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獣と天使は神の糸を引いた  作者: きらほし
1 最後の魔法使い編
7/12

1ー1 魔法使いの噂と新たな一歩

「ピリム!起きて!朝よ!」


「う~~ん……。あれ、スカエル?」


 ピリムの目の前には、昼の姿に戻っているスカエルがいた。


「あ~そっか。もう朝だから、昼の姿になったんだ」


「そうよ。やっぱり急に姿が変わっているのは驚くものなのかしら」


「まぁ、そうだね。でも、どれだけ姿が変わってもスカエルはスカエルだよぉ」


 嬉しいことを言ってくれたと思ったのか、スカエルは少し顔を赤らめた。


「ま、まぁ、早く起き上がって朝食を食べましょう。クラーフさんが作ってくれてるわよ」


「クラーフの朝ごはん!食べたい!」


 今の今まで寝ぼけていたピリムが、いきなり意識が戻ったように目をはっきりとさせた。


「二人とも、おはようございます。おや、スカエルさん、姿が戻ったんですね」


「おはようございます。まぁ、どっちの姿も私なんですけどね」


「おはよー、クラーフ!朝ごはんおいしそう!パンは近くのパン屋さんで買ったの?」


「そうだよ、朝早くから開店しているからね」


 町工場から数十m離れているパン屋は、早朝5時から開店している。今の時刻は7時46分だ。


「このパンは何て言うのかしら」


「これはロールパン!シンプルな味でふわふわなんだよ」


「小さくて可愛らしいわね」


 スカエルはロールパンをじっと見ながら言った。


「主菜もできましたよ。チーズ入りオムレツです」


「チーズ入りなんだ!贅沢だねぇ」


 クラーフは静かにオムレツをテーブルに置いた。


「チーズ?がとてもいい匂い!このオムレツは何で出来ているの?」


「卵だよ!ニワトリっていう鳥から産まれるものなの」


「卵を焼くと黄色くなるのね。どんな味か楽しみだわ」


「じゃあ、そろそろ食べましょうか」


「「「いただきます!」」」


 三人は息を揃えて言った。


「チーズがとろ~り。あむっ、むっ。おいしい~!卵とチーズがよく合っているね」


 ピリムがスプーンでオムレツをすくうと、中にあるチーズが皿にゆっくり流れていく。


「チーズが川みたいに流れているわ。はむっ、むっ、むっ……。う~ん!美味しい!卵ってこんなにふわふわしているのね!」


「むっ、む。うん、美味しい!チーズの風味もオムレツとマッチしてる」


 クラーフは小さくオムレツをすくい、小さい口で食べながら言った。


「はむっ。ロールパンも美味しい!昨日のクネドリーキと違って、パンの中がぎっしりしているわ」


「一般的に食べられるパンはこんな感じなんですよ。ロールパンは世界中で食べられています」


「そうなんですね。パンは雲のように柔らかいので、凄く気に入りました!」


 スカエルは屈託のない笑顔で言った。


「地上で気に入ったもの、見つけたね!」


「えぇ!」


 三人は窓から溢れ出る朝日に当てられながら、朝食を食べていた。クルムフの町には人が増え始め、生活音が目立つようになってきた。




「ピリム、クラーフさん……どうかしら?」


 スカエルは廊下から顔を出しながら、ピリムとクラーフが座っているリビングの前に現れた。


「わぁ~!すごく似合ってるよスカエル!」


 スカエルは昨日出来上がったばかりの服を着ていた。ピリムは目を輝かせながら立ち上がり、スカエルに近づいて来た。


「本当?ありがとう!」


「やっぱりスカエルさんは、青などの寒色が似合いますね。サイズがきつくないですか?」


「全然!ピッタリですよ!」


 スカエルは非常に上機嫌だった。


「そういえばスカエル、髪型変えたんだね!左側が三つ編みになってる!」


「そうなの。これから旅に出るから、少しでも気を引き締めるためにね」


 スカエルは三つ編みの髪を優しく触りながら言い、ソファに座り始めた。ピリムもスカエルについていきながら一緒に座った。


「クラーフさん、水晶玉作りは順調ですか?」


「はい、とても順調ですよ。今は欠片を溶かしたものを固めるために少し冷やしている最中です。後20分ほどしたら、水晶玉の形に造形できます」


「あの大きい冷凍庫を使っているの、初めて見たかも……」


 ピリムは少々困惑した目でクラーフを見た。


「まぁ、仕事で使うこともあまりないからなぁ……。使う時はいっぱい使うんだけどね。……あっ、そういえば今更だけど、ここから出た後の次の目的地は決まっているのかい?」


