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獣と天使は神の糸を引いた  作者: きらほし
0 旅の準備編
4/12

0-4 夢の指切り

「よし、服のデザインはこんな感じだな。青を基調にして、色んな環境に馴染むように……」


 ピリムとスカエルがスシェル山に行っている中、クラーフはスカエルに頼まれた服の作成と、武器の解析を進めていた。


「マジムの水晶玉を付けるようにしたいから、ここのジャボタイに付けよう」


 ジャボタイとは、フリルが付いているスカーフのようなものである。


「うん。これで一旦デザインは完成。細かいところは手作業でやっていこう」


 トルソーに服の生地をかけ、少々調節しながら太いまち針を刺していった。


「ボタンとリボンはここにして、ポケットはここで……」


 ただ独り言を言っているように見えるが、彼なりに頭を整理しているのである。


「二人は無事だろうか。スカエルさんはまだ地上に慣れていないだろうから、ピリちゃんが上手くフォローしていればいいんだけど」


 一方、休憩を終えたピリムとスカエルは残りの欠片を探し始めていた。時刻は2時半。太陽の光は橙色が目立ってきただろうか。




「スカエル!そっちどう?」


「一個だけあったわ。小さいものだけどね」


「なんか欠片が減ってきたなぁ。わたし達が取り過ぎたのかな?」


「それはないと思うけど……。減ってきたのは事実ね。太陽の位置も変わったから、その方向に来たのはいいものの……」


 今の太陽の方角は南西ほどである。二人は反対の方角である北東の場所にはいるのだが、いい収穫は無いようだ。


「あともうちょっとで、袋が満タンになるんだけど……」


「山が一望できるような場所は、山頂ぐらいしかないのかしら?」


「そうだ!あの展望台に行けば、結構辺りを見渡せるかも!」


 スシェル山は大昔から星空の研究が行われており、今でも度々さすらいの研究者が展望台を利用していたりする。


「展望台?そこはどういう所なの?」


「星を見たりとか、空の様子を見たりとかするんだよ。見た時の記録を研究に使ったりするんだ!」


「空に関する場所なのね。気になってきたわ!」


「じゃあ、周りの様子を確認するついでに、展望台もちょっと見てみようよ!」


「ちょ、ちょっと。強く引っ張らないで~!」


 そう言ったピリムはスカエルの手を掴み、少々強引に連れて行った。道は把握しているのだろうか。




「あっ!天文台見つけたよスカエル!」


 ピリムの指した指の先には、小さい天文台があった。


「つ、着いた……。本当に道を知っていたのねピリム」


「へへ。ここは結構お世話になっていたから、道のりは分かるんだ!」


 ピリムは自信ありげに言った。実際、展望台に着くまで一度も道に迷わなかったが……。


「そうだったのね……。あの看板に八合目って書いてあるわ。山頂までもう少しということかしら」


 小さい天文台の近くに『スシェル山八合目』と書かれている看板がある。まだあまり古びていないため、最近たったばかりの物だろうか。


「ここからチェスラングルの景色が一望できるよ!」


 ピリムの目は色鮮やかに輝いていた。クルムフの可愛らしい建物も、ブルムの赤い屋根の家も、全てが小物のように小さく見えている。


「わぁ……こんなに小さく見えるのね。あっ、あそこの草原って私達が出会った場所じゃない?」


「そうだそうだ!あそこの湖ってあんな形してたんだ~」


「あそこの上から私は落ちてきたのね……」


 スカエルは新鮮な目で空を見上げた。


「これから、スシェル山の山頂でも見ることができないほど遠くに旅ができるのかぁ。なんか改めて実感できるっていうか……」


 ピリムは穏やかな表情で、独り言のように言った。


「鳥が私達よりも低く飛んでるわ。そんなに高く上ったのね」


「まぁ、スカエルが居た天空には、地上のどこにも敵わないけどね~」


「それを言っちゃおしまいよ」


 スカエルは少し笑いながら言った。


「よしっ。天文台の中に行こうか!色んな資料とか本とかもあるんだよ」


「小さい所だけど、知識は豊富なのね。この天文台は」


 二人は天文台の古い木の扉を開け、中に入っていった。天井にはガラスが張っており、窓際には大きい望遠鏡がある。


「これを使って星を見たりするのピリム?」


 スカエルは大きい望遠鏡を指差した。


「そうだよ。望遠鏡って言って、このレンズを覗くと星が大きく見えるんだ!……ははは。今は昼だから、青空しか見えないや」


 ピリムは、興味本位で望遠鏡のレンズを覗きながら言った。


「……この沢山の本は全部、空に関する本なのね」


