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旧 獣と天使は神の糸を引いた  作者: きらほし
1 最後の魔法使い編
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13/15

1-7 品性ある強者

 ピリムとスカエルは、目の前に見える小さい森に、吸い込まれるように入っていった。


「魔法使いの家はどこなんだろう?」


「こういうのって、奥にひっそりとあるようなイメージだけど、どうなのかしら」


 二人は森の木々を見ながら歩いていた。魔法使いがどんな人なのか、どのような強さを持っているのか、興味と恐怖に近い不安が混ざっている。


 綺麗な鳥の声が聞こえる反面、見たことない花や薬草らしき植物が沢山生えている。その不気味な光景にスカエルは少し身構えていた。


「スカエル、大丈夫?」


「え、えぇ。ちょっと不気味だけど、何とか……」


 そう言いながらも、スカエルの足は震えていた。


 今の時刻は14時半近く。まだ日は出ているはずなのに、影が目立って森の中は暗く見える。


「う~ん……?あー!!」


「な、何!?どうしたのピリム!」


 ピリムが突然大声を上げて指を差すため、スカエルはお化けでも現れたのかのように驚いた。


「あそこに家があるよ!」


「え?あ……本当だわ。家がある……」


 スカエルはため息をついた。


「もしかしたら、あそこに『最後の魔法使い』が……」


「すぐ見つかって良かったけど……なんかあっさりすぎない?」


「森の入り口から近いし、あまり動かないためにあそこにしたのかな?」


 二人が見つけた家はかなり古く見え、お世辞にも綺麗には見えない。しかし、森の背景には上手く溶け込んでいる。


「さっそく行ってみよ!魔法を教えてもらわなきゃ!」


 ピリムは無邪気に走り出した。


「ちょ、待って!」


 スカエルがピリムの服の袖を掴んだ瞬間、マジムの水晶玉が閃光を放った。


「まぶし!!って、水晶玉が!」


「シグレさんと出会った時よりも光っているわ……」


 ずっと見ていると、簡単に目がつぶれてしまうほどの光だ。光が眩しすぎるのか、木にとどまっている鳥達は逃げるように飛び去った。


「やっぱりあの家に魔法使いが居るんだね……!」


「でも今は、この光を何とかしないと!」


 スカエルの服に隠しても、光が溢れ出てしまう。


「シグレさんはどうやって光消してたっけ……」


 ピリムはシグレがやっていたように真似しているが、一向に光は消えない。スカエルはなんとなく念じてみるも、何も変わらなかった。


『うるさい。少し黙っていてくれ。鳥が逃げてしまっただろう』


 突如、二人の耳に不思議な声が聞こえた。人間?獣?妖精?……いや、二人はどれでもないと本能で感じた。


「だ、誰?魔法使い?」


「どこから声が……」


『喚きの原因はその水晶だな』


 そう言うと、どこからか紫色の光が現れ、水晶玉にまとわりつく。そうすると光が相殺し、水晶玉の閃光は消えた。


「き、消えた!?」


「誰かは分からないけど……ありがとうございます!」


 スカエルの声に、答えは帰ってこなかった。




「近くで見ると、結構ボロいなぁ」


 壁には汚れ、屋根は崩れ気味、ドアに付いているドアノブは油断したら取れそうだ。


「失礼よピリム……。もし聞こえてたら、報復でどうなるか分からないわよ」


「そ、そっか……!静かにしよっ」


 ピリムはわざとらしく口を塞いだ。


「とりあえず、ノックしてみる?ドア」


「そうね。まずはこっちに敵意がないことを示さないと……。ザッハトルテも用意したし、何かあったらこれで……」


 ピリムが古いドアを優しくノックした。


「返事が返ってこない………あ、少し音がした。立ち上がったのかな?」


「ひっ……!やっぱり怖い!どうしよう、いきなり魔法で攻撃なんかされたら……」


 スカエルはピリムの陰に隠れてしまった。


 足音が少しずつ近づいてくる――。


 ドアが開いた。






「どちら様でしょうか?」


「い、いやぁぁぁ……!」


 スカエルはいつの間にかピリムから遠く離れ、一人で怖がっていた。


「もう!スカエルったら怖がりすぎだよ!って、ごめんなさい!騒がしくしちゃって……」


 ピリムは息を吞んだ。今まで想像していた怖さや不安が、噓のように消えていくのだから。


 美しい桃色の髪、綺麗に手入れされている長い帽子。そして何より、若く美しい女性なのが驚きだ。


 しばらくピリムは動けなかった。魔法使いは少し戸惑いながら、


