古事記に曰く
今回の話では妙な解釈をされかねないセリフがありますが、やましい意味は一切ありません。
古事記を引用しているだけです。
周辺の住民や観光客は、ゴランノホテルに避難していた。
もとよりそこまで遠いわけでもなく、ホテル側も急な事態で拒否するなどの対応ができなかったため、なし崩し的に避難民を受け入れていた。
レストランやエントランスのような、収容人数の多い大部屋だけではない。
廊下や階段まで、みっしりと人々が詰まっている。
彼らは避難を終えたことで『自分たちが危機的状況に陥っているが、助かる可能性がある』と認識していた。
だからこそだろう。怯えて縮こまり、震えることしかできない。
避難誘導を終えたヒロインたちも、完全にやることを終えてしまった。
何もすることがないからこそ、無駄に想像を巡らせることしかできない。
外の戦闘は、まさにスーパー級。
物理特化型の怪物を数十体まとめて吹き飛ばせるスーパー戦力以外では邪魔になるだけという地獄だ。
インフレ極まった環境についていける者が、この地にすでにいた、というのがおかしい。
普通ならば世界中からスーパーヒロインが集結するまでに、周辺一帯が壊滅して、住民も全員とっくに死んでいるのだ。
この十数分の間、生きていることがもう奇跡だ。
そのような環境下で、最上階近くのカフェにいる王尾綺羅綺羅は……。
少し青ざめながらも、椅子に座って開き直っていた。
「なんでこの短い時間で、二回も怪異に遭遇するのかしらね……それも怪獣とか。これもう、スーパーヒロインの妹に生まれるより希少な経験なんじゃないかしら」
「お前はずいぶん肝が据わっているな。私もさっきから震えが止まらないのに……前回の経験か?」
「まあね……」
怖いとは思っている。
スーパーヒーローの必殺技である『小型怪獣』がすでに四体展開されている。
それでもなお押されており、戦況が劣勢であることは遠目にも明らかだ。
自分を助けてくれた時は絶対に負けないという信頼感のある巨体が、今は子供ほどにしか見えない。
おそらく、救援がこのホテルに来ることはないだろう。来るとしても怪獣が倒された後だ。それがどれほど先のことなのか、考えるのもげんなりする。
それほどに狂った環境下であるが、それでも前回よりはマシだと彼女は踏んでいた。
一秒後に怪人が出現して、自分のことを殺そうとはしない。
それを意識せずにすむだけ恵まれている。
「じたばたしたって始まらないでしょ。ここは我らのスーパーヒロイン候補様と李広さんを信じましょう」
きっと大丈夫、何とかしてくれる。
王尾綺羅綺羅はあの工場の事件のあと、悪夢を何度か見た。
とても怖い夢だった。だが必ず李広がたどり着く。
彼が悪夢を終わらせてくれた。
トラウマとその解決がセットの悪夢だった。
寝ざめは悪いが、寝ることを恐れることはない。
きっと彼ならなんとかしてくれる。
信じていた。
だからこそ、対岸の火事ならぬ此岸の火事とわかったうえで、遠くの戦いを見ていることができた。
だからこそ、彼女は見てしまう。
怪獣が放った魔法攻撃らしき熱線が、小型怪獣をぶち抜いた。
それは減衰したものの貫通し、そのままの勢いでこのホテルへ……自分たちに向かってくる。
「 」
反応する余裕もない。
スーパー同士の戦いは、『近く』にいるだけでも危険だ。
このホテルは近すぎて、脆すぎる。
減衰したはずの怪獣の熱線は、そのホテルをあっさりぶち抜いて、そのまま地平線の彼方まで貫いていく。
それは何千何万もの命を一瞬で焼き尽くす、神話のごとき終焉の炎であった。
先ほどまでの善戦ムーブ、避難ができていたという雰囲気は消えていた。
ホテルはほどなくして倒壊し、ほぼすべての避難民が死ぬだろう。
より遠く……この観光地の外にあった街も焼かれた。