 スカエルが持っている厚い本の表紙には『夏の星Ⅱ』と書かれている。本棚には所々空きがあり、並んでいる本は傷が多かった。


「なんだか、昔の研究者達ががんばって調べて、まとめて、書いていったって考えると、考え深いものがあるね」


「そうね。どれだけこの展望台で研究を続けていたのかしら」


 二人は本を見ながらしみじみとしていた。


「あっ。この本懐かしい!家でずっと読んでたなぁ」


 ピリムは手のひらに収まるような、小さい本を取り出した。


「これは……絵本かしら。『一枚の翼』?」


 表紙には片翼の白鳥が描かれている。


「子ども用の絵本なんだけどね。生まれた時から翼が一枚しかない白鳥が、仲間みたいに飛ぶことを目指すお話なんだ」


「飛べない白鳥……」


「このお話を読んで、鳥でも天使でもないわたしでも空は飛べるって、自信が持てたんだ。この本を読んでなかったら、旅には出てなかったかもね!」


「ピリムにとって、とても大事な本なのね。……なんだかこの白鳥、私と似てる気がする」


 スカエルは表紙に描かれている白鳥の絵を優しく撫でた。


「確かに!今思えば、スカエルに似てるかも!せっかくだから、ちょっと絵本のお話しようか?」


「ぜひ聞きたいわ!」


 スカエルは興味津々にピリムを見つめた。


「この白鳥はね、他の仲間の白鳥にいじめられてたり、除け者にされていたんだけど、それでも夢を諦めないで、ずっと飛ぶ練習を続けるんだよ」


「夢を諦めない、かぁ」


 スカエルは絵本の白鳥を見ていたが、どこか憂いのある目で見ていた。


「白鳥は嵐の日でも飛ぶ練習をしてたんだけど、風が強すぎて遠くに飛ばされちゃうんだ。落ちてしまった所はゴミ捨て場でね、ずっと諦めなかった白鳥もすごく落ち込んじゃうの」


「落ちた先が偶然でもゴミ捨て場だと、自分はいらないんだって感じちゃうと思うわ」


「でも、そのゴミ捨て場でまだ使えそうな傘を見つけるの」


「(傘……)」


「その傘を一枚の翼で持って、嵐の風に乗って飛んでみたら、すごく高く飛べたんだ!」


「自分の力じゃなくても、周りの環境や物を使って飛ぶことができたのね!」


「そうなの!だから私は、自分に翼が無くても絶対に空を飛ぶことができるんだって思うんだ。スカエルもこの白鳥みたいに絶対飛ぶことができるから、いつか私と一緒に飛ぼうよ!」


 ピリムはスカエルに活を入れるようにいった。スカエルは優しく微笑みながら、


「ふふ。「いつか」じゃなくて、「絶対」って約束してくれる?」


 スカエルは小指を出しながら言った。


「はは。そうだね!絶対、一緒に空を飛ぼう!」


 ピリムも小指を出し、固い指切りをしたのだった。




 その頃、クラーフは服の生地をミシンで縫っていた。


「これで、スカートは完成だ。後は上の服を仕上げるだけ」


 クラーフの右斜めには武器に関する本が三冊浮いている。生活魔法を使ったのだ。


 基礎的な魔法なら、魔法が適していない種族でもマジムさえあれば簡単に使える。


「ずっと傘の武器について調べているが、中々ピンと来ない……。使い方はもう分かったんだけど」


 クラーフは本棚にある異質な本を見つめた。他の本は分厚く、クラーフが何回も見ているため古びている物が多い。


 しかし、その本だけはページ数が少なく、真新しいような雰囲気だった。


「もしかして……」


 クラーフはその本を取り、まじまじと見始めた。


「確か、20ページぐらいに……あった!傘の神器!あまり神器は調べてこなかったけど、この本があって良かった」


 クラーフが見たのは、伝説で語られている神器の本であった。その中に傘の神器もある。


「見た目は違うけど、特徴は同じだ。神器と言っても一部の天使族(エンジェルレイズ)は使えると書いてある。でも、神器は神と天使以外には触れられないんじゃ……」


 そもそも神器というものは、神が生み出した神聖な道具であり、武器だけでなく鏡や防具、盾も神器に含まれている。


「スカエルさんは天使だけど、何か特別なことを隠しているんじゃ……」


 不思議に思うクラーフだったが、一旦浮かせている本も含めて全ての本をテーブルに置き、上の服の作成にかかった。


「もう4時前だ。日没まで帰ってこれればいいんだけど……」


 時計を見ながらクラーフは言った。心配になりながらも、クラーフの町工場にはただただミシンの音が響き渡っていた。

ー生活魔法ー

魔法の中でも習得レベルが低く、魔法が不得意な人間族(ヒューマンレイズ)獣族(ビーストレイズ)でも簡単に使える魔法。マジムの消費も少ないが、魔法を頻繫に使いすぎるとマジムの力が暴走してしまう。

物を浮かせたり、遠くの物を取ったり、体の負担を減らしたりできる。

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