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日記的 エッセイ

赤福チャレンジ

作者: オーフジ

 ルールは簡単。新大阪駅のコンコースの土産店で赤福八個入りを用意する。新幹線が発車したと同時にそれに喰らいつく。京都到着前に食べたら私の勝ち。食べきれなけえば赤福の勝ち。

 いつからやり始めたか、これまで何回挑戦してきたか最早覚えていないが、「これをしない限りは東京に戻れない」といった体になってしまった。これまで勝った試しはない。


 その日も私はのぞみ号の中で戦の始まりを待っていた。今日の私のコンディションは良好。何故ならこのためにお昼ご飯を抜いてきたから。

 デッキの方からからドアの閉まる音が聞こえる。今だ! プレゼントを開ける子供ばりの勢いで開封する。勢いそのままに一つ目の赤福を丸ごと口内に放り込んだ。


 甘い。


 甘すぎる。


 赤福に味のハーモニーなんてものはない。存在するのは暴力的な甘さだけだ。味覚だけじゃない。その匂い。その見た目。餅が舌に絡みつく感触。口からする咀嚼音。五感の全てが脳に向かって「甘い」という情報だけを叩き込んでくる。視界が白くチカチカ点滅して、頭はクラクラくる。肩はフルフルと震えだす。目には涙を蓄えさせ、嗚咽しそうになる。

意識は朦朧となり、手放しそうになるのをなんとか繋ぎ止める。

 この時にやってはいけないのが、赤福を口に入れたまま水を飲むという行為だ。なぜなら、冷めたお汁粉とかいうこの世で最も気色悪い悪魔的飲み物が体内で完成するからだ。この愚行を過去にやって痛い目にあった。

 気合いだけで顎を動かし嚥下する。胃袋にずっしりと重りが投下されたような気分になる。水を一口ふくみ、深呼吸をした。

 まだ一つ目。目の前の箱には紫の堕天使が七体も残っている。覚悟を決めて二つ目に取り掛かる。


やっぱり甘い。


決めた。全ての感覚をシャットアウトしよう。今から私はロボットだ。赤福爆弾を処理するために生まれたロボット。私はひたすら咀嚼と嚥下繰り返すただけ存在。そうだ感情なんていらない。

冷や汗ダラダラの欠陥機械は懸命に戦い続けた。比較的余裕のあった胃袋が功を奏し、最後の一つまでたどり着くも、すでに限界は超えていた。それでもロボットは腕を動かし、口へ運ぼうとする。脳が「これ以上の摂取は危険だ」と判断を下すが、バグが起きた機械は止まらない。

最後の一つが口に入った。強烈で甘い刺激がズキズキと体中を突き刺す。

私は耐えきれず禁じ手を使う。残っていた水を全て飲み込んだ。頬はパンパンに膨れ、目はガン開きになる。だが私はロボット。気色悪い汁粉なんて気にならないんだ。そうだ感情なんて邪魔でしかないんだ。水と舌を巧みに使い無理やり喉奥にそれを押し込んだ。

その瞬間、車内にチャイムが鳴り響く。

 

「まもなく京都。京都……」


 やった。遂に勝ったんだ。人間に戻った私を大きな達成感が包み込む。

 ここまで数々の苦労の全てはこの日のためにあったのだろう。私は窓に映る東寺を眺めながら勝利宣言をした。

「ごちそうさまでした」


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― 新着の感想 ―
[良い点]  こういう話、好きです。
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