運よく免れた人々は、残された避難ルートを奪い合い、必死で逃げ散るだろう。
だが直後、一秒ほどの時間もなく、歴史が編集された。
焼き払われたはずの人々は、焼き払われたという記憶を持ったまま、先ほどまでの健在な体を見て戸惑っていた。
街も建築物も、なにもかも元通りとなっていた。
タイムマシンで過去を改ざんした、としか思えない。
破壊が修復されたとか、死んだ人間が蘇生されたとかではない。
因果関係が変動したという、怪獣以上の超常現象が発生していたと誰もが認識していた。
「……広さん」
死んだことを認識している綺羅綺羅は、あらためて外の戦いを見る。
彼ならなんとかしてくれるかもしれない。
だがそれは余裕綽々で成し遂げることではない。
スーパーを名乗る者たちが命懸けで踏ん張って、ようやく手繰り寄せる薄氷の勝利だ。
※
小型怪獣のうち一体が魔法攻撃によってぶち抜かれ、貫通され、その先にあった人工物は確かに破壊されていた。
だがすでに発生した事象に対して、介入する手段が十石にはあった。
「タロットカード……死神逆位置『確定した復活』。アクティブスキル、防御支援(極)!」
相手の攻撃が成立した後で、自分のバフを介入させるというカードゲームのごとき力。
十石の防御バフが貫かれた小型怪獣に命中し、その防御力が何倍も高まっていた……ということになった。
この怪獣は攻撃に屈さなかったということになり、周辺への被害もなかったことになった。
スーパーならざる十石翼は、しかし何千何万もの命を救ったのだ。
「ま、間に合ったようです……!」
それを彼女は理解している。
小型怪獣たちの防御魔法に守られつつ、飛翔している須原紅麻の背中に乗る十石翼は、すっかり青ざめた顔をしていた。
「よくやってくれたわね。今のは……本当に手遅れになるところだったわ」
「ちらっと見た感じだと、地平線の彼方まで届いてたぞ。こんなん、地球の裏側に逃げなきゃ安全じゃねえ……」
異世界にて経験を積んだ三人であったが、さすがに怪獣同士の戦いに参加するのは初めてだ。
戦闘の範囲が広大すぎることに、今さらながら震撼する。
須原紅麻は山のあった場所の上空にいるため、とても広い視界を確保している。
そのすべてが怪獣の有効射程距離であり……それ以上の可能性すらあった。
その被害を最小限に押しとどめている小型怪獣たちの奮戦ぶりがうかがえる。
彼らが頑張っていなければ、この視界全てがとっくに焼き払われているのだろう。
本当に、未体験の重荷だ。
こんなたくさんの人命を背負う経験などない。
「如何しますか? このまま防御バフを撒いていても押し込まれるだけ。それならば攻撃バフで押し戻すべきでは……」
「成功しても大してダメージが見込めないし、失敗したらどうするの!? ここは耐えるべきよ!」
「そうだな……今は耐えるしかねえ。そろそろ救援が来てくれるはずだ……」
改めて、三人は思い知る。
この戦場を何度も潜り抜けた、真のスーパーヒロインたちの強さを。
※
同刻、人工島。
怪獣の出現を察知した瞬間から、全ての通常業務は強制的に終了していた。
人工島内に存在する最新鋭の原子力発電所の電力は、全て『発射機関』に注ぎ込まれている。
「目標! 国内、××××山! 現在も怪獣同士の戦闘は続行中! 鈴木他称戦士隊、およびコロムラらしき戦力が防衛に参加しています!」
「先ほど市民に大きな被害が出ていましたが、修正されていました! おそらく十石翼の力と思われます!」
「奇跡的なほどに周辺被害は少ない……ですから普段以上に射線には注意を!」
「電磁式カタパルト、電力供給中! 装弾数『4』! 繰り返す、装弾数『4』!」
