1-7 品性ある強者
ピリムとスカエルは、目の前に見える小さい森に、吸い込まれるように入っていった。
「魔法使いの家はどこなんだろう?」
「こういうのって、奥にひっそりとあるようなイメージだけど、どうなのかしら」
二人は森の木々を見ながら歩いていた。魔法使いがどんな人なのか、どのような強さを持っているのか、興味と恐怖に近い不安が混ざっている。
綺麗な鳥の声が聞こえる反面、見たことない花や薬草らしき植物が沢山生えている。その不気味な光景にスカエルは少し身構えていた。
「スカエル、大丈夫?」
「え、えぇ。ちょっと不気味だけど、何とか……」
そう言いながらも、スカエルの足は震えていた。
今の時刻は14時半近く。まだ日は出ているはずなのに、影が目立って森の中は暗く見える。
「う~ん……?あー!!」
「な、何!?どうしたのピリム!」
ピリムが突然大声を上げて指を差すため、スカエルはお化けでも現れたのかのように驚いた。
「あそこに家があるよ!」
「え?あ……本当だわ。家がある……」
スカエルはため息をついた。
「もしかしたら、あそこに『最後の魔法使い』が……」
「すぐ見つかって良かったけど……なんかあっさりすぎない?」
「森の入り口から近いし、あまり動かないためにあそこにしたのかな?」
二人が見つけた家はかなり古く見え、お世辞にも綺麗には見えない。しかし、森の背景には上手く溶け込んでいる。
「さっそく行ってみよ!魔法を教えてもらわなきゃ!」
ピリムは無邪気に走り出した。
「ちょ、待って!」
スカエルがピリムの服の袖を掴んだ瞬間、マジムの水晶玉が閃光を放った。
「まぶし!!って、水晶玉が!」
「シグレさんと出会った時よりも光っているわ……」
ずっと見ていると、簡単に目がつぶれてしまうほどの光だ。光が眩しすぎるのか、木にとどまっている鳥達は逃げるように飛び去った。
「やっぱりあの家に魔法使いが居るんだね……!」
「でも今は、この光を何とかしないと!」
スカエルの服に隠しても、光が溢れ出てしまう。
「シグレさんはどうやって光消してたっけ……」
ピリムはシグレがやっていたように真似しているが、一向に光は消えない。スカエルはなんとなく念じてみるも、何も変わらなかった。
『うるさい。少し黙っていてくれ。鳥が逃げてしまっただろう』
突如、二人の耳に不思議な声が聞こえた。人間?獣?妖精?……いや、二人はどれでもないと本能で感じた。
「だ、誰?魔法使い?」
「どこから声が……」
『喚きの原因はその水晶だな』
そう言うと、どこからか紫色の光が現れ、水晶玉にまとわりつく。そうすると光が相殺し、水晶玉の閃光は消えた。
「き、消えた!?」
「誰かは分からないけど……ありがとうございます!」
スカエルの声に、答えは帰ってこなかった。
「近くで見ると、結構ボロいなぁ」
壁には汚れ、屋根は崩れ気味、ドアに付いているドアノブは油断したら取れそうだ。
「失礼よピリム……。もし聞こえてたら、報復でどうなるか分からないわよ」
「そ、そっか……!静かにしよっ」
ピリムはわざとらしく口を塞いだ。
「とりあえず、ノックしてみる?ドア」
「そうね。まずはこっちに敵意がないことを示さないと……。ザッハトルテも用意したし、何かあったらこれで……」
ピリムが古いドアを優しくノックした。
「返事が返ってこない………あ、少し音がした。立ち上がったのかな?」
「ひっ……!やっぱり怖い!どうしよう、いきなり魔法で攻撃なんかされたら……」
スカエルはピリムの陰に隠れてしまった。
足音が少しずつ近づいてくる――。
ドアが開いた。
「どちら様でしょうか?」
「い、いやぁぁぁ……!」
スカエルはいつの間にかピリムから遠く離れ、一人で怖がっていた。
「もう!スカエルったら怖がりすぎだよ!って、ごめんなさい!騒がしくしちゃって……」
ピリムは息を吞んだ。今まで想像していた怖さや不安が、噓のように消えていくのだから。
美しい桃色の髪、綺麗に手入れされている長い帽子。そして何より、若く美しい女性なのが驚きだ。
しばらくピリムは動けなかった。魔法使いは少し戸惑いながら、
「あのぅ……大丈夫ですか?迷子ならご案内しましょうか?」
と問いかけた。ピリムはその言葉にハッとする。
