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村会議

シンヤは着替えてリビングへと移動する。


リビングには椅子やソファーにティンダル一家とギルグッド一家、ケーブ、リッグがそれぞれ腰をかけ、リナは部屋に立っていた。


「おはよう。リッグさんやケーブさんには迷惑をかけた。ごめん」


シンヤは深々と頭を下げ、二人の声がするまで頭を上げない。


「俺はお前の叔父みたいな者って自分で言ったからな! だから、気にすんな!」

「私も同じさ」


二人とも笑顔でシンヤを迎える。チャークやジン、他の人も笑顔で迎える。ただ、マリカの笑顔は無理をしているようだった。


「マリカ、おはよう。心配させた」


マリカが心配になり、話す理由を作る。


「おはよう。シンヤさんが元気良さそうてよかった」


マリカは涙ぐみながらも、シンヤに返す。マリカの涙に混ざった笑顔を見たシンヤはひとまず安心する。


「シルフもな」


シンヤはシルフの頭をぐしゃぐしゃに撫で、シルフはシンヤを見て、嬉しそうに撫でるのをおねだりする。


「シンヤ、そこの少女はどうしたんだ?」


チャークが質問し、全員の真剣な視線がシンヤに注がれる。シンヤはそれに答えるように顔色を変え、席に着く。


「リナ、ここに座ってくれ」


シンヤは近くの椅子を引き、誘導する。リナはその指示に従い座る。


「この子はリナって言うんだ。名付けたのは俺だ。リナ挨拶をしてくれ」


リナは慌てて立ち上がり、片言で挨拶を始める。


「あの、リナは、リナって、いいます」


リナは深く礼をし、固まる。


「リナって言うのか、俺はそいつ、シンヤの父親のチャークだ。よろしくな!」


チャークは笑顔で挨拶を返す。他の人も次々とリナと挨拶をする。


「ありがとう。もう座っていいんだぞ」


シンヤはリナに笑顔で伝え、真剣な顔つきに戻り、前を向く。


「リナはルードという男に奴隷として連れられていた。あまりにも酷い扱いにカッとなって助けてしまった。酷い扱いの証拠は見てわかる。首輪の痣に無数の打撲痕、切傷、擦り傷、数え切れない。まだ、治る見込みがある傷であってよかったけど、これ以上ルードのそばに置いたら、リナが死ぬ」


シンヤは拳を机の上で強く握り、眉をひそめる。


「ルードって言ますと、イルスを統治しているイルサース家に仕えて一番の信頼を得ている、ザルク家のルードの可能性があります」


ジンがいつもの明るい声色とは全く違う、威厳のある声色で話す。


「じゃあ、この村に反逆罪の処刑という名目で来る可能性もある訳だ」


チャークが可能性に可能性の話を重ねる。


「そうなったら、皆殺しの可能性があるので、村人達は一箇所に集めようと思っています」


ジンはいつもの様に最悪の場合の手段を提示する。


「戦いはしないのか?」


ケーブがジンに質問する。


「僕の命で村人の命を保証して貰おうと思っています」


ジンは真剣な眼差しでケーブを見る。チャークやケーブ、他の大人は渋々受け入れる顔を見せ、シンヤは苦しそうな顔を見せる。


「お父さん! ダメだよ!」


マリカがその場の雰囲気を壊し、必死に止める。


「村長の務めです。ですが、ただ死のうとは思ってません。相手が本当に保証するか見極めます。保証しなかった場合、戦います。村人達と。これが、僕の作戦です」


「俺は乗った」


リッグが逸早く反応する。


「俺も同じく」


後に続いてチャークも賛成する。


「俺も賛成」


シンヤも賛成する。だが、ジンが口を挟む。


「シンヤは山の中に身を隠してもらいます。追放という名目でこの村と関わりがないと主張するために」


ジンの口調にシンヤの声は殺される。


「わかりました…」


拳を強く握り、不満げに承諾する。


「戦うとなると、作戦が必要だな」


チャークが話を進める。


「弓で遠距離戦ってのはどう?」


ヘンリーが案を出す。


「騎馬がいた場合、近づかれて終わりですよ」


ポピーが弱点を突く。


「じゃあ、近距離戦か? だけどな…」


リッグが悩みながら言う。


「相手は兵士だ。やはり、戦力差がな」


ケーブがリッグの続きを話す。


「僕に名案があります」


ジンに全員が耳を傾け、シンヤも気持ちを切り替えて聞く。


──作戦を聞いた全員が頭を抱える。


「まぁ、これが一番いい案じゃないのか?」


チャークがジンの案を推す。


「これに反対、又は意見のある人はいますか?」


誰も手は挙げない中、シンヤは手を挙げる。


「リナはどうします?」

「隠し部屋を作って入っててもらうか…」


少し、自信なさげにリッグが提案する。


「リナがそこに入って大丈夫ならいいと思います。ですが、バレない為に外側から固定する必要があります。リナは大丈夫でしょうか?」


シンヤはリナと顔を合わせ、優しく話し掛ける。


「リナ、暗くて狭い場所に入れるか? 怖くないか?」


リナは少し戸惑い、声には元気がない。


「リナ、すこし、こわいけど、がんばる」

「だ、そうです」


シンヤはジンと見合わせ頷く。


「リナが自分で決断したので大丈夫でしょう。僕は村人に話してきます。それぞれの役割分担を」


外の時間は日が真上に来て、昼頃だった。


「あぁ、腹減ったな。飯食いながらでもいいか?」


チャークが場を和ませる。


「あ、そういえば俺、朝食ってないわ」


シンヤはふと気づく。


「ちょっと待ってね。今、準備するから。マリカとポピーは手伝ってくれる?」

「あ、はい…」

「もちろん!」


マリカとポピーが返事をするが、マリカは元気がなかった。


──昼食も食べ終わり、チャークは満足気な顔で腹を押さえる。


「それでは、役割分担もしたことですし、行動開始です」


シンヤはリナを連れてジンについて行き、村人を集め、ジンと共に広場の壇上に登壇する。


「今日、ここに集まって貰った理由を説明します」


ジンの言葉は歯切れがよく、大きく、重たい。


「ここにシンヤ・ギルグッドという男がいます。この男はこの少女、リナをイルスから助けて来ました。リナを奴隷として引き連れていたのは、ルード・ザルク、イルスの統治者イルサース家の側近の可能性があり、この村に攻め入る可能性も有り得ます。僕の命一つで貴方の命を保証して貰えるよう努力しますが、もし、皆殺しが目的だった場合、戦うことも病む負えません。その際、僕とギルグッド家夫妻、ケーブと共に戦うものを募ります。また、リッグ・リークの手伝いは出来る限りお願いします」


ジンは深く礼をし、シンヤに場を譲る。


「俺はシンヤ・ギルグッド。今回、この村に脅威を招いたことにまずお詫びする。ごめんなさい。俺は、交渉を有利に進めるために、この村から追放という形で退去します。自分一人だけ逃げるのを許して欲しい。また、ジンさんのことは恨まないで欲しいです」


シンヤは拳を強く握り、村人達はザワザワする。シンヤにはそれが苦しく、壇上から逃げたかった。


「誰も恨まねーよ」

「この村は皆が家族みたいなものさ」

「皆でこの村を守るぞ」

「俺は戦いに参加するぜ!」


様々な優しい言葉と、戦いに参加する決意の言葉が広場に行き交う。シンヤの心は村人の言葉で少しは軽くなるのだった。

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