「スーパーヒロイン土屋香、対怪獣兵器『ヤタガラス』! スーパーヒロイン鹿島強、対怪獣兵器『カミカゼ』! スーパーヒロイン近藤貴公子、対怪獣兵器『サキモリ』! および……」
「弾道計算、チェックいそげ! 現在飛行中の航空機へ警告!」
人工島の最重要設備、発射機関。
それは通常、そそり立つ塔の姿をしている。
本質は砲塔。人類最強の兵器であるスーパーヒロインを、地球上のあらゆる現場へ到達させるための発射機構。
原子力発電所一個分の電力によるリニア機関を動かし、カタパルトを以て極超音速でヒロインを装備ごと発射する。
年に一度、必ず使用されてしまう究極の切り札だ。
『……怪異対策部隊、総司令官が許可します! 電磁式カタパルト! 発射!』
かつては自らも射出されていた総司令官が、覚悟と決意を以て送り出す。
空気摩擦によって文字通り火の玉となった四発の『弾』は、今も奮戦を続ける最前線に送り出されていた。
※
流星とは、大気圏に突入してくる宇宙の塵だ。
大気との摩擦で燃え尽きるものだ。
流星のように燃えながら空を駆ける四発の弾。
それは人間の英知と勇気そのもの。
目標地点付近の上空では音速程度に減速していたそれを、ホテルの屋上から見上げる少女がいた。
「やっぱり四発……!」
大した助走もなく、その少女は上空へ跳躍する。
高速で、しかしまっすぐに飛ぶその弾と合流した彼女は、当然のようにそれを掴んだ。
「対怪獣兵器『ヤマト』!」
普段着の彼女は、自分のために作られたバーニア付きの槍を掴んだ。
スーパーヒロイン候補生である彼女は、この兵器の向かう先についていくつもりであった。
その時、装備に録音されてた音声が流れる。
『五等ヒロイン、王尾深愛さん。貴方がこの音声を聞いているということは、この戦いに参加するつもりなのでしょう』
「総司令官!?」
『であれば……総司令官、森々天子が許可します。スーパーヒロイン、王尾深愛! 怪獣退治の任務に参加することを命じます!』
少し前の自分なら、感慨を覚えるはずもない、受けて当然の地位だった。
だが今の彼女は、李広や他の先達と並ぶ地位に就くこと、戦いに参加できることに感動してしまう。
涙が大気摩擦で蒸発する速度の中で、彼女は泣きながら魔力を燃やしていた。
「ええ……絶対に勝って見せます!」
※
小型怪獣が怪獣の出現をなんとか押しとどめている現状。
しかしそれでも怪獣は穴から頭を出そうとしていた。
巨大な角、らしきものが出てくる。
頭、に相当する部位が見えてくる。
進行が進むたびに、怪物の射出や魔法攻撃の頻度が上がっていく。
これ以上押しとどめられない、決壊する。
そうなれば何もかも終わる。避難させていた人々も、今度こそ助からない。
見渡す限りの街並みが崩壊する。
まさにあと一瞬で、それが起きる。
その時であった。
流星となっていた四人のスーパーヒロインが現着したのである。
「俺が来たからにはもう安心だ! 決めてやるぜええええええ!」
スーパーヒロイン土屋香専用対怪獣兵器『ヤタガラス』。
それは両腕に装着する、彼女自身よりも巨大な二丁拳銃。
グリップのない巨大なリボルバー拳銃ともいうべき変態兵器の発射口からは、超巨大な弾丸が機関銃のように連射される。
噴出し続ける怪物の群れの勢いをそぎ、むしろ穴に押し返していった。
「みんなが必死になって守った人々……絶対に守り通して見せる!」
スーパーヒロイン鹿島強専用対怪獣兵器『カミカゼ』。
超巨大な遠隔操作型の魔力丸鋸であり、彼女の魔力を受け止めるだけの強度と出力を誇っている。
巨大な魔力の刃を出しながら超高速で回転する丸鋸は、遠距離操作用の魔力の意図に導かれ、勢いを失っていた怪物の群れを肉片に変えながら切り裂いていく。
「もはやマクラは不要! いきなり本題に入らせていただきます!」
スーパーヒロイン近藤貴公子、対怪獣兵器『サキモリ』。
