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獣と天使は神の糸を引いた  作者: きらほし
1 最後の魔法使い編
8/13

1-2 揺れる景色と二人

 クラーフの町工場から出発して5分ほど、ピリムとスカエルはオートリア国ウィーリンに向かうために列車が通る駅へ歩いていた。


「もう少しで駅に着くよ!」


「初めての駅に列車、とても楽しみだわ」


「列車はすごく早いんだよ!あっという間に目的地に着いちゃうの!」


「そんな早い乗り物があれば、天空の移動も便利なものになりそうね」


 スカエルは少し考えながら言った。


「でも、天使には羽があるから飛んで行けるんじゃないの?」


「天空って地上ほどじゃないけど、凄く広いから、早く移動しないと目的地に中々着かない時もあるの。何回も遅れてしまっている天使を見たことがあるし」


「スカエルは遅れちゃったことはあるの?」


「私?私はないわよ。待ち合わせ場所に行くなんて。そもそも、そういうことを約束する友達も居ないし……」


 スカエルは俯きながら言った。目には光が無くなっている。


「わ-!?ごめんね!嫌なこと思い出せちゃって!」


 ピリムは焦りながらスカエルをなだめた。


「はぁ、魔法使いの元で少しでも強くなれるかしら」


「空を飛べる魔法も覚えられるかもしれないし、前向きに行こう!ねっ!」


 ピリムはスカエルの肩を両手で叩いた。気合いを入れ直すためだろうか。


「あっ!駅が見えてきたよスカエル!」


 ピリムが指差す先には、小さいこぢんまりした駅舎があった。


「あそこに行けば、列車に乗れるの?」


「うん。まずは切符を買わないと」


「いくらぐらいするのかしら」


「700ピースぐらいかな。わたしのお金で大丈夫だからね」


 この世界の通貨は『ピース』である。銅色の硬貨が10ピース、銀色の硬貨が100ピース、金色の硬貨が500ピースであり、1000ピース、5000ピース、10000ピースは紙幣として世界の経済を支えている。


「ありがとう。そういえば、お金はこれからどうやって調達するの?」


「とりあえずウィーリンでは、短く働ける場所を見つけて、そこでお金をもらおうと思ってる!」


「私も働いて、お金を稼がないとね。いつかたくさん貯めるんだから!」


「その意気だよスカエル!」


 そんなことを言いながら、二人は駅舎の中に入っていった。


「いらっしゃいませ」


 駅舎の改札に白髪の男の駅員が居た。


「ウィーリン行きの切符を2枚下さい!」


「承知しました。お出かけですか?」


 駅員は切符を用意しながら言った。


「少し前に旅に出たんです!次の目的地がウィーリンなんです」


「旅人の方々だったのですね!では、本来は一枚700ピースなのですが、200ピース引きで500ピース、二枚合わせて1000ピースになります」


「旅人だと割引されるんですか?」


 スカエルが駅員に疑問を放った。


「はい。列車利用の他にも、宿に泊まったり、買い物をする時など、店にもよりますが割引されることが多いんですよ」


「そうなんですね!初めて知りました」


「じゃあ、1000ピースぴったりで!」


 ピリムは駅員に1000ピースの紙幣を出した。紙幣が折られて入れられていたため、凹凸(おうとつ)としている。


「1000ピース、お預かり致します。この切符をウィーリンの駅員に渡し、印鑑を貰ってください」


 駅員は二人に切符を渡しながらそう言った。


「ありがとうございます!じゃあ行って来ますね!」


「良い旅をお過ごしください」


 駅員はお辞儀をし、笑顔で二人を見送った。


「凄く丁寧な人だったわね。切符も少し安く手に入れられたし、何だかいい気分だわ」


「旅の最初に気持ちよく見送られると、こんなにうれしいんだね!」


 二人の心は穏やかな光に包まれるように、温かくなっていた。


「えっと、列車が来るのが9時40分ぴったりで、ウィーリンに着くのが約3時間後の12時6分。3時間列車に乗るのか……。大丈夫かしら」


「大丈夫!列車ではよく車内販売っていうのをやってるらしいよ!」


「列車では販売?どういう物を売ってるの?」


「おばちゃんから聞いた話だと、軽食とか飲み物とか、軽く遊べるゲームとかも売ってるらしい!」


「そうなのね。もし車内販売があったら、何か買ってみようかしら」


「ポテトとか売ってないかなぁ」


「ポテト?」


「ジャガイモを細長く切ったり、薄く切って油で揚げた食べ物だよ!わたしの一番好きな食べ物!」


「ピリムの一番好きな……。私も食べてみたいわ!」


 スカエルはポテトの全体像を想像していた。ジャガイモのことも知らないため、少々奇抜な色合いを想像している……。




「スカエル!列車が来たよ!」


 9時40分、時間ぴったりに列車が着いた。二人の他にも数人、列車を待っていた人達が居る。


「来たのね!……ちょっと大きくない?」


「そりゃあ、500人ぐらい乗れるんだもん」


「そんなに沢山乗れるの!?重くてスピードとか落ちないわよね?」


スカエルは強く心配し、ピリムに問いただした。


「大丈夫だよ!重くてつぶれるとかもないから!」


「そ、そう……。3時間か……私、正気で居られるかしら」


 列車が目の前に止まり、自動でドアが開いた。


「さっ、中に入ろう!スカエル」


 二人は列車の中に入り、近くにあった茶色のクッション性の椅子に座った。椅子の向かい側に小さいテーブルが付いている。


「座り心地がいいわね。テーブルも付いているわ」


「リラックスできる広さだね。あっ、列車内では少し静かにしてね。周りのお客さんの迷惑になっちゃうから」


「分かったわピリム」


 スカエルは少し小声で言った。


「発車致します。お立ちのお客様は、閉まるドアにご注意ください」


 列車の天井近くから、男の声が聞こえた。


「あら、この声は誰が喋っているの?」


「駅員さんの声を録音して流しているのかな?あそこの機械から出しているみたいだね」


 ピリムはドアの近くにある黒い機械を指差した。


「声も記録できるのね。そういえば、知ってる?ピリム。人が一番最初に忘れてしまうのは、聴覚なんですって」


「聴覚?あぁ、耳から聞こえる声や音ってことだね」


 列車のドアが閉まり、駅から発車した。


「そう。……何だか悲しいわよね。もし急に耳が聞こえなくなったら、愛している人の声が段々忘れてしまうのよ」


「そっか……。わたしは獣族(ビーストレイズ)だから、人間より耳がいいんだけど、いつか聞こえづらくなってきたら、色んな人の声を忘れちゃうのか……」


 ピリムは自身の長い耳を触りながら、悲しそうに言った。


「……ごめんなさい。少し悲しい話をしてしまったわね」


「ううん、大丈夫だよ。声って、改めてすごく大事なものなんだなって分かった!」


 ピリムは笑顔で言ったが、少々困り眉だった。


「そう……」


「(ママの声、もっと聞きたかったな……)」


「(おばちゃんの声、忘れないようにしなきゃ……)」


 二人は列車から見える揺れている景色を見ていた。二人の体も揺れている。


 しばらく沈黙が流れていたが、ピリムが小腹を空いたタイミングですらっと消えていた。

ー列車ー

ほとんどの国に繋がっている交通機関。一昔前は蒸気を使った蒸気機関車が主流だったが、現在はほとんどの列車が獣族(ビーストレイズ)のマジムを利用して運行している。獣族(ビーストレイズ)の荒々しい強力なパワーが列車の速さに繋がっている。

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