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情報整理回

 須原紅麻。

 李派……李広を勝手に守る会ノンオフィシャルファンクラブ追跡者(ストーカー)のメンバーであり、少なくとも李広のそばにいる者としてはリーダー的なポジションにいる。

 怪異対策部隊は彼女を窓口としており、広へ直接話をするケースは減っている。


 はっきり言うが、会議も基本的には仕事であり負担だ。

 ただでさえ李広には多くの負担があるのだから、彼がいなくてもいいことは彼女を通すことにしている。


 その彼女は、スポンサーである外国人男性とともに、総司令室に入っていた。


 現在この場には三人しかおらず、それなりの機密状態が保たれている。


「手短に話そう私はスポンサーだ。李広君のご両親と共にこの島に来たのだがね、現在は別行動をしている。あの二人はその……李広君が楽しそうに冒険を語っているところを見て、親として頷いていたからね。野暮だと思って抜けてきたのさ」

「あ~~勇者と冒険した話ですか。長いんですよね~~……微笑ましい話ですけど」

「それが一番だよ。スーパーヒーローとはまた違うが、立派な大人の男性の話だったね。ご両親もさぞほほを緩ませていただろう。ふふふ」


 スポンサーの肝の座りようはただ事ではなかった。

 総司令官は言うに及ばず、須原の化け物じみた姿を知ってなお平然としている。

 彼もまた優れた人間であることは、堂々たる振る舞いだけでわかるだろう。


「さて。古い時代の礼では、麗しいお嬢さんたち二人を口説くのが作法だったらしい。しかし今の時代はそれができないんだ。申し訳ない。本題に入らせてもらうよ」


 総司令官たちがすでに聞いていることを、スポンサーは当事者から確認しようとしていた。


「第一に、君たちの力の根源は何か。第二に他にも君たちの同類はいるのか。第三にそれは安定して獲得できるのか」


 ビジネス的な質問であり、軍事的な質問でもあった。

 大金や大勢の人間を動かす者の、圧倒的な存在感に須原はしかし揺るがない。


「最初のところから詳しく説明しますかねぇ」


 須原紅麻の肉体が変形する。

 手や足が顎に変形する。髪の毛が触手に変わる。

 口が牙となり溶解液を臭わせた。


(キモッ……)


 なんてこともなさそうに変身している姿であったが、総司令官森々天子は久しぶりに他人を見て気持ち悪いと思った。


「ご覧の通り、私は普通の人間じゃありません」

「ああ、そうだな。しかし完璧に制御している」


 総司令官と比べてみれば、目の前の彼女の方が化け物だ。

 だが元の姿に戻れることも含めて、彼女の肉体は完全にデザインされている。


 つまりこれはある意味で『文明』の力だ。

 生物兵器(・・)と言っても過言ではない。


「大雑把な説明をしましょう。ここではない別の世界には、神……まあ怪獣みたいなのがいまして、人間に対して力を授けてくれるんです」


 宗教に配慮した言い方をしているな~~と思いつつも、須原は相手が神が怪獣であると説明することに問題意識はなかった。


「力の授け方には三つの段階があるらしいです。一つは一番弱く数が多い『一般信徒』、一つは己の部位を切り分けて作った武器を持たせている『神殿騎士』、最後に自分そのものを武器として与えている『代理人』。細かい呼称が違うことはありますけど、これに分かれています」


 うねうねとうねっていた体を戻した彼女は、ここからさらに捕捉した。


「で、神からの力を受け取るのって、制限があるんですよ。すべての怪獣から力を授かるっていうのは無理。二種類の怪獣からしか力を授かれない」

「……意外だな。私の主観からすれば、一種類の怪獣からしか得られないと思ったのだが」

「宗教的に考えればそうですよねえ。でもそうしたら『知恵の怪獣』が市場を独占したらしいんですよ。他の怪獣たちが『さすがにそれは止めろ』って話になって、一人につき二枠ってことになったそうです」

(怪獣とか神の話なのに市場って……日本人的な発言ね)


 すでに説明を聞いていた総司令官は、彼女の言葉選びというどうでもいいことに少し引いていた。


「貴方が知っている帰還者たちは、全員が知恵の怪獣で一枠使ってます。広の奴の場合、自己再生能力と完全耐性。十石と指栖の強化能力。私は……怪物や怪人を食べて自分の力にする能力ですね」

