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第二十五話『向かい合う者たち/汚染岩石』

 次の日。

 セレナを見送ったその後から、ヴィオラたちの任務は始まった。


 任務としては基本的に、街の外れにある封印された魔物の祠を陰から監視する、という地味なモノである。

 真正面から攻炉の組織員が来るとは思えなかったが、アレンによれば「祠の前で直に封印を解除しないといけないから、どちらにせよここには来ると思うよ」とのことだった。


 いつ攻炉の組織員が来てもいいように、ヴィオラたちは交代で休憩を取ることになっている。

 アレンが見張る場合にはアレン一人、それ以外は最低二人で見張りをすると決めてから早くも数日が経った。


「うーん、なんか見られてる気がするんだよな」


 どうやらアレンは、隠れているガランたちの視線に何か感じるものがあったようだが、イマイチ正体が掴みきれないので、放っておいているらしかった。

 ヴィオラにとってもガランたちがバレないのはありがたいことなので、そのまま存在を黙っておくことにする。


 そして組織員が現れないまま、さらに時は過ぎる。

 段々とルーティン化していく作業に少しずつヴィオラ・ミレイユ・タクトの三人は疲弊していったが、それでも途中で任務を投げ出すわけにはいかない。

 アレンの励ましを受けながらも、常に一定の緊張感をもって任務に臨んでいた。


 だがやがて、その時は突然訪れた。


 真夜中の部屋で、ヴィオラは静かに寝息を立てていた。

 そこへ警報のような音が突如鳴り響く。


「……ッ!」


 ヴィオラは飛び起きて、傍らに置いてあった小さな端末を手に取った。

 アレンから連絡用にと渡されていた通話用魔道具だった。

 希少なモノだったが機関は積極的に取り入れているらしい。

 端末のボタンを押して警報音を切ると、ヴィオラはそれを耳に当てる。


『ヴィオラ、タクトを連れてすぐ来て。攻炉の組織員らしき人物が二人来てる』


 端末からはいつも通りだが、張り詰めた雰囲気のミレイユの声が聞こえてきた。

 ヴィオラは軽く返事をした後端末を切ると、傍に置いてあった黒牢を持ち隣の部屋で寝ているタクトを起こす。


「タクト、タクト! 起きて、来たみたい」


 寝ぼけまなこでヴィオラの言葉を聞くタクトだったが、意味を理解するとみるみる青ざめ震え出す。

 そのままシーツを掴むとベッドの上でうずくまった。


「……ぼ、僕はやめておくよ。ヴィオラだけ行ってきたらいいよ」

「はぁ!? 何言ってるの、冗談言ってる場合じゃないんだよ!? ほら!」


 嫌がるタクトを無理矢理引きずるようにして、ヴィオラは部屋から出る。

 タクトは常時周囲に対してオドオドしている人間だったが、戦闘に関してはそれに輪をかけて恐怖心を抱いているようだった。

 そんな人間が何故機関に入ったのか、とヴィオラは疑問に思うものの、今はそんなことを考えている場合ではない。


 タクトを無理矢理走らせつつ、ヴィオラは街から少し離れた祠に向かう。

 街から離れているのに休憩中は宿で寝ていて大丈夫なのか、とヴィオラたちは疑問に思っていたものの、『中途半端なところで休んで、万全の体制で戦いに臨めない方が危ない』というアレンの指示に従っていた。


