噂をすれば
怪異対策部隊、本部、人工島、総司令官室。
人工島における深奥部であり、幻想的状態異常を重複して発症した総司令官をかくまうための隔離部屋。
現在そこには、三人のスーパーヒロインが集結していた。
『俺は偉い、俺はすごい! 俺はとっても活躍してる! ん……お!? なんだあいつら……!』
『土屋さん!? 助かりました~~!』
『土屋さん……』
『土屋先輩!』
『よう、広! 鹿島! 近藤! なにまとまって落っこちてるんだ? まあいい、助けてやるぜ!』
「はああ~~俺の人助け動画、超、再生されされてるう~~! さすが俺! 世界中から注目されてるな!」
なお、現役スーパーヒロイン土屋香はオンラインで動画サイトにアクセスし、自分が投稿した自分の活躍している動画を視聴しつつコメントや再生数を見て悦に浸っていた。
(身内の恥が、身内によって解決されて、そのまま全世界に配信されている……)
イヤホンなどを使わず普通に大音量で聞いているため、総司令官はすっかり青ざめていた。
ちなみにだが、配信されている動画を見た人々のコメントは……。
いったい何があったら、この三人がまとまって落っこちてくるんだ?
というそもそもの疑問をぶつけてくるものであった。
全景を把握している総司令官をして『分かるわけがない』と呆れる内容なので真実にたどり着く者は一人としておるまい。
なお、たどり着かれなかったとしても、恥であることに変わりはない模様。
「はあ……広君と一緒に旅行に行きたかったなあ……せめて怪獣が先月とかに現れていればなあ……」
割とシャレにならないことを言って、涙目の鹿島。
そしてそんな彼女を足元に置く形で、近藤がとんでもないことを言う(平常運転)。
「マクラから入らせていただきます……女性の漫画家が書いた、レ〇カップルの〇ン堕ちの漫画が読みたいです! 鹿島先輩や鹿島派を見ているとなんか違うなあ、と思っていたら読みたくなりました!」
「それを私たちが知っていると思うの?」
「知らないかもしれません。ですがこれは必要なことなのです! 思ったことは口にするべきなのです!」
この場に四人しかいない状況で質問をされたことにより、気を悪くしている総司令官。
しかし近藤はひるまなかった。
「先日の情報拡散では、若き日の広君の活動も知られました。確かにアレはアレで美談でしたが、本人が自覚しているようにコンプライアンスには違反していましたね。アレを見て失望したという声も少なからずあります。普段が模範的な姿勢であるため、ギャップに苦しむファンも多いのでしょう。そういうのは悪質なファンになりがちです。なのでそれを避けるために! 等身大の私を告知する必要があるのです!」
巨躯を誇る彼女は、それ以上に精神的な等身大を主張していた。
今この場で主張しても意味がないと思う総司令官であった。
黙っていてほしい、という等身大の悩みをぶつけたくなっていた。
「では……もしも発見したときはご連絡を。そのうえで本題に入らせていただきます。広君への待遇改善は、どのようにお考えですか?」
(とりあえずあなたと鹿島さんへ接触禁止を命じたいわね)
身近なところから環境改善をしようか悩む総司令官は、しかし気分を切り替えて本題へ返事をする。
「総司令官である私が判断できる範囲では、環境改善は可能よ。今の彼と須原さんがいれば、安全圏からでも仕事はできる」
現在李広がやらなければならない仕事は二つ。正しくは彼にしかできない仕事が二つ、であろう。
一つは怪物を状態異常によって無力化し、安全に捕獲して持ち帰ること。
これは(ある程度近い距離にいることが前提だが)小型怪獣の力を他人へ貸与できることが判明したため、鹿島派や須原のような実力のあるヒロインがいれば彼が最前線に行く必要はない。
もう一つは小型怪獣によって新人ヒロインを教導すること。
これはもともと近くにいなくていいので、最初から問題ではない。
よって、現在彼の両親が争点としている『息子が大けがをしないようにしてほしい』という願いは……総司令官がどうにかできる範囲のことなら、実現が不可能ではないのである。
問題はそこから先のことなのだ。
「問題は怪獣退治。彼は名実ともにスーパーヒーロー……怪獣と戦う義務がある。怪獣と戦うとなれば安全は保障しかねるし……彼が怪獣と戦うか否かなんて、私にも決める権利がない」
怪獣。
年に一度現れる、究極の怪異。
一説ではすべての怪異の根源とされる。
世界中のスーパーヒロインが結集しなければ倒せない……スーパーヒロイン以外では参戦すら許されない究極の敵。
逆に言うと、怪獣が現れた場合には、全世界のスーパーヒロインが集結している。
どこの国や地域であったとしても関係ない。
各国の怪異対策部隊に所属していない場合や重傷であったり引退している場合は違うが、基本的にスーパーヒロインは怪獣が出現すれば出撃しなければならない。
スーパーヒーローである李広も、ほぼ同じ扱いを受けることになるだろう。
だろう、というのは、実際どうなるかは議論の余地があるからだ。
「私の昔の仲間も意見が割れているのよ。『彼は唯一の人材なので、安全な場所に置くべきだ』という人もいれば『彼は最強の戦力なのでぜひ参加させるべきだ』という人もいるわね。そしてどちらも、ほら……すごい本気よ」
