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神像

──数日経った後の夜、可能性は現実になってしまった。だが、村人達は準備が出来ており、恐怖を抱える者はいなかった。


「女性、子供は納屋に、戦う者は準備を。」


ジンは監視をしている村人にイルスの隊列が松明を燃やしながら来ていることを聞き、村人達と共に作戦の準備をすすめる。


シンヤはケーブの家でローブをもらい、シルフと共にジンに顔を見せる。


「貴方を追放することとなり、すみません。シンヤ、気を付けてください」


シンヤはジンに謝れるのが酷く辛かった。だが、シンヤはその言葉を噛み締める。


「いや、悪いのは俺です。すみません。ポピーさんも、ありがとう」


ジンとポピーに頭を下げ、ハグをして村の裏へ向かう。村の裏口、自分の家へ続く道では


「シンヤさん、どうか無事で。また、会うことが出来たら、その時は私から話を…」


マリカが口を途中でとめ、シンヤの左手を両手で握り、涙を浮かべながら見送る。シンヤはマリカと手を繋いだまま、頭に手をおき、強く抱きしめる。マリカは泣きそうなのを我慢していた。


「シンヤ、この村は任せろ」

「シンヤ、私達はどんな時でも貴方の味方よ。気にせず行きなさい」


ヘンリーとチャークはシンヤを抱きしめ、それ以上は何も言わず、ただ見送った。


「シルフ、行くぞ」


シンヤは茶色のローブのフードを深く被り、小さい声でシルフを呼び、跨って家に続く道を走って行った。


「良かったのですか?」


ジンがチャークに近寄る。


「何がだ?」


チャークはいつもの張りのある声でなく、視線も合わせずにいた。


「シンヤのことです」

「寂しくなるからな」


チャークは弱い声を出し、シンヤだけを見ていた。


シンヤは山の麓にある家に着くと、チャークに貰った弓を肩に下げ、投げナイフと常備しているナイフを腰に下げ、家を出る。シンヤは家を最後に見て、悲しそうな顔をして山に入っていく。


イルスへ向かう森に囲われた一本道を、馬に乗ったルードが五十程の騎馬兵、百程の歩兵の隊列を組んで、向かってくる。

ジンはそれを門前で待っていると、隊列から、ルードと一人の従者が出てくる。


「初めまして、この村の村長のジンです。今晩は、シンヤのことで話に来たのですか?」


ジンは立ったままで馬に跨るルードを見上げて話を切り出す。


「おぉ、話が早いじゃないか。助かるよ。その、シンヤという奴を連行しに来た」


ルードは少し嬉しそうな顔を浮かべ、馬から降りる。


「すみません。そのシンヤという男は、反逆罪の可能性があるのでこの村から追放してしまいました」


ジンはいつもと変わらず、冷静に対応する。


「はぁ! 何を勝手なことを! 俺はあいつを目的に来たんだ!」


ルードの先程までの余裕の顔は不満の顔に変化し、ジンに怒鳴る。


「すみません。失礼ながらお聞きするのですが、シンヤを捕まえてどうするつもりですか?」

「あいつをイルスに連れて帰り、処刑する」


ルードは先程の怒鳴りはなかったかのように、声色を元に戻し、余裕の雰囲気を見せる。


「あの、私達の命は保証してくださるのでしょうか?」


ジンは逆鱗に触れないよう、恐る恐る質問を投げる。


「一部の中心人物を引っ捕らえる」


ジンには嬉しい回答だった。


「私、一人でもよろしいでしょうか?」

「まぁ、考える」


ルードは再び馬に跨り、隊列に戻る。その際、一人の従者をジンの見張りとして置いていく。


──しばらくして、ルードは見張りと交代し、ジンとまた話す。


「お前をこの場で殺すとしよう」

「では、村人の命は保証されるのですね?」

「保証はしないな」


ジンはその言葉に眉間に皺を寄せて、ルードに反発する。


「そうですか…引け!」


ジンは物凄い声を出したかと思うと、ルードを蹴り、村に逃げる。隊列の後ろでは道に面している森に隠れていたチャークが兵士を切り付け、イルスへ続く道へ走る。


ジンの声と共に縄を持った村人達がイルスと村の双方に騎士を囲うように出てくる。


「あいつを殺せ!」


ルードの声に反応し、騎馬兵が走り出す。


「上げろ!」

「上げろ!」


イルス側ではリッグ、村の方ではケーブの声が響く。その声と同時に村人達が縄を引っ張る。縄は地面に続き、一本の木を槍状にし、それをまとめたスパイクが地面から出てくる。


「構え!」


村人は槍をスパイクの後ろで構える。騎馬兵はいきなりのことで止まりきれず、スパイクに刺さり、運良く、馬だけにスパイクに刺さり、落馬で済んだとしても、村人の槍で突かれる。