ヤタガラス同様、両腕に装備する二つで一対の武装である。
だがその構造は、兵器と呼べないほど単純だ。
魔力を込めると推進力を生む特殊合金でできた、巨大な円柱。
それにグリップがついているだけという、巨大な彼女にふさわしい破城槌。
それを純粋に、音速の勢いそのままに、自分ごと一気に飛び込んでいく。
ヤタガラスとカミカゼで打ち崩されていた怪物の群れを一気に爆散させ、四方の小型怪獣たちの怪奇現象内に四散させていく。
もちろん生存できるわけもなく、瞬く間に消滅していった。
「土屋さん!? 来てくれたんですね!? すげえ助かりました!」
「へへへ! スーパーヒロインなんだから当然よぉ! 俺はすごくて偉いからな、こんな戦場は何度も経験しているぜ!」
「頼もしいい~~!」
「僕は!? 僕もいるんだけど!?」
「私のことを無視しないでください!」
日頃の行いが悪いので無視される二人。
そしてがら空きとなった怪獣の脳天へ、最後の流星が迫る。
「十石さん! 私に支援を!」
「分かりました! タロットカード……戦車逆位置『敵将首取り』、星正位置『手を伸ばせ』。アクティブスキル、攻撃支援(極)!」
「フレグランス!」
超強化された、王尾深愛専用対怪獣兵器『ヤマト』の一撃が直撃する。
怪獣に大ダメージを与えられないまでも、その体を大きく戻すことに成功していた。
「広さん! ここからは私もお力になります!」
「王尾……頼もしいぜ!」
「今まで訓練していただきましたから。その恩義に報いますわ!」
「僕への反応と違いすぎるよ!」
「これは訴訟案件ですね! あとで法廷で会いましょう!」
「仕事中にケンカしてるんじゃねえよ。まだまだ相手は元気いっぱいだぜ?」
攻撃要員が四人も出現したことで戦況は好転した。
今までは押し出されながらも耐えるしかなかったが、押し返すことができるようになっていた。
それでも足りているとはいいがたい。
怪獣は弱ったようにも見えず、浮上を再開してくる。
『あらん限りの状態異常を叩き込んでいるが、格の差もあって一気に戻っていく……このままではどのみち長く持たんな』
『だが一呼吸できたのは幸運だ……増援がさらに来るぞ』
「お? な……!?」
怪物の流出が収まったことで、迎撃に当たっていたコロムラたちも最前線に上がってきた。
とはいえ怪獣と戦えるほどの実力者は二人だけ。
殺村半殺と殺村紫煙が、さっそうとスーパーヒロインの隣に並び立つ。
「紫煙……貴方ですか。まさかこのタイミングで私に再挑戦を?」
「まさか。前回見逃してくれた借りもある。それに一回ぐらいは君と肩を並べて戦いたいんだよ」
「今は猫の手も借りたいところです。死ぬ気で戦いなさい」
「もちろん! 君を失望させないよ」
「仲が良くて結構ですね。とにかく、コロムラの代表代理として参戦を表明します。私と紫煙……それから、もう一人。希望者がいたもので」
飛翔している須原のすぐ隣に、怪奇現象をまとって浮遊する少女が現れた。
反重力か低重力か。
いずれかの作用によってこの地に現れたのは、殺村紫電。
実力が不十分であることは明らかだったが、意気込みを持って李広と並び立っている。
「紫電……生きてたのか!? 正直、ちょっと諦めてたんだ……! それになんか、怪奇現象をまとってるし……強くなったな!」
「なんでそんなに嬉しそうなのよ、スモモ! きもいわよ!? 本当に!」
「お前が強くなってて生きてるだけで嬉しいんだよ。本当に……よかったな!」
「何が!?」
「お前、前に言ってただろ。俺が悪いんだって……俺を殺しておばあちゃんのマジックコンバットナイフを取り戻すって……その約束があるから、俺も頑張ってたんだ。全然柄じゃないのに、スーパーヒーローをやってたんだ……。それで、前のことがあって……だからその、心が折れたとか、死んだとか……弱いまま強くなれてないとか……」