今日のご飯はポークカレーがいいのか塩ラーメンがいいのか、というレベルの低い話ではない。
双方がものすごい熱気をもって、喧々囂々に意見をぶつけ合っている。
なにせどちらを選んでもメリットがでかい。
彼がいなければ石化解除薬をはじめとする、革新的な技術を開発することができない。
また李広の飼う小型怪獣との訓練により、王尾深愛は実戦前でありながら高い技量を獲得している。
世界中のスーパーヒロイン候補があの訓練を受ければ、死傷率は大幅に下がるだろう。
そんな彼にもしものことがあれば、人類全体の損失である。
一方で、彼の飼う小型怪獣が人類最強の戦力であることは明白だ。
彼を怪獣との戦線に投入できれば、民間人や国土への被害を大幅に下げられるだろう。
それを投入しないなど愚の骨頂、そっちの方が人類全体への損失である。
「彼の存在が大きすぎて、出す場合と死んでしまった場合の影響が大きすぎるのよ。意見が通らなかった結果損をした側が、戦争をしかねないほどにね。彼を戦線に投入しなかった結果、我が国に甚大な被害が出た。今後は貴国に怪獣が出ても救援に向かわせないとか……ありえていたわ。でも……」
日本の政治家たちも頭を抱えていた。
二つの選択肢のうちどちらを選んでも、世界の半分を本気の敵に回しかねないのだ。
だがそれも、鈴木他称戦士隊が知られるまでの話である。
「鈴木他称戦士隊と広君がいれば……日本単独でも怪獣を倒せるんじゃないかって仮説があるのよ」
いかに小型怪獣が四体いても、本物の怪獣を倒すには戦力が不足している。
四体の小型怪獣<怪獣≦世界中のスーパーヒロイン
という数式があったからだ。だがここに鈴木他称戦士隊が加わると……。
四体の小型怪獣+鈴木>世界中のスーパーヒロイン≧怪獣
という数式になる可能性があったのだ。
これがもしも本当なら、日本は継続的に独力で怪獣を倒せるだけの戦力を保有できるようになっている。
仮定まみれの仮説だが、そう思わせるほどに鈴木無花果は強かったのである。
その場合、日本と敵対的になることはデメリットの方が大きい。
可能性があるだけで抑止力になる。抑止力とはそういうもんである。
「日本政府からも……鈴木他称戦士隊を戦線に投入しろって声とか、彼らを管理下に置けって声もあるんだけどね……無茶言わないでほしいわ」
ちなみにだが、鈴木他称戦士隊の活動資金は怪異対策部隊の李派がお給料で賄っている。
なので資金の流れとして怪異対策部隊と紐づいていると言えなくもない。
なお命令権は全くない模様。
「そういう難しい話よりも、彼個人の話をしましょうよ! 最大の問題は広君が死にたがっていることです!」
「……本当にね」
「どんな理屈を並べても、幼馴染に切り殺されたいっていうことが問題じゃないですか! そこを解決しないことには、彼にどんな仕事させるかなんて意味がない!」
熱く語る鹿島と、疲れた顔の総司令官。
これを解決しなければ、やはり李広に未来はない。
「やはり愛! 愛しかないですよ! 僕たちが彼の疲れた心を癒し、温めて、生きる理由を作らないと!」
(本当にそうだから困る……)
普通なら愛で解決なんて鼻で笑うことだが、本当に愛で解決するべき案件であった。
「僕たちは産みますよ! それはもうたくさん! 彼もきっといいお父さんになってくれます!」
(本当になりそうなのよね……)
普段の李広を知る者からすれば意外だったが、彼は意外と情の深い男であった。
その相手がここにいないというだけで、一度大切にすると決めたら強い父性をもって大事にするとわかった。
それを知って一番喜んだのは彼の両親であるが、鹿島も近藤も喜んでいた。
喜びすぎて一緒にダイブするほどだった。こんな『喜びすぎて』なんて言葉の使い方はしたくないほどだ。
「問題なのは鹿島先輩も私も嫌われているということですね」
「素で言わないでくれる?」
「一番芽があるのが土屋先輩らしいですが、土屋先輩が広君と結婚というのは想像できませんね。したくないという私情を抜きにしても、です」
まったくもって、なんでこんな話をしているのかわからなくなってくる。
だがそれも仕方のないことだ。
なにせ彼女らは待機中、暇なのである。
ーーー怪獣は、年に一度現れる。夏に現れるとか昼に現れるとか、決まった法則は存在しない。
12月31日に現れて、次の年の一月一日にも再出現する、なんてバカなこともない。
しかし怪異が発見されてから百年が経過して、一年に一回怪獣は現れるという前例は覆ったことがない。
現在世界にとって、怪獣が現れないということは必ずしも吉報ではない。
現れなければ現れないほど、緊張感が高まっていくのだ。
『総司令官、報告です! 監視衛星により、大規模な怪奇現象が観測されました!』
「きたわね……どこから!?」
『日本です! 細かい場所ですが……え?』
緊迫した情報をもたらしていた職員だが、一瞬言葉を失った。
それほど衝撃的な場所だったのである。
「どうしたの!?」
すでに臨戦態勢に入っていた三人の現役スーパーヒロインは、すぐに『発射場』へ向かおうとしていた。
しかしその三人すら足を止める情報がもたらされた。
『××××山です……!』
運がいいのか悪いのか。
怪獣に対抗しうる戦力がそろった地に、怪獣が出現したのだった。




