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獣と天使は神の糸を引いた  作者: きらほし
1 最後の魔法使い編
9/13

1-3 町が奏でる協奏曲

「……はは、お腹空いちゃった!車内販売のワゴンが来たら、声かけてみよっか!」


 しばらく沈黙が流れた後、ピリムのお腹が鳴り、スカエルに向かって明るく声をかけた。


「そ、そうね。ワゴン?って言うのがここを通るの?」


「そうだよ!食べ物とか飲み物とかが運ばれてくるの」


「どんな物があるんだろう……」


 スカエルはワクワクしながら、辺りを見渡していた。


「こんなに人が乗っているのに、とても速く動いているわ」


「この列車も、マジムのパワーを使って動いているんだよ」


「そうだったの?本当に万能なのね、マジムって……」


 スカエルは胸元に付けてあるマジムの水晶玉を触りながら言った。


 水晶玉は外の光を反射して、優しく光っている。


「お嬢ちゃんたち、おひとつだけでもどうだい?」


 ワゴンを引いた女が、ピリムとスカエルに向かって言った。


「あっ!来た!じゃあ、そのポテトを2つと、ミルクを2本ください!」


 ピリムは紙箱に入っているポテトと、瓶に入っているミルクを指差した。


「はいよ。全部で600ピースね~」


「ピリム、また色々出してくれてありがとう……」


 スカエルはピリムに小声で耳打ちした。


「全然!お金はこれから協力して稼げばいいんだから。あっ、600ピースぴったりで!」


 ピリムは500ピースの硬貨と100ピースの硬貨を出した。


「まいどあり!お嬢ちゃんたち、遠くまでお出かけかい?」


「いえ、私達は旅に出てて、これからウィーリンに行くんです」


「あら、ステキ!ウィーリンはあたしも行ったことがあってねぇ。町中に音楽が奏でられているの」


「町中に音楽?騒がしいとかないんですか?」


「騒がしいなんて思わないよ!むしろずっと聞いていたいぐらい快適さ」


「音楽のことについてもいっぱい調べてみたいなー!教えてくれてありがとうございます!」


「いえいえ、ごゆっくりどうぞ~」


 ご機嫌な様子でワゴンを引きながら女は去っていった。


「これがポテト?黄色いのね」


「塩で味付けされていて、このポテトはパセリがちょっと乗ってるね。この緑のやつがパセリ」


 ピリムはポテトに小さくかかっているパセリを指差した。スカエルはポテトを取り、


「なんだか半月みたいな形ね」


 と言った。ポテトは細長いものではなく、皮つきの太いポテトである。


「確かに月みたい!他にも細長いポテトや、変わった形をしたポテトもあるんだよ」


「他のポテトもいつか食べてみたいわね。じゃあ、食べましょう。いただきます」


「いただきま~す!」


 二人がポテトを頬張った瞬間、ジャガイモのうま味と柔らかさが口に広がった。塩の丁度いいしょっぱさも上手くマッチしている。


「とても美味しいわ!今まで食べたことがない風味ね!」


「ん~!おいしい!揚げたてだからカリカリしてるよ」


「ピリムが一番好きな食べ物って言うのも、納得できるわ」


 スカエルはミルクを飲みながら言った。


「間もなく、ヴァルーレン、ヴァルーレン。お出口は左側です」


「あっ。またあの機械から声が。こうやって色々なことを知らせてくれるのね」


 スカエルはまたドアの近くにある機械を見た。


「ちゃんとウィーリンに着く前にも知らせてくれるからね!というよりウィーリンが終点だから、ウィーリンよりも先には行かないよ」


「じゃあ、もう少しゆったりしてもいいのね。ここから見える景色を楽しみましょう」


「そうだね!今日もいい天気だなぁ」


 二人は自然豊かな風景を楽しみながら、ポテトをついばみ、ミルクを飲んでいた。


 旅行先に行く道中が一番楽しいと言う人も中には居るだろう。そのような気分をピリムとスカエルは、今現在味わっているのである。