 月が明るく地面を照らす中、険しい山道をヴィオラたちは走る。

 数分後、ようやく祠の前までたどり着くと、そこにはもう既に攻炉の組織員らしい二人と相対しているミレイユとアレンの姿があった。


 組織員の一人がヴィオラたちの方を振り向く。

 ゾッとするような美貌を持つ女性だった。豪奢なドレスに身を包んでいる。


「あら、クライグさん。挟み撃ちにされたみたいですわよ」


 傍らの男……クライグに女性は言う。

 男はヴィオラたちの方を振り返らないまま、少ししゃがれた声で苛立ちを吐露した。


「全く、めんどくせぇ事この上ないな。おい、ネメシア。サクッと終わらせてさっさと帰るぞ」

「あら。クライグさんは戦闘を楽しむタイプだと思ってましたわ」

「普段はそうだが、今日はどうも調子が良くねぇ。体内魔力の循環が悪いみたいだ。風邪みたいなもんだな」


 ゴキッと首を鳴らしつつ、クライグは気だるげに構えた。

 それを見て、ヴィオラたちの向かいにいたアレンが声をかける。


「ヴィオラ、タクト。君たちはミレイユと組んで、ネメシアって人を少しの間だけ頼む。俺はそっちの男……クライグだっけ? 相手した方がよさそうだ」


 しかし、ネメシアを捕まえて距離を取るため、アレンが大きく踏み込もうとした時。


「そう全部、お前らの思い通りにさせるわけがねぇだろ。汚染岩石ダーティー・ザ・ロック


 クライグの周囲の地面が盛り上がり、数本の土の手を形成した。

 そしてそれらはそのままアレンの体を素早くガッチリと掴むと、遠方へ向かって勢いよく投げた。


「ちょ、うおっ!?」


 突然のことに何か言う暇もなく、アレンの体は山の上方へと消えていく。

 そのすぐ後に、示し合わせたようにクライグとネメシアは頷くと、ネメシアだけアレンを追って、ドレスを着用しているとはとても思えないスピードで走っていった。


 唖然とするヴィオラたちへ向かって、クライグはポキポキと指を鳴らす。


「さっき飛ばしたのはお前らの上司か? アイツ、まずは確実に俺を倒そうとしてきやがるんだもんな。戦略としては正しいが姑息だな」

「……ヴィオラ、タクト、構えて」


 ミレイユが鞘から剣を抜くと同時に、ヴィオラは黒牢を、タクトは両腕を前に出し構えた。

 しかしタクトの顔には、相変わらずとめどない冷や汗が流れている。


「さぁ、バルフのジジイを倒した奴がこの中にいるかは知らねぇが、まずは小手調べだ」


 クライグは地面から無数の土の手を出し、ヴィオラたちを捕えるために一斉に発射した。


鉄凍塵法(メタル・フロスト)!」


 しかし土の手に体を掴まれる直前に、ミレイユは剣を静かに薙いだ。

 すると、それと共に氷の風が吹き荒れ、一瞬にして全ての土の手が凍ってしまう。


「すごい……」


 ヴィオラは思わず呟く。

 ヴィオラが意識不明だった間、ずっとミレイユは修行をしていたとは聞いていたが、確かに魔法の練度が格段に上がっているように見える。


「ヴィオラ、タクト! 奴との距離を詰めて、とりあえず攻撃を!」


 その言葉を置き去りにするように、二人は走りだす。

 ヴィオラは黒牢に魔力を込め、思い切りクライグへと叩き込んだ。

 しかしそれは、突如できた土の壁によってガードされてしまう。


 しかし、クライグの意識が一瞬ヴィオラの方へ向かったのを見て、タクトは魔法を発動させた。


七撃奥義(セブンス・ブレイズ)……草原の牡鹿(グラス・ディア)!!」


 瞬間、タクトの魔力は一瞬にして膨れ上がり、巨大な鹿の虚像を作り出した。

 タクトはそれを指揮するように手を動かすと、その動きに沿って鹿はクライグへと襲い掛かった。

 鹿の周囲に葉が渦巻き、その勢いにクライグは呑まれる。


 その間に土の壁を切り裂いたヴィオラは再びクライグへ向けて剣を振るう。

 しかし、クライグはそれを魔力で纏った素手でガードした。

 と、同時に鹿の角を掴んでへし折る。


「こんなもんかよ!」


 タクトとヴィオラの間からミレイユが飛び出し、クライグに剣を振るう。

 間一髪でクライグはそれを避けるが、剣を振るったことによって発生した吹雪を一部くらい、体の約半分が凍り付いてしまった。


 体の固定により、クライグは防御も出来ず無防備な体勢になる。

 そこにヴィオラはすかさず斬撃を叩き込んだ。

 氷がひび割れ、体にまでダメージがいくかと思ったが……その予想は甘かった。


「けっ」


 クライグは服の下に薄い土の障壁を纏わせ、それによってヴィオラの攻撃を完全にガードしていた。

 ラウローのような、いやそれ以上の実力をクライグが持っているであろうことをヴィオラは認識する。


 クライグは体にまとわりついている氷を割ると、目にも止まらぬ速さで親指ほどの丸まった土を指ではじいた。

 弾丸のように発射されたそれは、ミレイユに向かうが、ミレイユはそれを避けるがほんの少しだけ肩を掠めてしまう。

 危険を察知したのかミレイユは少し距離を取る。


 その後もヴィオラは黒牢を振るい、タクトは鹿を操って攻撃を重ねていくが、クライグはそのほぼ全てをいなし、ほとんどダメージを与えられずにいた。

 攻撃をしていく中でヴィオラははたと気づくが、ミレイユの動きが先ほどから遅くなっている。

 ヴィオラはミレイユに声を飛ばした。


「ミレイユ! どうしたの!?」

「くっ……」


 ミレイユは二、三歩よろめくと片膝をついてしまった。

 ヴィオラは駆け寄ろうとしたがしかし、タクトと二人でクライグを抑え込むので精一杯だった。

 クライグの攻撃をなんとか躱しながらも、ヴィオラはミレイユの方を見る。

 すると、ミレイユの肩が……先ほど土の弾丸が掠った辺りの肩が、紫色に変色しているのが見て取れた。


「……毒」


 ミレイユの肩を見たことにより、ヴィオラの頭にはクライグの魔法の正体が浮かぶ。

 思わず漏らした言葉に、クライグはニィっと笑って反応した。


「正解だよ、小娘! 俺の汚染岩石は、毒を含んだ土を操るッ!」


 土の手を大量にヴィオラに対し撃ちだすクライグ。

 それをなんとか刀でガードしつつ、ヴィオラはミレイユに再び声を飛ばした。


「大丈夫、ミレイユ!?」

「心配……しないでッ」


 よろめきながらもミレイユは立ち上がるが、その足取りはフラフラとしたものだった。


「ぐあっ!?」


 声につられて前方をヴィオラが見ると、タクトが鹿ごとクライグに吹き飛ばされていた。

 どうやらクライグは、魔法以外に体術も相当な使い手らしい。


 荒い息を吐きながら再び剣を構えるミレイユに対し、ヴィオラは問う。


「あと少しだけ動ける?」

「えぇ……でも、このままじゃジリ貧よ」


 ミレイユは冷や汗を大量に浮かべつつヴィオラに問い返すが、ヴィオラは首を振る。


「私に考えがある。一分だけ、私のために動いてほしい」


 ヴィオラは黒牢を刺突の構えで持つ。

 その刀身はいつものように黒い光は放っておらず……正反対に、白く輝いていた。

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