契約
『貴方と私は今から一心同体となります。なので、私のことはシアとお呼びください』
「わかった。シア。どうやって、一心同体になるんだ?」
『その説明の前に、貴方の左目を見せてくれますか?』
「あぁ、分かった」
シンヤは包帯をとり、神像に顔を向ける。顔には左眉から左目の上を通り鼻の横程まである傷跡がはっきりと残っており、瞼を開くと眼球にまで傷跡が残っているのがわかる。
『神像の近くに来て、土台の蓋を開けてください』
近付いて分かったが、神像の土台はシンヤの腰程まであり、神像自体、二倍近くあった。
神像の足元には注視しないと分からないが、四角形の切込みのようなものがあり、他には何も無い。
「どうやって開けるんだ?」
『押してください』
言われるがまま切込みの中央を押す。少し、沈んだかと思うと、奥の方へスライドし、土台の中に入っていく。
中には白い虹彩の目玉が入っており、シンヤは躊躇うことなく手に取り凝視する。
「目玉か?」
触り心地は固く、粘液のヌメヌメ感もない。
『それは義眼です。その義眼には私の魔力で作ったコアが入っています。それを左目と交換できますか?』
義眼を見て固唾を呑み、神像の目へと視線を移動させる。
「やってみよう」
少し躊躇いながらも決心をすぐさまにし、指を眼球に近付ける。見えてないのに瞼は指を拒絶する。体に言う事を聞かせ、眼球に触れる。触って気づくが、自分の眼球は乾き切って、痛みも何も感じない。
「うっ。ゔああ──っ! 」
眼球を引っこ抜こうとすると痛みが走る。気にせず思いっきり引っ張るが、先程と比べ物にならない程の激痛が瞼裏に走り、左目を押さえ声をあげる。神経はまだ生きていたようだ。押さえてる手から血が流れ出す。
『早く義眼を、楽になります』
手が震えながら必死に義眼を目にはめる。義眼の大きさはピッタリで向きは違うものの、シンヤの目にはまる。さらに、痛みは嘘のように消える。
目に違和感はない、前の目と変わりなく、何も見えないし、感じない。右目で神像を見つめ、息を整える。
「この後は、どうするんだ?」
『その義眼を媒介とし、私自身を貴方に宿します』
「じゃあ、俺はすることは無いだろう。任せたぞ、シア」
神像の見に向かって送られる視線は、シアの力を望む強い意志が篭っていた。
『分かりました。ですが、本当にいいんですか? 貴方の全てを侵食する可能性があります』
シアの顔は分からないが、心配するような、躊躇うような声でだいたいどのような顔をしているか伺える。
シンヤはどんな作用があろうとも、割り切るときめており、その心に変わる兆しはない。
「あぁ、俺の自我があり、死ななきゃいい」
『では、貴方に宿ります』
そして、神像を覆っているツルと同じ色、黄緑色の眩しい光りを神像が放ち、それと共感するように、左目が同じ光りを放つ。途端、シンヤは左目を押さえ苦しみ始める。痛くない、圧迫されてる様な苦しみがシンヤを襲う。
左目周辺の血管は浮き出て、神の力らしき物と知らない記憶がシンヤを侵食していく。その力はシンヤの肉体を強化していく。筋肉は少し肥大し、血液と何がわからない異物が混ざり合う。
何十秒か経ち、苦しみからシンヤは解放され、息を荒くしながら左目から手をどける。肉体は変わったもの、大きな変化はなく、義眼の虹彩は右目と同じ色に変わり、光を受け入れ、辺りが見える普通の目と変わりなくなる。そして、身体や剣の使い方やシンヤには意味はないが簡単な魔法の使い方など、闘いの基礎が記憶として、頭に刷り込まれる。
⦅終わりました。貴方に私の残りの血液と魔力を与えました⦆
先程まで頭に響いていた声は、自分の中から聴こえるような感覚になる。
「俺とシアはこれで一心同体…か」
安堵の声を漏らす。
⦅はい。貴方の記憶と考えることは、私と共有されます。これから、貴方のサポートを任せて下さい⦆
嬉しくて笑みを浮かべてそうな声色だった。
⦅俺の感情は筒抜けか…。あぁ、そうだ、俺のことはシンヤでいいぞ。俺がシアと呼んでいるからな⦆
⦅分かりました。シンヤ⦆
シアは嬉しそうにシンヤの名前を呼ぶ。
⦅あ、忘れていました。貴方と血の契約を結んだシルフさんにも私の力が一部与えられ、人が言うところの幻獣になりました⦆
シルフは一回り大きくなっていた。他は前と変わりない。シルフと目を合わせる。
「大きくなったな。行くぞ! シルフ頼んだぞ」
「わかりました。主」
「お前、喋られるようになったのか!」
「力のおかげで」
シルフはシンヤに撫でられ、嬉しそうにしっぽをブンブン振る。
シンヤは背中に跨り、洞窟から出る。洞窟を出て直ぐにシルフは遠吠えをし、今までよりもずっと速いスピードで走りだす。