「よし、弓を構え!」

「放て!」


ケーブとリッグが戦況を見て、次の手を出す。

矢は放物線を描き、残った騎馬兵と多数の兵士に被害を出す。


「もう、一射! 放て!」


矢は逃げ場がない兵士たちに向かって降り始める。


「『シールドブラッシュ』」


ルードはスキルを発動し、矢は反対へ飛ばされる。


「いまだ! 村へ攻めろ!」


全ての兵が村へ向かってくる。


「狼狽えるな! 槍を構え!」


ケーブが指示を出す。


「『シールドスラスト』」


ルードの前方へ強い波動が起き、スパイクは破壊され、数人の村人が飛ばされる。


「くそ!」

「行くぞ!」


チャークとリッグがスパイクの後ろから出るのに続き、村人達も出てくる。


一部の兵士はチャーク達に対抗するように、隊列から後ろに向かって、チャーク達と接近戦を開始する。


やはり、接近戦になると村人達はかなり弱いが、それなりに戦えていた。チャークは剣を避けて、攻撃を剣で弾き、兵士を次々と切り倒す。リッグは大きなハンマーを振り回し、力技で兵士を薙ぎ倒していく。


「『エレクトリック・スフィア』」

「『ピアシングアロー』」


村側ではケーブとヘンリーは魔法を発動する。ケーブの魔法は電気の球体をいくつも出現させ、敵に飛んで行き、先頭の兵士は痺れ、戦闘不能になり、ヘンリーの矢は一直線に敵を倒す。


村人達はその間に防衛体制を整え、向かってくる兵士に備える。



シンヤは山から、村が騒がしいのを見て、行きたい気持ちを抑えていた。


「シルフ、どうした?」


シルフがシンヤを乗せて、急に動き出す。


「そっちに何かあるのか? いいだろう。連れて行ってくれ」


山奥へかなり進むと縦に大きく開いた洞窟があり、入ってみる。斜面になっており、少し曲がっている。その斜面を降り切ると、そこには神秘的な空間が広がっていた。


吹き抜けている天井から月明かりが差し込み、洞窟なのに明るく、ツルや苔は綺麗なエメラルド色に光る。一番奥にはツルで覆われた土台に両手を胸にあてた長髪の女神象が置いてあり、シンヤは何も考えずにフードを取り、神像に近いていく。


『何者ですか?』


高く大人びた女性の声、ただその声の発生源は分からず、頭に直接響くようだ。


「俺はシンヤだ。お前は誰だ。何処にいる」

『私はシアスティア、神です』


自称だが神と聞き、顔色を濃くするシンヤ。


「神…。願いがある。力を俺にくれ」

『何故ですか?』

「大切を守る為だ」

『大切…』

「あぁ、今、俺の村は、イルスからの使者に蹂躙されかけている。それを止めたい」

『何故、その様な事態に陥ったのですか?』


シンヤは経緯を説明する。


『原因は貴方ですよね。貴方が悪いのです。すみませんが貴方に力は貸せません』


シンヤは自分の行いが悪と言われ、反論する。


「誰が悪いとかは分からないだろ。あそこで少女を見捨てていたら俺は後悔しただろう。だから、俺は少女を助けた事を悪とは思わないし、恥はしない! だが、イルスの使者からすれば俺は悪だ。だから、悪とみなすか善とみなすかは人それぞれだ! 神にも分からないはずだ」


少しの間静かな間が空く。


『確かに貴方の言うことは、正しいと思います。ですが、力は貸せません。私の力を与えた人は、私の子供だと思っています。子供達が傷付くところを見たくありません』

「神よ。一人の女性に微量だとしても力を与えなかったか」

『…ヘンリーのことですか?』

「あぁ、ヘンリーというのは俺の母だ。言っている意味、わかるよな。最後の一人かどうか分からないが死にかけているんだ。だから、最後に俺に力を貸して、賭けてみないか? 俺が自分の母」

『最後に…ですか』


シンヤの言葉をよく考える。


「どうだ?」


シアスティアの回答を促すシンヤの心は焦っていた。


『私にもう力はありません。なので…』


シアスティアが言葉を詰まらせると、シンヤが言葉を被せる。


「じゃあ、俺をやる! 力がないとはいえ、俺の肉体を器にすれば多少は戦えるだろ。戦いが終わったら、ここに戻ればいい」


シンヤは必死になって力を求めた。


『いえ、私は滅びる存在。どうせ滅びるなら、私は貴方と一緒になります。私の力を貴方に全てあげます。微々たるものですが。その代わり、ヘンリーを助けてください。その後は、貴方が自由に使って構わないです』


予想外の返事に少し時間を置き、口角が上がる。


「あぁ、契約成立だ!」

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