「間もなく、終点、ウィーリン、ウィーリン。お出口は右側です」


 終点のウィーリンへのアナウンスが鳴った。


「もう終点なのね。ピリム起きて!もうすぐで着くわよ」


「う~ん……。いつの間にか寝ちゃってたのかぁ」


「とても気持ち良さそうに寝てたから、起こさなかったの」


「そっか。おかげでとてもいい気分だよ!」


 ピリムは伸びをしながら言った。


「スカエルは大丈夫?気持ち悪いとかない?」


「全然。むしろ私もいい気分よ!列車から見える景色がとても綺麗だったわ」


 観光客のような感想を言うスカエルである。


「そろそろ荷物とかまとめて、出る準備をしよっか。切符は持っていようね!」


 ピリムはテーブルに置いてあった切符を手に取った。


「分かったわ。切符に印鑑を貰うのよね」


 スカエルは服のポケットに入れてある切符を出した。


「そう!駅員さんに渡してね」


「えぇ。……あら、外の景色が変わってきたわ」


「ほんとだ!だんだんウィーリンに近づいているんだよ!」


 窓から見える景色には、音楽館や宮殿が見えてきた。緻密な構造の建造物が目立っている。


「素敵ね。どんな町並みなのかしら」


「チェスラングルとはどう違うんだろ?」


 二人の想像は駅に近くなるたびに強くなっていった。


 列車の動きが段々遅くなり、ゆっくり停車する。


「着いたよスカエル!行こっ!」


「ちゃんとゴミ袋を持っていきましょう」


 二人は列車から降り、改札に向かって歩き始めた。


「駅、大きくない?クルムフの駅より何十倍も広いわ」


 スカエルは天井を見上げながら言った。天井は全面ガラス張りになっている。


「ほんとだねぇ……。わたしもこんなに大きい建物をみるの初めてかも」


「ピリムも?ウィーリンの人達は、毎日こんな建物を見ているのね」


「『都会人』ってそういう人達のことなのかも……」


 田舎者のピリムは困惑しながら言った。


「えっと、改札はこっちね。看板があるから迷わずに済むわ」


 スカエルは看板の近くにあるゴミ箱に、列車で出たゴミ袋を捨てた。


「いっぱい人間が居るな。あっ、獣も居た!」


「種族問わずに使われているのね。ウィーリンも人口が多いらしいし」


 切符を持ちながら気楽に歩いている獣も居れば、スーツを着ている堅苦しい人間も居る。




「えっと、チェスラングル国のクルムフから来たのですね。ウィーリンへようこそ!楽しんでいって下さい!」


 駅員が娯楽施設へ案内するように言いながら、二人の切符に印鑑を押した。


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます」


 二人が感謝をし、駅の外に出ると、豪華な宮殿に伝統溢れる町並みが堂々と存在しており、周りには馬車がせかせかと走っていた。


「す、すごいすごい!こんなにステキな町が広がっているなんて!」


「本当ね……。天気も相まって、雰囲気が出ているというか、ウィーリンの文化が町として表現しているように見えるわ」


 二人が感動している中、すぐに耳に入ってきたのは、ウィーリンの音楽だった。


 広場の中央に5人組の音楽隊が、クラシック音楽を奏でている。


「見てピリム。広場で音楽を演奏しているわよ」


「すごいなぁ。町の一部になっている感じがするよ」


「上手く溶け込んでいるような……とても落ち着く音ね」


 二人はしばらくうっとりしながら、音楽を聞いていた。


 周りの人や獣達も静かに音楽を聞いており、皆が穏やかな顔をしている。ウィーリンの音楽には魔法のような魅力があるのかもしれない。

ーウィーリンの音楽ー

ウィーリンの伝統の一つ。ウィーリンの町に上手く溶け込んでおり、邪魔になることは一切ない。

主にクラシック音楽を奏でていることが多いが、軽快な音楽や華やかな音楽を奏でることもある。

聞く人々を穏やかな気持ちにさせる不思議な力がある。

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