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少女の名前

月が沈みそうな時間帯に、リッグはシンヤをシルフは少女を連れて村に着く。


リッグはケーブの家にすぐさま行き、シルフも後に続く。


「父さん! シンヤの目が! 父さん!」


リッグが必死にドアを叩き、ケーブが慌ててドアを開ける。


「こんな夜にどうした。シンヤ! 中に入れ、シルフも入れ!」


中に入るのを急かし、暖炉とランプに火をつけ前にシンヤを寝かせる。シンヤは苦しそうに息をし、体中から汗が吹き出ている。


「シンヤ、大丈夫か? ケーブだ。反応は無し…か。熱がすごいな。リッグ、水とタオルを用意して、汗を吹いてくれ。シルフ、シンヤの状態が悪くなるようだったら伝えろ。大丈夫だな? 俺は薬を作る」


ケーブはシンヤの状態を見極め指示をし、部屋を離れる。

少女は家の中が騒がしいのを部屋の端で見ていた。


朝日が昇り始める頃に飲み薬と二種類の塗り薬が完成し、シンヤの元にケーブが持ってくる。


「シンヤ、これを飲むんだ。シルフ、この手紙をチャークに渡してくれ。頼んだぞ」


ケーブはゆっくりと薬を飲ませ、シルフは急いで家に戻る。


「リッグ、お湯を持ってきてくれるか? それと新しいタオルも」


ケーブは冷静に場を管理し、最良の選択を見極め、リッグは急いで湯を沸かし、木のボウルに入れ、持ってくる。


「そこにこれを半分程入れてくれ、傷周りを消毒する」


消毒薬を絞ったタオルでシンヤの目の周りの血を拭い、傷周りを消毒する。消毒薬が傷に触れる度、シンヤの顔は苦痛を浮かべる。


「かなり痛いだろうが、我慢してくれ」


ケーブはシンヤに声をかけながら消毒するが、シンヤには声は聞こえていなかった。


「ケーブ! シンヤは大丈夫か!」


チャークが着き、ドアを勢いよく開ける。後ろにはヘンリーとティンダル一家がいた。シンヤの傷を見て、チャークが慌てる。


「シンヤ! おい! リッグ、どうしたんだ! この傷は!」


必死になってリッグに聞く。


「すまない、駆けつけた時にはもう遅くて…」


リッグは弱々しい声を出す。


「シンヤさん…。なんで…」


マリカは衝撃でその場で目を見開き固まる。


「チャーク、落ち着くんだ。手遅れでは無い。別の部屋で待ってろ。マリカと、ポピーはここで手伝ってくれるか?」


ケーブの指示に駆けつけた五人は従い、マリカとポピー以外部屋から退出する。そして、落ち着きを取り戻す。


ケーブは塗り薬の準備をし、塗り始める。シンヤは顔を苦しそうにするが、意識は戻らない。


「回復魔法を頼んでいいか?」

「『キュアヒール』」


二人が息を合わせ、同時に魔法をかけ、シンヤの傷は塞がっていく、だが傷痕だけは残ってしまう。


魔法をかけてからのシンヤの顔色は先程と比べ物にならないほど良くなった。


「よかった。本当によかった」


マリカは目に涙を浮かべながら声を出し、シルフもシンヤの頬を優しく舐めた。


「二人ともチャークに伝えてくれ」

「君はこっちに来てるれるか?」


ケーブは少女を連れ、ダイニングへ移動する。それと入れ替わるように、チャークや他の人が入ってくる。


ケーブは椅子を引き少女を誘導する。


「君、ここに座ってくれ」


少女は固まっている。


「ここに座りなさい」


優しく、だけど命令するように、言葉を歯切れよく出す。少女は狼狽えながらも椅子にゆっくりと座る。背が低く、座るとテーブルから顔を出すのがやっとの程だ。


「座ってくれて、ありがとう。少し待っててくれ」


ケーブはキッチンへ行き、少したったら、湯気の立つマグカップを二つ持って戻る。マグカップの中には、いい匂いがする甘いアップルティーが入っていた。マグカップを一つ少女の目の前に置き、もう一つを反対側の席の前に置き、腰掛ける。


「アップルティーだ。暑いけら気を付けて飲みなさい」


少女は少しだけ口をつけ、マグカップを元の位置に戻す。


「君の名前を教えてくれるか?」


ケーブが優しく聞いても、俯いたままで声は出さない。


「名前は無いのか?」


少女は俯いたまま、小さく頷く。


「そうか…。君はあのお兄さんに助けられたのかい?」


少女は先程と同じように頷く。


「あのお兄さんは怖くはないか?」


また、少女は俯いたまま頷く。


「君はどこから来たんだ?」

「分か、ら、ない…」


片言でボソッと話す。


「君は誰に何をされたんだ?」

「何を…イヤッイヤ…」


少女は頭を抱え、顔を強ばらせ、声を上げる。それ程大きな声は出ていないが、先程の応答よりは大きな声が少女から出た。


「大丈夫だ。大丈夫だ」


ケーブは少女に近づき、なだめる。少女は落ち着きを取り戻すが、ケーブの腕には少女が爪を伸ばし、暴れて引っ掻いた傷ができていた。


「ごめん、なさい」

「いや、こちらこそ嫌な事を思い出させたな。君はもう寝た方がいい」


ケーブは少女を連れてリビングへ行き、床に大きなタオルを敷き、簡易的なベットを作る。そこに少女を寝かせ、シンヤのいる部屋に向かう。


「お前達、そろそろ家に帰って寝たらどうだ?」


ケーブが部屋に入り、全員に向かって提案する。


「そうだな、ここに居ても出来ることないしな」


ジンがケーブの提案を受け入れる。


「わかった…」


チャークも渋々だが受け入れる。


朝になり、シンヤは目を覚ます。


シンヤは目をかこうと手を伸ばすが左目には包帯が巻かれ、目に感覚がない事に違和感を覚える。


「あれ? 俺の目は…」


ボソッと声に出す。


シンヤが困惑しているとドアが開く音がし、シンヤの意識はそちらの方へ向く。そこには、獣の耳がついた可愛らしい茶髪の女の子がいた。


女の子はシンヤに一礼し、水の入ったコップを手に近づいてくる。


「お前は、あの時の少女か?」


少女は恥ずかしそうに頷き、シンヤの前で膝をつき、コップを手渡す。シンヤは体を起こし、それを受け取る。


少女は先日と比べ物にならないほど綺麗で、服もまともな物を着ていた。だが、傷痕はそのままで、首輪を引っ張られていた痕が痛々しく残っていた。


「名前を聞いてもいいか?」

「なまえ、つけて、ほしい…」


少女は片言で声が小さくなっていく。


「名前がないのか?」


少女は頷き、シンヤを見上げる。


「そうか…でも、俺でいいのか?」


少女は頷く。


「おにいさん、たすけて、くれた。だから…」

「これも、首を突っ込んだ責任か…」


シンヤはしばらく真剣に考える。


「よし! お前は、リナだ。どうだ?」


少女は嬉しそうに大きく頷く。その際にシンヤと合った目は綺麗な茶色で光を反射していた。


「よし、俺は着替えるよ。見られると恥ずかしいから、少し出て行ってくれるか?」


リナは嬉しそうに頷き、ドアの前で礼をし出て行く。


シンヤはそれを見送った後、頭を下げ、包帯で巻かれた左目を押さえ、苦しそうに深呼吸し、辛そうな声を漏らす。


それをドアの後ろでマリカが苦しそうに聞いていた。

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