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世界の終わり

作者: ユヒト

2020・4・15

  今日は今朝見た夢の内容を書こう。その日、俺は暗い空間にいた。何もない空間に横になっていた俺はすぐに起き上がった。ここがどこかわからない。誰も何もない場所に怯えた。すると、強烈な光が目の前に現れた。その光は俺に語りかけた。

「お前は、選ばれた。私に選ばれた。私の言うことよく聞き実行するのだ。」

なんのことかわからない俺は混乱した。光の声はそのまま続けた。

「お前の家から近い宝くじ売り場に行き、今すぐに宝くじを買うのだ。番号は0−6−1−6だ。危機に備えよ。危機に備えよ。危機に備えよ。」

その光はそう語りかけ、俺は目を開けた。その日の夢は妙にリアルに感じられた。いつも夢なんて内容は覚えていないがその日はよく覚えていた。

0616

なんの数字かわからないが何か自分に引っかかるものがあり今日の仕事終わりに宝くじ売り場で券を買った。もっと早く買うべきだったが朝仕事に遅刻しそうなり、昼休みも買う暇がなかった。当たるといいな。


2020・4・16

 奇跡が起きた。この前に書いた夢で聞いた数字を書いたくじが当たった。なんと、一千万。この日記を書いている間も手が震えている。動揺している。知らせを聞いた時に泣いた。思えば、俺の人生は両親に先立たれ、育ててくれたばあちゃんは22歳の時に病死。高校卒業してから金もない、勉強もできない俺はばあちゃんを少しでも豊かにしたいと現場で働き始めた。働き始めて分かった。俺には体力もない、頭も弱い、他の先輩や後輩とは話しが噛み合わないので、どこか自分は避けられている気がした。思えば、昔からそうだった。どこか他人とは違う自分がいて、深く仲良くできない。辛いがばあちゃんの為に働く。その為に必死でやってきたが、唯一の家族のばあちゃんも、いない。何のために必死で頑張っていたのかわからず、きついが給料が良い現場の仕事を辞め家賃を払うために簡単なアルバイトを始めた。休んだり、働いたりしてただ過ごしていた。金もない、家族もいない、友達もない、彼女もいない、情熱をかける仕事も趣味もない俺についに、ついに運が向いてきた。まず、何を買うか。迷う。迷う。迷う。しかし、ずっと引っかかってたことがある。

「危機に備えよ。」

あれは何なのか。わからん。とりあえず、今日はこれで終わり。何に使うか明日考えよう。


2020・4・17

 夢の中に光が現れた。宝くじを買う前に見たのと同じものだ。光はこう言った。

「私の言うこと正しかろう。次にやるべきことを伝える。仲間を見つけよ。」

そう言って目を覚ました。仲間?はて、仲間とは。そもそも、俺は友達も彼女もいない。そんな人間に仲間なんていない。光の仲間か?そもそも人でも動物でもないモノに仲間も何もないだろ。少し考えてから一つのアイデアが浮かんだ。そうか、スレを掲示板に立てよう。もしかしたら、同じような経験をしている人間が誰かいるかもしれない。これから、やってみる予定だ。


2020・5・12

 日記を書くのは久しぶりだ。なんせ忙しかった。と言うのも、あれから掲示板に「光のお告げで宝くじ当たったんだけど質問ある?」とのスレを立てた。その結果、冷やかしやアンチコメントも沢山あったが3人に似たような経験をしたことがあると書いていた。しかも、驚いたことに同じ日に同じような内容であったと。印象的だったのは「危機に備えよ。」という言葉。そこから、少し長く3人で連絡を取り合う日々が何日か続き、いつしかラインでグループを作りそこで連絡を取り合った。驚いたのは3人とも年齢はバラバラだが境遇が似ていて家族もなく、お金も裕福にあるわけでなく、友達もあまりいないと言う。俺たちは時に長く電話で話すことになった。境遇が同じだと話題に困らずに何時間でも話せた。まるで昔からの友人であったような妙な居心地の良さを感じた。それは彼らからも感じられたような気がする。一人は、長田さんと言う俺より10歳上の男性で溶接工をしているという。競馬が趣味で光のお告げで馬と連番券を購入した結果、何と500万当たったという。本人も奇跡だと感じており毎日お告げが来るように寝る前に祈っているという。もう一人は香織ちゃんと言う俺より5歳下の女性だ。大学生で奨学金の返済のためにバイトと学業に忙しいという。彼女は光からのお告げに競馬や宝くじの内容はなくお金になるような話しは全くなかったらしい。俺たちのことを羨ましそうに嘆いていた。そんな時にせめてものと言う気持ちで僕と長田さんで香織ちゃんに高級料理のフルコースをご馳走する予定を立てた。俺たちが儲けたお金に比べたら高級料理も大したことはない。早く予定日にならないか楽しみだ。思えば、自分の話を聞いてくれる相手がいない代わりに毎日日記を書いていた。しかし、今は自分の全てを話せる友人がいる。この多幸感は初めてだ。だから、日記も毎日は書けないけどそれもいいかな。