「あのぅ……大丈夫ですか?迷子ならご案内しましょうか?」


 と問いかけた。ピリムはその言葉にハッとする。


「はっ!!あ、あの!もしかして、『最後の魔法使い』ですか!?」


 ピリムは興奮しているのか、顔を赤くしている。スカエルはその大きな声に反応し、前を向き始めた。


「『最後の魔法使い』……そうですね。純血の魔法使いは、もう(わたくし)ぐらいしか居ません」


 魔法使いの言葉は肯定の言葉だった。


「やっぱり!さっき森の中で、スカエルの水晶玉が強く光ったんです!だから近くにあったこの家に居るんじゃないかと思って!」


 ぴょんぴょん跳ねながら、嬉しそうにピリムは言った。


「ピリム落ち着いて……。え、えっと、あなたを探していたんです!魔法について、お話とか聞きたくて……」


 スカエルは落ち着かせるようにピリムの肩を抑えながら、まだ怖がっているような表情で静かに魔法使いに聞いた。


「なるほど……。大体理解しました。まずは、中へ上がってください。ゆっくり話しましょう」


 優しい笑顔、丁寧な姿勢で魔法使いは話し、家の中に入っていく。スカエルはしばらくして腰を抜かし、安堵した。


「凄く優しそうな人で良かったね!スカエル!」


 ピリムは腰を抜かしているスカエルの手を掴み、立ち上がらせた。


「えぇ、本当に……。いきなり攻撃とかされなくて良かったわ。でも、まだ油断はできないわよピリム。優しく出迎えて、後で怪しい実験とかに巻き込まれたり……」


「もしかして、シグレさんの実験を想像してる?」


 遠くにいる灰色の猫がくしゃみをした。


「大丈夫だよ。あの人は悪い人じゃないってわたしは思う。心配ありがとうね!」


 ピリムは小声で優しく囁いた。スカエルはまだ心配しているような顔だが、ピリムの声で若干安心したようだ。




「あれ?なんか部屋が広い!」


「本当だわ。外見よりも大きいわね」


「この家には魔法がかかっていて、見かけよりも中は少し広くなっているんです」


 暖炉に火が灯っており、温かい絨毯が敷いてある。おしゃれなログハウスのような内装だ。


「どうぞ。ソファに寄りかかってください。紅茶と茶菓子を用意しますね」


「ありがとうございます!」


 ピリムが部屋の周りをよく見渡している。


「なんだか落ち着くなぁ~。私の家もこんな感じだったんだよ。おばちゃんの使ってる部屋は少し汚かったけどね!ははっ」


「ふふっ。ピリムの家も木で出来ているのね。凄くおしゃれで整っているわ。魔法で掃除したりしているのかしら?」


 スカエルも部屋をよく見渡しながら、さっきよりも落ち着いた声色で言った。


「そうですね。掃除は定期的に、魔法に頼りながら行っています」


 魔法使いがスカエルの疑問に答えながら、キッチンから出た。木のトレイには温かい紅茶とクッキーが乗っている。


「聞いていたんですね……!魔法で掃除なんて凄いなぁ」


 ピリムとスカエルが座っているソファには、埃が一つも無い。


「基礎魔法を覚えれば、比較的簡単ですよ。こちら、カモミールティーと、手作りのクッキーです」


 カモミールティーのフルーティーな香りが部屋中に広がる。クッキーも丁寧に作られており、お店に売っているようなクオリティだ。


「紅茶がいい匂い!クッキーも美味しそう!」


「え、このクッキー、本当に手作りなんですか!?」


「はい、お菓子作りが昔からの趣味なんです。……柄じゃないですかね?」


 少し照れながら魔法使いは言った。


「そんなことないですよ!キラキラしてて綺麗なクッキーですね!」


 ピリムが持っているクッキーは、『ディアマンクッキー』。ダイヤモンドのように煌びやかな光を持っている。


「じゃあ、早速いただこう!」


「「いただきます!」」


 ピリムはクッキーから、スカエルは紅茶からいただいた。


「う~ん!甘くて美味しい!!口の中がホロホロしてるよ!」


「紅茶もすっきりしてて美味しいです!凄く飲みやすい!」


 カモミールティーの水面にスカエルの落ち着いている顔が鮮明に映っている。


「良かった……!喜んでもらって何よりです」


 ティータイムを楽しんでいるピリムとスカエルを見て、魔法使いは優しく見守るように微笑んでいた。

ーディアマンクッキー・カモミールティーー

ディアマンクッキーは、普通のクッキーと比べて生地が柔らかく、ホロホロとした食感が特徴。

※『ディアマン』はフランス語でダイヤモンドという意味です。

カモミールティーは、フルーティーな香りで、優しい甘みをしている。

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