「要領を得ないし、本当にキモイわね。黙って戦いなさい……アンタ、弱いんだから。私が守ってあげる」
「ああ! 一緒に戦えて、なんかこう、猛烈に嬉しいぜ! 頑張ろうな!」
(やっぱりコイツ、鹿島さんに似てるわね……)
(お気づきではないようですが、貴方も広さんにとても良く似ていますよ)
お互いがお互いをモチベーションとする幼馴染がそろっていた。
温度差は著しいが、闘志は燃え上がっている。
いよいよ第二ラウンドを始めるか、という時であった。
『頃合いだな……』
小型怪獣たちが、そろって雰囲気を変えていた。
『スモモ・ヒロシ。よく聞け。これから我らの真の力を開放する』
「なんだ? は? そんなもんあったのか!? なんで使わなかったんだ!?」
『必要ないと思っていたのだ! だがこうなっては、使わないわけにはいかん! しばらくの間、我らは何もできなくなるが、一旦完全に開放すればお前はスズキ・イチジクや勇者と同等の力を行使できるようになる!』
四体がそろって、まったく同じことを言っている。
異口同音どころではない、まったく同じ発声をしている。
『我らはもともとアメノミハシラという樹だった! だが強大すぎる力が人間の悪影響になると思い、四つに分散していた! だからこそ一つに戻り本来の力を取り戻し、そのうえでお前の武器になる! 勇者の剣のようにな!』
「ちょっと待ちなさいよ! アンタたちが何もしないってなったら、この戦場を維持できなくなるわよ!?」
『問題ない! ユグドラシルとその代理人が来る!』
須原が懸念を申し上げるが、それを否定する最強戦力が到着する。
これから李広が手にする力をすでに得ている、世界最強の連続殺人鬼が最前線に到達した。
「ユグドラシルから話は聞いているよ。広君のご両親を守るのは友達と交代してきた。だから安心して戦おうよ」
人切り包丁を手にした、ジャージ姿の性別不詳の魔人。
だれよりも恐ろしく、しかし誰よりも頼もしい異常者が、小型怪獣四体の代理を務めると請け負っていた。
すでに彼の元へ、八つの『情報』が向かってきている。
あれが到着次第、彼は以前のように戦うのだろう。
『スーパーヒロイン、コロムラ、スズキ。しばらく預けるぞ。では……』
オオカグツチ、オオワダツミ、オオハニヤス、オオミカヅチ。
今まで踏ん張っていた四体の小型怪獣は一気に虚脱し、小さな人魂となって上昇し始めた。
押しとどめられていた怪獣は、一気に顕現する。
それはやはり、ユグドラシルによく似たシルエットをしていた。
怪獣を初めて見た者たちは呆然とする。
それは『樹』の形をしていた。
木以外の素材による樹のオブジェ。
そう表現するしかない。
加法混色の極み。
あらゆる色や素材を混ぜ合わせた結果到達した、真の暗黒混沌。
異様なる樹は、角のごとき枝を揺らしながら首を鳴らす。
そして……あらゆる感情をないまぜにしたかのような、結果としてなんの意味も持たない咆哮を放った。
ただの攻撃である。
だがそれは先ほど、小型怪獣を貫き、ホテルを崩壊させ、その先の市街を焼き払った熱線を越える力を持っていた。
この場のスーパー戦力が総動員されても防げない一撃。
その発射口の前に、鈴木無花果が躍り出る。
伝説の樹の代理人、布教ノ王。
その包丁が真っ向から受け止めていた。
「させないよ」
同等、同格!
先ほどまで四体の小型怪獣ではできなかったことを、この殺人鬼は成し遂げている。
さすがに押し切ることはできていないが、それでも拮抗状態に持ち込めている。
真正面から戦える戦力がいるのなら、この戦いにさらなる勝算が生まれる。
まして、同格がさらに一人追加されるとなれば……!