「え? 君の怪物に変形する能力と怪物を食べる能力は別なのかい」

「私の変身能力は生命の怪獣の力ですね。まとめるとこんな感じです」


 須原はぺらりと一枚の紙を、スポンサーの彼に渡した。

 日本語ではあるが、端的に説明した文章が書いてある。



李広

一枠 知恵の怪獣の一般信徒(スキルビルダー) 治癒師(ヒーラー)

能力 体力と魔力の自己自動回復 状態異常への完全耐性

二枠 ○○の怪獣の代理人 ○○ノ王

能力 古代怪獣の召喚 まだ他にもできるらしい


須原紅麻

一枠 知恵の怪獣の一般信徒(スキルビルダー) 消費者(カスタマー)

能力 モンスターの肉を食べて自己強化(再生含む) 消費アイテムの保管

二枠 生命の怪獣の一般信徒(ライフホルダー) 猛獣呪紋(プレデタトゥ)

能力 モンスターに変身できる


指栖正美 十石翼

一枠 知恵の怪獣の一般信徒(スキルビルダー) 支援師(バッファー)

能力 自分や他人への強化能力 魔力の自己自動回復

二枠 心理の怪獣の一般信徒(タロッティスト)

能力 支援能力の調整


鈴木

一枠 知恵の怪獣の一般信徒(スキルビルダー)戦士(ウォーリア)

