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獣と天使は神の糸を引いた  作者: きらほし
0 旅の準備編
5/11

0-5 運命のツタ渡り

 展望台を離れ、二人は山頂へ進みながら欠片を探していた。珍しい石はたらふく落ちているのだが、天使族(エンジェルレイズ)のマジムは中々見つからなかった。


「今回の叫び現象はちょっと不作だね~。たまにこういう時もあるんだよな」


「毎回沢山不思議な物が落ちてくるわけじゃないのね」


「うん。凄いときは山とか野原だけじゃなくて、町の道路とか家の屋根の上にも落ちているんだよ」


「なんか(ひょう)みたいね」


「ひょう?」


「あら、雹を知らない?冷たい空気が上に登ってくると、氷の粒が勢い良く降ってくるのよ」


「雪とは違うのかなぁ。わたしが住んでいる地域では聞いたことないかも」


 雹自体、人々の生活に打撃を与える存在のため、降らないほうが逆にいいのかもしれない。


「天気のこと、すごく詳しいんだね!」


「まぁ、地上の異常現象とかは知らないけど、雨の降水量の予想とか、雷がどれだけ近くで鳴ったとか、雪の柔らかさとか……」


「……豆知識、なのかな?」


 持っていていいのか悪いのか、よく分からない知識を持っているスカエルである。


「と、とにかく!もうすぐで日没だと思うから、急ぎ足で探すわよ!」


「オッケー!山頂目指してがんばろー!」


 二人は急ぎながら欠片を探していく。


「あった!でも一個だけ……」


「こっちもあったわ!でも二個しかなかった……」


 見つける頻度は高くなったが、数は少なく、ピリムとスカエルは段々疲労していった。


「はぁ、はぁ。やっぱり山頂だから欠片はあるにはあるけど、いっぱいはないかも……」


「そうね……。あれ、あの崖に乗っているのは何?」


 スカエルが見つけたのは小さい崖。しかし、崖の上に何か光っているものがあった。


「あれは……欠片だ!すごいいっぱいあるよ!」


 ピリムはの目には少なくとも10個はある欠片が目に映った。


「10個もあれば、この袋は満タンになるわ。でもあそこに行く道がないわよ」


「大丈夫!わたしがジャンプすれば……うわぁぁぁ!?崖の下がぁ!」


 崖の下には引きずり込まれるような穴があった。深さは計り知れない。


「うわぁ!落ちたらひとたまりもないわね……。ジャンプするのは危険よピリム」


「う~ん。でも、あの欠片を集めれば早く帰れるんだけど。まさにハイリスクハイリターンだな……」


「そうよね。私が飛べたら、簡単に取ることができるんだけど……」


 欠片が取れたら目的は達成。しかし、穴に落ちてしまえば致命的。二人は迷ってしまった。


「あっ!あの木の枝の先に行けば、崖まで行けるかもしれない!」


 ピリムが指を差した先には一本の針葉樹林があり、太い木の枝が生えていた。


「確かにあそこを渡れば行けるかもだけど、危険なのは変わらないわ」


「でも、わたしのジャンプ力ならあそこに届くと思うんだ。わたしを信じて、スカエル!」


「ピリムがそういうなら……。で、でも、危なくなったらすぐに言うのよ。私が無理に飛んでも助けるわ!」


「分かった!任せて!」


 ピリムがそう言うと、一本の木にまとりついているツタを登り、太い木の枝に乗った。


「バランス崩さないでね!」


「分かった!じゃあ飛ぶよ!」


 ピリムが深呼吸すると、スカエルは緊張し始める。息を吸い終わると空気が変わり、風が土埃と共に吹き始めた。


「とぉー!!」


 ピリムは思い切り飛ぶ。ピリムの尾が風に乗り、ひらひらと揺れた。


「と、届いた~!」


「はぁぁ~良かった……。私も緊張しちゃったわ……」


 スカエルは腰をゆっくり下した。


「欠片がいっぱい!これで袋が満タンになったよ!」


「じゃあ、これで帰れるわね。でも、そっちから戻る時も気を付けてね!」


「分かった!よし、ジャンプ!」



「……風が!!」


 ピリムは咄嗟に叫んだ。木の枝を掴もうとしたが、残り2mmで届かなかった。