「そうだわ。ピリム、何か決まっているの?」


「ちゃんと決めてるよ!次は隣のオートリア国の『ウィーリン』に行こうと思ってる」


「ウィーリンと言えば、『音楽の都』と呼ばれている芸術の町じゃないか。ここからそう遠くはない町だけど……」


 オートリア『ウィーリン』。著名な音楽家、歌手、作曲家、作詞家など、多彩な音楽に触れている者達が集まる町。


 オートリア最大の町でもあり、大昔に支配していた名家の建築物が多く残っている。


「そのウィーリンって言う町に何かあるの?ピリム」


「ウィーリンにはね、魔法使いが居るって言われてるんだ。町の目立たない古い家に住んでるっていう噂が広まっているの」


「その魔法使いって、もしかして……『最後の魔法使い』って呼ばれてたりする?」


 クラーフが恐る恐るピリムに言った。


「そうだよ。一人だけの純血の魔法使いが居るらしいんだ」


「最後の魔法使い……。今まで存在してきた魔法使いの中でも最強と言われている……」


「そんなに強い魔法使いがウィーリンに居るんですか!?」


 スカエルは驚きながら言った。


「でも、その魔法使いに魔法を教えてもらったら、すごく強くなれそうだし、空が飛べる魔法も覚えられそうじゃない?」


「確かにそうかもしれないけど……」


「私、少し怖くなってきたわ……。私がその魔法使いに会ったら、一瞬で倒されそう……」


 スカエルの被害妄想が活発に動いていた。


「大丈夫だよ!ちゃんと話をすれば、その魔法使いと仲良くなれるかもよ?」


「私達に友好的だといいのだけど」


魔人族(デーモンレイズ)人間族(ヒューマンレイズ)と似ている性格をしているので、温厚で穏やかな個体が多いですが、何にでも例外はありますからね」


「とにかく!スカエルの水晶玉が出来上がったら、ウィーリン行きの列車に乗るよ!」


「列車?」


「乗り物ですよ。凄く速く動くことができて、切符を買えば誰でも乗れるんですよ」


 分からないスカエルに対して、クラーフは細かく説明した。


「クルムフの駅から乗れるからね」


「列車……どういうものなのかしら」


 三人は水晶玉が出来上がるまで、楽しく団欒としていた。


 しかし、スカエルはピリムから聞いた得体の知れない魔法使いに対して、密かに恐怖を抱いていた。




 約20分後、三人は大きい冷凍庫の前に立っていた。


「よし、そろそろだね」


 クラーフは冷凍庫を開け、固まったマジムが入っている容器を取り出した。


「これがマジムなの?」


「黄色のマジムだったから、固まった後も黄色ね」


「これをまた少し溶かして、水晶玉の形にしていきます」


 クラーフは小さいバーナーを取り出し、マジムに向かって火を放った。


「ピリム、あの道具は魔法か何かで出来てるの?」


「そうだね。火の魔法を取り込んで、人間が作った物なんだって。料理に使ったコンロも火の魔法を利用して作ったらしいよ」


「人間は本当に器用なのね。他種族の魔法やマジムを取り込んで、こんな便利な物も作ってしまうなんて」


 人間族(ヒューマンレイズ)は知恵の種族。失敗を繰り返すうちに、文明を発展させる程の成果が生まれるのだ。


「いい感じに溶けてきたし、そろそろ形にするか」


 クラーフはマジムをとある機械の元に運んだ。


「この機械は何ですか?」


「溶けた物質を綺麗に固める物です。氷と同等の冷気を出して固めるんです」


「この機械、前にあったっけ?」


「少し前に取り寄せたんだよ。半端な金額じゃないけどね」


 クラーフは少々苦い顔で言った。そしてスイッチを押すと、機械が小刻みに揺れ始め、冷気が出始めた。


 冷気が気になったのか、ピリムは人差し指で冷気に触ると、


「冷たっ!ずっとつけてたらここら辺が凍っちゃいそうだよ!」


 と言った。本当に冷たかったらしく、ピリムは自分の尾に人差し指を入れた。