「はっ!!あ、あの!もしかして、『最後の魔法使い』ですか!?」
ピリムは興奮しているのか、顔を赤くしている。スカエルはその大きな声に反応し、前を向き始めた。
「『最後の魔法使い』……そうですね。純血の魔法使いは、もう私ぐらいしか居ません」
魔法使いの言葉は肯定の言葉だった。
「やっぱり!さっき森の中で、スカエルの水晶玉が強く光ったんです!だから近くにあったこの家に居るんじゃないかと思って!」
ぴょんぴょん跳ねながら、嬉しそうにピリムは言った。
「ピリム落ち着いて……。え、えっと、あなたを探していたんです!魔法について、お話とか聞きたくて……」
スカエルは落ち着かせるようにピリムの肩を抑えながら、まだ怖がっているような表情で静かに魔法使いに聞いた。
「なるほど……。大体理解しました。まずは、中へ上がってください。ゆっくり話しましょう」
優しい笑顔、丁寧な姿勢で魔法使いは話し、家の中に入っていく。スカエルはしばらくして腰を抜かし、安堵した。
「凄く優しそうな人で良かったね!スカエル!」
ピリムは腰を抜かしているスカエルの手を掴み、立ち上がらせた。
「えぇ、本当に……。いきなり攻撃とかされなくて良かったわ。でも、まだ油断はできないわよピリム。優しく出迎えて、後で怪しい実験とかに巻き込まれたり……」
「もしかして、シグレさんの実験を想像してる?」
遠くにいる灰色の猫がくしゃみをした。
「大丈夫だよ。あの人は悪い人じゃないってわたしは思う。心配ありがとうね!」
ピリムは小声で優しく囁いた。スカエルはまだ心配しているような顔だが、ピリムの声で若干安心したようだ。
「あれ?なんか部屋が広い!」
「本当だわ。外見よりも大きいわね」
「この家には魔法がかかっていて、見かけよりも中は少し広くなっているんです」
暖炉に火が灯っており、温かい絨毯が敷いてある。おしゃれなログハウスのような内装だ。
「どうぞ。ソファに寄りかかってください。紅茶と茶菓子を用意しますね」
「ありがとうございます!」
ピリムが部屋の周りをよく見渡している。
「なんだか落ち着くなぁ~。私の家もこんな感じだったんだよ。おばちゃんの使ってる部屋は少し汚かったけどね!ははっ」
「ふふっ。ピリムの家も木で出来ているのね。凄くおしゃれで整っているわ。魔法で掃除したりしているのかしら?」
スカエルも部屋をよく見渡しながら、さっきよりも落ち着いた声色で言った。
「そうですね。掃除は定期的に、魔法に頼りながら行っています」
魔法使いがスカエルの疑問に答えながら、キッチンから出た。木のトレイには温かい紅茶とクッキーが乗っている。
「聞いていたんですね……!魔法で掃除なんて凄いなぁ」
ピリムとスカエルが座っているソファには、埃が一つも無い。
「基礎魔法を覚えれば、比較的簡単ですよ。こちら、カモミールティーと、手作りのクッキーです」
カモミールティーのフルーティーな香りが部屋中に広がる。クッキーも丁寧に作られており、お店に売っているようなクオリティだ。
「紅茶がいい匂い!クッキーも美味しそう!」
「え、このクッキー、本当に手作りなんですか!?」
「はい、お菓子作りが昔からの趣味なんです。……柄じゃないですかね?」
少し照れながら魔法使いは言った。
「そんなことないですよ!キラキラしてて綺麗なクッキーですね!」
ピリムが持っているクッキーは、『ディアマンクッキー』。ダイヤモンドのように煌びやかな光を持っている。
「じゃあ、早速いただこう!」
「「いただきます!」」
ピリムはクッキーから、スカエルは紅茶からいただいた。
「う~ん!甘くて美味しい!!口の中がホロホロしてるよ!」
「紅茶もすっきりしてて美味しいです!凄く飲みやすい!」
カモミールティーの水面にスカエルの落ち着いている顔が鮮明に映っている。
「良かった……!喜んでもらって何よりです」
ティータイムを楽しんでいるピリムとスカエルを見て、魔法使いは優しく見守るように微笑んでいた。
ーディアマンクッキー・カモミールティーー
ディアマンクッキーは、普通のクッキーと比べて生地が柔らかく、ホロホロとした食感が特徴。
※『ディアマン』はフランス語でダイヤモンドという意味です。
カモミールティーは、フルーティーな香りで、優しい甘みをしている。