能力 身体能力の向上

二枠 伝説の怪獣の代理人 布教ノ王

能力 武器の超強化 全人類に強制情報配信



 大雑把な説明であったが、大体わかった。

 スポンサーが理解したところで、彼女は彼が持った紙をそのままもしゃもしゃと食べ始める。

 やり方は雑だが証拠隠滅なのだろう。


「力を得る方法はこんな感じです」



知恵の怪獣の一般信徒

貢物をささげて購入する形。

貢物は基本何でもいい。同じものをたくさんささげてもいい。


生命の怪獣の一般信徒

多くの地方をめぐって、多くのモンスターを倒す。

図鑑を埋めるほど強くなれる。


心理の怪獣の一般信徒

怪獣と問答をする。

問答に合わせて力をもらえるらしい。


○○の怪獣の代理人 ○○ノ王

本気を出した怪獣を倒す。

四体全部倒さないと本当の力が出せないらしい。


伝説の怪獣の代理人 布教ノ王

元々有名人じゃないと試験を受けられない。九人そろえる必要があるらしい。

各地の強いモンスターをそれぞれが自分の武器で倒し、武勇伝を各地にとどろかせる。

九人一組で『布教ノ王』。それぞれが九等分された怪獣の肉体を武器に宿して使うらしい。

九等分している怪獣の肉体を任意で一人に集中させると布教ノ王として戦えるらしい。



 やはりそれも読み終えたところでもしゃもしゃ食べ始めた。

 個人情報に配慮したふるまいだが、食事のマナーは最悪である。


「第一の答えはこんな感じです。質問は?」


「うむ……ん、ん……」


 ここで質問を受けている時点で、個人情報を隠滅した意味が薄い気もする。

 微妙に段取りが悪いことを気にしたが、指摘するほどでもない。


 彼は少し考えて、考えて……。

 明晰な頭脳で記憶した内容を反芻した。


 そんな彼の前で須原は紙を咀嚼していた。


「そ、そうだ……そうだ! 李広君は、あの、小型怪獣を倒したのか!? 自分で!?」

「例の勇者と二人で倒したらしいですよ。向こうだと結構有名でした」

「ふた、二人で!? 小型とはいえ怪獣を、二人で!?」


 目玉が飛び出そうな話である。

 話を整理するに、李広は一枠目の力だけで小型怪獣と戦って勝ったのだ。

 仲間が一人いるそうだが、それでも勝てるとは到底思えない。

 生きているだけでも奇跡に近いだろう。


「うんうん、そうなんですよそうなんですよ。私の相棒はすごいんですよ。同郷として誇らしい限りでした」


 初めてスポンサーの度肝を抜けたので、彼女は誇らしげであった。

 だが話をすぐに戻した。


「それじゃあ二つ目の回答です。私たち以外にも向こうの世界から帰ってきた人はいるとは思いますよ。探しようがないですけど」

「探しようがない?」

「そりゃまあ、全人類の魔力を測定したり、本気で身体測定を受けさせたらわかるとは思いますよ。でも現実的に無理でしょ?」

「……人権的に、無理だね」

「私たちみたいに自分から名乗り出ないと無理です。でもまあ、その気があるならとっくに名乗り出てますよ」


 この世界に帰ってくるには、それなりの実力者でなければならない。

 逆説的にこの世界に帰ってきた者たちの実力は保証されている。


 しかし活躍したいとかちやほやされたいというのなら、わざわざ帰ってくる意味がない。

 向こうの世界で出世しているのだから、もう一度出世する意味がないのだ。


 李広も当初はそうだったはずだが、戦うのが嫌だから帰ってくるのだろう。


「で、第三の回答ですが……無理です」


 向こう側の世界と頻繁に行き来することができるのなら、この世界の住人も誰もが強者になれるだろう。

 だがそれは無理であると彼女は語る。


「行き来には条件があって、向こう側のものは基本持ち帰れないんです。それに安定して行き来するルートを作ると、デメリットの方が勝つそうで」

「具体的にデメリットを教えてくれないか?」

「SF的に考えてくださいよ。向こうのウィルスで全人類全滅もあり得るんですよ」

「……安易な展開だがありえるね」

「それに向こう側にもモンスターはたくさんいるんです。たまたま偶然向こうのモンスターが現れて繁殖したってなったら、もっと悲惨になりますよ」

「~~……残念だが納得するしかないな」


 間抜けに聞こえるかもしれないが、日本のわかめすら他国では侵略的外来種として駆除されている。

 別世界のモンスターが大繁殖しようものなら、以前のように徴兵をしても追い付くかわからない。


 冷静な判断をしているスポンサーに対して、総司令官はほっと安心である。

 彼女自身も同じ結論に達していた。

 この世界のことすら大変なのに、異世界からの侵略生物のリスクなど冗談ではない。


「ご納得いただけましたか、スポンサー」

「うん。実に興味深い話だった。ところで……」


 ここでスポンサーは、すこしだけ暗い部分を出した。

 

「何か隠しごとはあるかね?」


「あります」


 さっと返事をする須原。

 実にひょうひょうとしたものである。


 総司令官は少しだけ、ぞっとした。


 一方でスポンサーは淡々としたものである。


「君は私が四つ質問をして、全てに答えてくれた。十分誠実と言える。これ以上求めるほうが不誠実だな」


 スポンサーはあえてそれ以上、彼女の顔を見なかった。


「……現在私の友人(・・)たちは、この国に注目している。先日のコロムラとの戦いもそうだったが、人類最強だと思われていたスーパーヒロイン以上の戦力がこの国には揃いすぎている。怪獣すら一国で迎撃しうるほどではないか、とね」


 李広を守る女傑に、同志(・・)は厳しいことを言った。


「彼のそばに行きたいというヒロインは多いが、国家としては自国の守りを薄くしたくないそうだ。だからこそ……李広を守るという君たちには、もっと頑張ってほしいね」

「……ええ、わかったわ」


 砕けた言葉であったが、厳粛に受け止めていた。

 それに満足していたスポンサーは去ろうとする。


 総司令官は穏便に終わったことで胸をなでおろそうとした。




『総司令官、報告します! 李広君が、近藤さんと鹿島さんにしがみつかれたまま、商業施設の屋上からおっこちました!』




 胸をなでおろすのは早かったようである。

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― 新着の感想 ―
今現在いる怪物だって侵略的外来種のようなものなので、これ以上の流入は確かに防がないといけないものですね
隠し事の候補だけでも須原の元パーティーグリズリーのメンバーや、怪異の世界からスキルツリーの世界へ行き来するためのアイテムとか思いつく事はいくらでもあるからね。それでもスポンサーからの四つの質問に答えて…
誰にでも出来るが、誰にも出来無い事をやってのけたっつうのが、本当に重い・・・
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