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偉い人

 かくてスーパーヒロイン土屋香は救助され、怪物は退治され、人々も解放された。

 しかし香も無事ではない。状態異常は回復したが、犬になっている状態で怪人から攻撃を受けたためしばらくの間は復帰できないだろう。


 最強のスーパーヒロインが敗北した、という情報は既に出回っている。

 なまじ本当に桁違いに最強で世間からの評価も高いからこそ、一般のヒロイン部隊でも勝てる相手に相性負けしたことに挫折するのではないか。

 滅茶苦茶調子に乗っていた女が地に落ちてほしい。そんな下劣な期待さえ混じる声が一定数あった。


 一方で彼女と言えば……。



 人工島内には最先端の医療技術が集約された病院が存在する。

 その中でもスーパーヒロインかそれに近い立場の人間しか使用が許されない、めったに使われない最高級の病室があった。

 清潔であり高貴であり、なにより広く静か。

 医療器具さえなければスイートルームと間違えられるほどの部屋に、現在彼女は入院中である。


 骨折したためベッドから起き上がれない彼女は、横になったまま『ライブ配信』をしていた。


「いえ~~い! 獣になってもおばあさんを助けるために戦った、本能レベルのスーパーヒロイン、土屋薫様だ! 今回は俺と一緒に事件を解決してくれたスーパーヒーローを紹介するぜ」

「ど、どうも……三等ヒーローの李広です」

「おいおい。怪異対策部隊の公式放送じゃないんだからスーパーヒーローだって名乗っていいって言っただろ? 俺が許可したんだぞ? それとも命令してほしいか? ん?」

「すみません……スーパーヒーローの李広です」

「今回の怪物は強敵だったぜ! さっそうと現れ多くの人々を救った俺! 怪物を倒した広! この二人あっての事件解決だぜ! なあ!」

「おっしゃる通りです……」

「コイツは凄いんだぞ~~! あらゆる状態異常が完全に効かないんだからな! そのうえ体の傷も魔力もスゲー速さで回復する! なにより度胸がヤバい! 自分ごと怪物を燃やして倒しちまうんだからな! 避難していた人の動画を俺も見たが、すげえ光景だったよなあ!」

「あの……怪物の動画は状態異常の拡散につながりかねないので、禁止されているので、皆さんは視聴せず通報を……」

「堅いこと言うなよ~~! アイツは見ただけで判定が発生するタイプじゃないんだぜ? それよりお前の男前を見てもらった方がいいだろ? 照れてんの?」

「そんな……」


 携帯端末を使ったライブ配信で、彼女は自分と広の活躍を非公式で広報していた。

 とはいえ彼女はスーパーヒロイン。

 その発表を非公式と捉える者はいないし、彼女がスーパーヒーローと言えば真に受けても不思議ではない。

 彼女は尊大だが忖度はしないし、それを周囲も把握しているのだから。


「ってことで、俺は負傷しちまったが、人々は助けた! 任務成功だな! オールオッケー! ふっふっふ! これぞスーパーヒロイン! 今後も俺の活躍を応援してくれよな!」


(やっと終わった……)


 配信が終了し、広は一息つく。しかしそれが一息でしかないことを今の彼は知っている。


「今回はマジで世話になったな! お前が来なかったら俺一人で解決できなかったぜ! とはいえ勘違いするなよ~~? 今回の怪人は積極的に人を襲っていたからな。最初に来たのが俺じゃなかったら被害者はえぐかった。つまり……俺は凄くて俺は偉いってことだな」

「そうだと思いますよ」

「そうかそうか! その偉大なる俺を助けたお前も偉いということだな! ん? そうだろ?」

「はい」

「ってことで、俺から一等ヒーローに推薦してやったぜ。うれしいか?」

「……は? 早すぎませんか!?」


 一等ヒーローが一等ヒロインに相当するのなら、広にとってとんでもない出世話である。

 一等ヒロインといえばヒロイン全体のトップ10パーセントに相当する上澄み組であり、全員が強者ということだ。

 五等ヒロインにフィジカル負けする広には不適当に思えた。


「知ってるでしょう、俺は弱いですよ!? それに経験も足りていません!!」

「なんの冗談だよ」


 香はへらへら笑いながら核心をついた。


「お前、人生二周目とかだろ?」

「!!」

「ああ、いいのいいの。誰も気にしてないから。気にする奴がおかしいから」


 広の戦いは場慣れしすぎている。

 天才とかそういう問題ではなく、熟練の気構えができている。

 これは魔力云々の問題ではない。


「お前は自分の能力に合った戦い方をし過ぎている。自分の性質に昨日今日気付いた戦い方じゃない。ドクター不知火はお前の能力を見て『ひとりで戦うためにデザインされたような能力』だって言ってたが、実際にはデザインしているだろ?」

「……」

「だがな、そんなことはどうでもいいんだ。前も言っただろ? 俺たちはスポーツをしているわけじゃない、レスキューしてるんだよ、ハンティングしてるんだよ。救助と狩猟にフェアもへったくれもねえよ。むしろ手抜きをしている方が問題だ」


 軽く語る彼女の言葉は、しかし重かった。

 広の中にそれを留めるものはない。


「それにお前の戦績はもう三等ヒーローどころじゃないだろ。むしろ一等にしていないのが欺瞞ってもんだ。総司令官もくだらないことに気を使ったんだろうが、誰も気にしないっての」

「総司令官……えっと、香さんは総司令官に会ったことがあるんですか?」


 現在の香は獣化が完全に治っている。

 しかし現在の総司令官を見るに、ふとしたきっかけで再発しかねない。

 不安に思う気持ちが彼女の中にあるのではなかろうか。


「そりゃ知ってるけどよ。……もしかしてアレか? 俺がヒロインを辞めるかもってか?」

「はい……ああなるのが怖いんじゃないかって」

「逆逆。いいか、広。お前、宮沢賢治は知ってるか? どんぐりと山猫は知っているか?」

「いえ……」

「そうか、なら教えてやる」


 ベッドの上で横になっている土屋香は、それでもドヤ顔で啓蒙を与えていた。



「偉いってのはな、他の人が嫌がるような臭くて汚くて危険で大変な仕事をやることなんだぜ?」



 やはり文句のつけどころがない言葉だった。

 彼女は自分の仕事が臭くて汚くて危険で大変で、だから偉いと言っていたのだ。


 犬になっても人を守るために戦った彼女である。

 きっと犬になると知っても怪人を倒し市民を救っていただろう。

 

「……土屋香さん。俺は貴方のことを知っていましたが、想像以上に偉いスーパーヒロインですよ」

「だろぉ?」


 ベッドの上で笑う姿に、広はやはりりんぽを重ねる。

 彼女もまた香と同じようなことを言っていたが、それは欺瞞だった。


 対して彼女は心底から笑っている。


 それはやはり、彼女が本当にスーパーヒロインで、多くの実績があって、たくさんの人から称賛されているからなのだろう。


(アイツも、こうなりたかったのか……)


 夢が叶うとは限らない。

 だがとても残酷で、しかし尊い(・・)ことに。



 皆の憧れ、スーパーヒロインは実在する。

 あるいは、彼女がそれを証明し(まもっ)ている。

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― 新着の感想 ―
かっけぇ 気づきながらフォローもしてて気配りもやばい
なんというかガイセイを思い浮かべたな
SNSが発達しとるか否か、でヒーローモノの方向性がぐるんぐるん変わるのがよう分かるわ。
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