2020・9・7

 衝撃的なことが起きた。何と長田さんが自殺した。原因はわからず遺書もないらしい。僕と香織ちゃんは動揺した。二ヶ月前に長田さんと香織ちゃんと3人でご飯を食べて、あんなに嬉しそうに笑ってお酒飲んで。そんな長田さんが自殺するなんて・・・

とても信じられず、香織ちゃんも泣いていた。告別式は来週だと言う。香織ちゃんと一緒に参加する予定だ。


2020・10・11

 香織ちゃんが昨日初めてうちに泊まりにきた。長田さんの自殺がショックで一人で寝るのが辛かったのだろう。僕のうちに今まで誰も泊まりに来たことはないのでニトリで新しい掛け布団、敷布団を彼女の為に用意した。少しよそよそしい印象であったが二人でご飯を食べて、テレビを見て、お風呂はもちろん別々に入り布団に入った。時々、彼女のすすり泣くような声が聞こえた。僕はどうして良いかわからず黙ってしまった。僕がもし、モテるイケメンであればあのまま男女の関係になれたのかもしれない。香織ちゃんは可愛い。正直、僕にはもったいなくらいの美人だ。それよりも俺はばあちゃん以外で誰かと二人きりで食事をしたことがなく本当に久しぶりに一つ屋根の下で一緒にご飯を食べた。それが、本当に幸せだった。こんな幸せが永遠に続いてほしい。そう願った。


2021・1・7

 あれから香織ちゃんは週に何回かうちに泊まりに来るようになった。理由は、大学が自分のうちよりも俺の家の方が近いらしい。僕は嬉しかった。まるで、恋人ができたようで。たまに香織ちゃんは僕に手料理を振舞ってくれた。仕事から帰宅したら掃除してくれていた。僕は誰かと生活するのはこんなに幸せなんだと改めて実感した。こんな日が続けばいいのに。


2021・3・15

 昨日は香織ちゃんの大学の卒業式。その後、二人でささやかなお祝いをした。それから香織ちゃんに告白した。結婚を前提に付き合ってくださいと。そうしたら彼女、泣きながら受け入れてくれた。本当に嬉しかった。夢かもしれない。そんな風に思った。本当の恋人になった。幸せだ。


2021・5・16

 おとといから香織ちゃんとの同棲が始まった。そして、香織ちゃんと初めて男女の営みをした。僕は初めてでとても緊張した。彼女も実は初めてだった。お互いどこか緊張しながらでも、とても幸せだった。ああ、俺明日死んでもいいや。そんな風に幸せを実感した。


2021・11・13

 香織ちゃんと入籍した。これで俺たちは夫婦になった。嬉しい。でも、どこか香織ちゃんの体調がおかしい。病気でなければ良いが・・・

2022・11・22

 香織ちゃんが妊娠した!なんてことだ!僕は震えるくらいに喜んだ。

2022・3・14

 香織ちゃんのお腹はどんどん大きくなった。その分、俺が行う家事も増えた。仕事との両立は忙しいが何とか両立できるように頑張る。


2022・6・15

 元気な女の子が生まれた。嬉しい。香織よく頑張った。これから忙しくなるな。

2023・6・16

 あの夢を見た。あの時と同じ暗い空間にいた。何もない空間に横になっていた俺はすぐに起き上がった。。誰も何もない場所に怯えた。すると、強烈な光が目の前に現れた。その光は俺にまた語りかけた。

「世界の終わりが近い。私にお前の大切なものを捧げよ。そうすれば、世界は救われる。」

その後に目覚めた俺は震えた。一番最初に香織と娘の顔が浮かんだ。

                                                    完


 

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