「う……」
その場の戦力が期待のまなざしで李広の方を向いたとき。
彼の背後には巨大な『樹』が現れていた。
怪獣と同等のサイズを誇る、小型ではない怪獣そのもの。
その姿は……一目でわかるほど『地球』だった。
海が見える、大陸が見える、雲が見える。それらそのものが輝きを放っている。
宇宙から見た地球という星を、ねじって樹の形にしたかのような、そんな怪獣であった。
『我こそはアメノミハシラ……時に元素の樹、エレメントツリーとも呼ばれることもある』
その場に二体の怪獣が同時に出現するという異常事態。
しかしその安定度合いは明らかに違っており、理性的に意思を伝えてきていた。
混沌の怪獣は地球の怪獣に反応し、攻撃を仕掛けようとする。
しかしそれは、やはり伝説の樹の代理人によって妨げられていた。
『本来ならば、我らが代理人を選ぶべき時ではなかった。お前が知っての通り、イレギュラーな事態であった』
その時である。
伝説の樹のメジャールールが発生し、全世界に光の帯が広がった。
布教ノ王の力によって、全人類の脳に『勇者の相棒、スモモ・ヒロシ』の戦いが注ぎ込まれる。
たった一人の勇者と共に、小型怪獣と戦い調伏していく記憶であった。
痛ましくも輝かしい記憶であった。
『環境の激変によって人類が滅びかけたとき』
『人類の再興を担いうる者に』
『惑星の環境を掌握、編集する力を授ける』
『それが我が役割であり、代理人の成すべき使命』
『必要もなくこの力を人に授けることはできない』
『この力は滅びかけた環境を正常に戻すこともできるが』
『世界のすべてを砂漠に変えることも』
『海に沈めることも』
『嵐を起こすことも』
『大気を消し去ることも』
『意のままにできるようになる』
『何度でも、何度でも繰り返せるようになる』
『持った力は使わずにいられない。それが生き物の性』
『だがお前なら……力を使うことに飽きたお前になら、安心してゆだねられる』
地球の怪獣の前に、とても小さな光が現れる。
それは刃のある金属、しかし剣そのものではない。
刃のある鞘。本来の用途からすれば矛盾した存在が、完成の時を迎えようとしていた。
『さあ、宣え』
小さな鞘に、地球が吸い込まれていく。
神の器として加工されたそれは、しっかりと受け止めきり、溜め込んでいた。
元素の一切を封じ込められた万能の刃が、ゆっくりと李広のもとへ降りてくる。
全人類が見守る中、李広は脳裏に浮かんだ言葉を宣う。
「汝が身は如何にか成れる」
鞘は答える。
『吾が身は、成り成りて成り合はざる処一処あり』
代理人はリンポを掲げ、その鞘を受け止めようとする。
「吾が身は、成り成りて成り余れる処一処あり。故、此の吾が身の成り余れる処を以ちて、汝が身の成り合はざる処に刺し塞ぎて、国土を生み成さむと以為ふ。生むこと奈何」
刃のある鞘が納まった。
『然善けむ』
その瞬間、光の帯が発生した。
鈴木無花果や勇者が放つように、それは境界線を持つことなく地球という星を包み込んでいく。
「王剣神樹アメノミハシラ! 完 全 開 放! メジャールール、国造の日布令!」
召喚更新
強度 4→5
名称 四神→アメノミハシラ
属性 八元素→創造
位階 ハイエンド→トップシークレット
種族 古代神→神樹
依代 魔剣リンポ+刀身メイス
更新情報
メジャールール、国造の日布令
神産み
創成の樹アメノミハシラの代理人。建国ノ王李広が誕生したのであった。
メジャールール、国造の日
能力説明
常態変化。
惑星の環境を好きなように調節できる。
人類が本来持つ最大最強の力にして、一個人が持つことを許されない力。




