良くある(?)異世界召喚物
良くある異世界召喚と思いきや、呼ばれたのはどうやら普通の人間とは違うようで…?
いや召喚されるくらいだから普通ではない…そもそも普通…とは…?
異世界召喚―――それは(ラノベ世界では)良くある事。
召喚されるのは勇者だったり聖女だったり巻き込まれただけの一般人だったり…一人、あるいは複数だったりと多種多様である。
これはそんな良くある(?)召喚劇の一コマである。
とある世界のとある国のとある王城で、床に書かれた魔法陣を取り囲む魔術師や神官と覚しき人間たち。
呪文のようなものを一心に唱え、次第に魔法陣が光を帯びていく。
それがひときわ強く輝いたと思った次の瞬間―陣の真ん中に美しい一人の女が座っていた。
「成功した…!」「やった!これで国は安泰だ!」「うおおー!」「聖女様ー!!」
熱を帯びる人間たちとは裏腹に、女は青い顔をしている。
状況がよくわかっていないのだろうと、少し年嵩の人間が歩み出た。
「聖女様…」
「呼ばないでって神託したはずだけど」
話を遮られ、少し鼻白むがそれよりも『神託』と言う言葉に反応する。
「神託…この国に伝わる伝承の事でしょうか」
「何でもいいわ、どう伝わってるのか教えてちょうだい」
おそらくこの場では身分の高い位の人間に、慇懃無礼に話す女は随分と肝が据わっているようだった。
「…『異世界より聖女を召喚すべし。その者は神の妻なり。魔を滅ぼし、国に安寧をもたらすだろう』」
「全然違う」
「この国では神は王だ。つまりお前は予の妻になるのだ」
発言者の王と思わしき人間は、女の美しさとその肢体によだれを垂らさんばかりに厭らしく笑っている。
「それは」
『違ウ』
地を這うような低い声が頭に響き、同時にパキパキと音を立てて空間がひび割れていく。
声の主の姿が次第に顕になるにつれ、圧がかかりみな自然と膝を突き額を床に擦り付ける格好になる。
重苦しい空気の中で、誰も動けない―――ただ一人を除いて。
「あなた!迎えに来てくださったの?」
嬉しそうな声で、ナニカに近寄る気配がする。
『汝ハ我ノ妻ダ』
そう言うと、王らしき人間が消し飛ぶ。
みな次は自分の番かもしれないと、汁という汁を垂れ流し始める。
逃げ出したくとも指一本動かせず、許しを請いたくても口も動かない。
無限に思われる時間に終止符を打ったのは女だった。
「あなた、帰りましょ?」
『…ウム』
次第に遠ざかる圧に、ようやくノロノロと頭を動かすとひび割れた空間が逆戻りしていくところだった。
その隙間から、微かに女の声がした。
「二度と召喚なんてしないで」
その言葉に全員首が取れそうなくらい頷いた。
静寂が訪れ、日も傾き始めた頃。
みな全ては夢だったのではないかと思おうとした。
だが。
床に描かれた魔法陣は跡形もなく消え、代わりに王だった者の影が焼き付いている。
それは先程の出来事が現実に起こった出来事だと証明していた。
次代の王は本来であれば先代の影となるべきだった弟が継いだ。
その先代が影となっているのだから皮肉なものだ。
そしてその影は「決して異世界の者を召喚してはならぬ、この影のようになりたくなければ」という戒めとしていつまでもそこに有り続けるのであった。
物語が始まる少し前。
とある世界で神の妻になった人間と、彼女を溺愛する神は久しぶりに神域を出てのんびりと人間界でデートを楽しんでいた。
「あら〜?なんか別の世界に引っ張られそう」
『ナニ…?我ノ妻ニ手ヲ出ストハ…滅ボス』
「呼ばないでって神託してみる」
『異世界より聖女を召喚してはならない。その者は神の妻である。召喚すれば神は魔となり国を滅ぼす。』
「こんな感じかしら…あ」
中途半端に神託が過去に届いた末に結局神の目の前で召喚されてしまったため、怒り狂った神により王は見せしめ(と妻を邪な目で見たから)で消し飛んだのでした。