 飛んだ瞬間に、突然強い風が吹いたのだ。わざとピリムを落とさせたように。



 …………



「ピリム!!」


 スカエルはピリムが穴に落ち始めた瞬間に、スカエル自身も穴に飛び込んだ。少しでもピリムが落ちた時の衝撃を和らげるためだろうか。


「スカエル!なんでスカエルも落ちちゃうの!?」


「分からない!飛べるわけでもないのに、反射で私も飛び込んじゃったわ!!」


 二人は闇に紛れ込んでしまった。時刻は5時を過ぎたばかりであった。




「……スカエル!大丈夫?」


「ピリム……大丈夫よ。うっ、でも足が少し痛むわね……」


「それなら大丈夫。回復薬があるから、少し飲めば傷は治っていくよ」


 ピリムはズボンのベルトに付けてある回復薬を取り、スカエルに渡した。


「ありがとう。ん、ん……本当だ。痛みが治まっていくわ」


 スカエルが回復薬を飲むと、傷が緑色の光に包まれ、出血も止まった。回復薬は雄個体の妖精のマジムを元に作られている。


「……どうしよう。空が暗くなっていくよ」


「この具合だと、一時間後には日没かも……。早く上に上がらないと、真っ暗になってしまうわ」


「わたしのジャンプは…。ほっ、ほっ!……ダメだ。届かない」


 ピリムのジャンプは虚しくも届かなかった。


「私の羽は……やっぱり動かないわよね」


 スカエルは羽を苦い顔で見た。


「ん?こことか、あそことか、ちょっと足場っぽくなってない?」


「……本当だ。上にも続いているから、頑張れば登れそうね」


「そうだ!わたしが登った木にツタがついてあったんだった!あれを使えば……」


「じゃあ、ここは私が登るわ」


 スカエルは真顔でピリムの目を見た。


「えっ、さっきケガしたばかりなのに。大丈夫なのスカエル?」


「ずっとピリムに助けられてばっかりだからね。協力してクラーフさんの所に帰りましょう!」


「……そっか。じゃあ、ここはスカエルに任せるよ。わたしはちゃんと下から見守ってるから!」


「ありがとう……。よし!登るわよ!!」


 スカエルは防寒着を腕まくりし、穴を登り始めた。


「うぅ、やっぱり今の時間はとても冷えるわ」


 今のスシェル山の気温は約4度である。


「がんばれー!帰ったらわたしの尻尾いっぱい触れるよー!」


「ピリムの尻尾、すごく温かいのかしら……」


 スカエルは一瞬ピリムの尾を見て、目を輝かせた。


「よしっ!」


 スカエルは再度気合いを入れ始め、土塊(つちくれ)を重く掴みながら上に登っていく。


「真ん中ぐらいか……。もう少し……」


 スカエルは息を少々荒くしながらも、必死に登っていく。登っていく途中にも空は更に暗くなっていた。


「よいしょ、よいしょ……。ふっ、よし、着いた!」


「スカエル……!良かった!」


 穴に居るピリムは、自分のことのように喜んだ。


「木のツタは……あった!かなり強くまとわりついているわね。でも、ピリムを助けるために……!」


 スカエルはツタを強い力で取り始めた。根の辺りにも広がっており、10mは超えている長さだろう。


「固いツタだからとても重いわ。私、握力が天使の平均以下っていうことも忘れてた……」


 スカエルはとうに疲労していたが、なぜか自分の力以上のやる気と気力が湧き上がっていた。


「これで全部取れた!ピリム、ツタが全部取れたわよ!!」


 スカエルは穴に居るピリムに向かって叫んだ。


「じゃあ、ツタを穴に向かって落として!わたしが登っていくから!」


「おいしょ、おいしょ、落とすわよ!」


 スカエルは固いツタをピリムの元に落とした。


「本当にありがとう!スカエル……!正直わたしね、落ちちゃった時すごく不安だったんだ。わたしのジャンプが高いってことを、わたし自身が信じすぎちゃってたと思うの」


「ピリムは悪くないわ。このことは誰も悪くないことなのよ。本当に……全部こうなる運命だったって片づければいいだけなのよ」


 スカエルはスカエルなりに、ピリムを慰めた。


「運命かぁ。スカエルと出会ったのも運命なのかな」


「『真実は神のみぞ知る』って言うじゃない。もしかしたらこうなったのは、ママのせいかもね」


