするつもりだ?お前はこいつらを信じられるか?」
智之は深くため息をつきながら答える。
「俺個人としては信じたいと思うが、それには時間が必要だ。彼らが言っていることが正しいかどうか、もっと確かな証拠が欲しい」
ジョーンズは腕を組み
「それなら、もう少しこいつらと一緒にいるべきだな。彼らの言葉や行動を見れば、どこまで本気か分かるだろう」
と提案し、智之は頷いた。
「確かにそうだな」
と同意し、異星人たちに向き直った。
「しばらくの間、君たちの行動を見せてほしい。そうすれば、君たちの意図をより深く理解できるだろう」
異星人のリーダーは小さく頷き
「分かった。できる限り協力する」
と静かに答えた。
こうして、智之はジョーンズと共に異星人反戦派の現状をさらに観察し、より具体的な判断材料を集める決断を下した。
それは、人類と異星人双方にとって未来を決定づける重要な一歩となる可能性を秘めていた。
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