「凍る前に早く済ませなくちゃね」


 クラーフは溶けたマジムを球体の型に入れ、冷気に当て始めた。


「この冷気なら3分位で出来上がりますよ」


「3分で!?凄く早いですね!」


「マジムの水晶玉を作るには、固めることよりもマジムを満遍なく溶かすことが大事なんです。僕は溶かすのに1時間は使いました」


 マジムの水晶玉は、まず欠片を溶かし、溶かしたものを凍らせ、凍らせたものを変形させるためにまた少し溶かし、最後に型に入れたものを固めて完成する。


 マジムの数が多いほど、溶かすのも、固めるのも時間がかかるらしい。


「そんなに使ったの!?クラーフ、朝ごはんも作ってたのに?」


「溶かすのは半自動的にやったよ。最初に欠片を入れて、こまめに温度を確認するだけさ」


「機械の力って凄いんですね……」


 スカエルは静かに感心していた。


 三人はマジムが球体型に固まるまで気長に待っていた。




「出来ました!マジムの水晶玉です」


 クラーフが出来た水晶玉を磨き、スカエルに渡した。


「ありがとうございます!……あれ?黄色から水色になったわ」


 マジムの水晶玉は輝いている黄色から、透き通った美しい水色になっていた。


「スカエルのマジムの色が水色だからじゃない?」


「スカエルさんのマジムに順応していったからだと思います。マジムはとても敏感なものなので」


「そうなんですね。でもこれで、私も少しならマジムが扱える!」


 スカエルの水晶玉に含まれているマジムの量は400マジムほどである。


「そのジャボタイに付けるといいですよ」


「よいしょっと。わぁ、くっついたわ!」


 マジムの力によって、スカエルのジャボタイに水晶玉が付いた。


「これで旅の準備が整ったね!クラーフ、色々サポートしてくれて本当にありがとう!」


「私からも、本当にありがとうございました」


「二人の役に立てたなら僕もとても嬉しいよ。これからの旅、とても大変な道のりになると思うけど、二人ならどんな困難でも乗り越えられるって信じてます!」


「応援ありがと!クラーフもクルムフで町工場、がんばってね!」


「またチェスラングルに帰って来たら、ここに帰って来ますね!」


 二人は笑顔でクラーフに励ましを送り、再会の約束を交わした。


「いつでも帰ってきてくださいね。美味しいご飯も用意してます!」


「今度会ったら、今よりも地上の知識を蓄えないとね」


「食べ物のことも勉強しないとね!」


「それはピリちゃんもいっぱい食べたいからでしょ」


 三人は心から笑いあっていた。


「じゃあ、そろそろ行こうか!スカエル!」


 ピリムは町工場の外に出て、スカエルに向かって言った。


「そうね!ではクラーフさん、お元気で!」


 スカエルも町工場の外に出ながら、クラーフにお別れの挨拶をした。


「二人とも、お達者で!!」


 クラーフは両手を振りながら大声で言った。ピリムとスカエルも手を振りながら歩いていた。


「……行っちゃったか。あの二人なら、とんでもないことを成し遂げられそうだな。……さて!僕も依頼の仕事を済ませますか」


 クラーフは町工場の奥に入っていき、仕事をし始めた。クルムフの町は今日も賑やかのようだ。


 今日の天気は絵本に出てくるような、理想的な空。積雲がまばらにあり、絵の具で塗ったような真っ青な空である。


 獣と天使は夢を叶えるために、新たな一歩を踏み出した。

ー魔法使いー

魔法を専門的に扱う魔人族(デーモンレイズ)。魔人族の数は年々減っているが、魔法使いの数はそれ以上に減っており、純血の魔法使いはオートリア国のウィーリンに居る魔法使いだけと言われている。

魔術を扱う魔人族(デーモンレイズ)は魔術師と言われている。魔術師は魔法使いよりも数は多い。

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