 スカエルは複雑そうな顔をしながらも、穏やかな声で言った。


「そうしたら、もし神様に会えたら、今まで起こったことは全部神様は知っていたんですかって言えるかもっ」


「それは面白いわ。私もママに一矢報いたいもの」


「スカエルがそう言っちゃダメだよ」


 二人はただただ笑った。ピリムの暗かった表情は、もうどこかに行ってしまっていた。


「よいしょっと、スカエル!」


 ピリムは上に上がった瞬間に、スカエルを抱きしめた。


「おかえりピリム。もう帰りましょう。欠片も集まったし、もう日没よ」


「うん!クラーフも心配しているだろうし」


「山頂まで登って、方角を確かめたほうがいいかしら」


「そのほうがいいと思う。ここから下山すると、道がわからなくなっちゃうから」


 二人は残り少ない山道を歩いていき、無事にスシェル山の山頂、チェスラングル最高峰の地に辿り着いた。




「着いた~。ここが山頂だよスカエル!……あれ、スカエル?どうしたの?」


「……もう少しで月が出てくるかな?」


「ん、そうだね。もう太陽が見えないや!」


「ピリムに私の秘密、まだ言ってなかったね」


「秘密……?」


 ピリムがスカエルを見た瞬間、スカエルの上には輝いている三日月がいつの間にか昇っていた。


「私、夜になるとね。姿が変わるんだ」


 スカエルは静かな目つきで、落ち着いた声で言った。明らかに先程とは雰囲気が異なっている。


「スカエル?なんかさっきとは違うよ?」


「姿が変わるだけじゃなくて、性格とか声とかも変わるんだよ。中身は変わっても、同じスカエルだから安心して」


 スカエルはウインクしながら言った。


「そうなんだ!わたしはこの姿のスカエルも好きだよ!ちょっとお姉さんっぽい!」


「ははは、ありがとう。よし、そろそろクルムフの方角を調べないと」


「そうだった!え~と……ここから北西にあるよ!」


 ピリムは北西の方角に指を差した。


「じゃあ、少し早く帰ろうか」


「走って帰るの?」


「そうだね。でも、マジムを利用するんだ」


「あれ?スカエル、マジムが少ないんじゃなかったっけ」


「昼の姿では、確かに技をまともに出せないほど少ないけど、夜の姿だと少しだけ増えるんだ。その証拠に月の光を少し集められているから、羽がちょっとだけ大きくなっているでしょ?」


 スカエルの羽は昼の時よりも羽先の色が暗くなっており、大きさもほんの少しだけ大きくなっている。


「う~ん。暗くてよくわからない!」


「ははっ、そっか。じゃあ早速、マジムを使って下山していこう」


 スカエルは手のひらをかざし、少量のマジムの光を出した。スカエルのマジムの色は水色だった。


「(久しぶりに見たな。私のマジム……)」


「どうやって早く帰れるようにするの?」


「これを、こうするんだ!」


 スカエルはマジムの光を空中にばらまき、自分とピリムにかけた。


「光が!これでどうなったの?」


「危なくならないように手をつなごう。いっせーので一緒に走るよ」


「え?えぇ?どういうこと??」


「いっせーのでっ!」


 スカエルがそう言った瞬間、二人はとてつもないスピードで走った。


「うわ~!?すごいスピードだぁ!?」


「ピリム危ない!」


 スカエルがそう言うと、木にぶつかりそうだったピリムを持ち上げた。


「ありがとう、スカエル!でも、この持ち上げ方ちょっと恥ずかしいかも……」


「誰も見ていないんだし、これぐらいしないとピリムが危なくなっちゃうでしょ?」


「それもそっかぁ!」


 ピリムはどういうわけかすぐに納得した。


 二人は無事に下山していき、スシェル山の入り口に帰ってきた。無論、クラーフは町工場の前で心配しながら待っていたのだった。

ースカエル 夜の姿ー

日没後に変わるスカエルのもう一つの姿。昼の姿よりもマジムの量が少しだけ多くなり、羽も少しだけ大きくなる。

性格も夜の月のように落ち着いており、クールになっている。ピリムはどちらの姿も好きらしい。

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