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拳と恋 ~イマドキJKボクサーとメンタル弱めの天才ボクサー~  作者: 如月文人
最終章 メンタル弱めの天才ボクサーは少女の為に闘う!
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最終話 イマドキJKと天才ボクサーはリングで笑う


ゴングと同時に両者はコーナーから飛び出した。

拳人はガードを固めて、重心を後ろに置いて構える。

対する御子柴は両腕を曲げて、ウィービングしながらリング中央へと進んだ。


接近するチャンスを探る御子柴に対して、拳人はフットワークを使い、

左ジャブで御子柴の突進を止めて、一定の距離を保ち続ける。 

だが御子柴は拳人の左ジャブを被弾しながらも、前へ前へ攻め立てる。

 

御子柴が中間距離から、鋭い右のロングフックを叩きつけるが、

拳人はそれを綺麗にガードする。 しかしガードした右腕が激しく痺れた。

拳人が至近距離から速いワンツーを放った。

御子柴は拳人のワンツーを躱し、ジャブを機関銃のように連射する。


だが拳人も負けてない。 御子柴のジャブを一発、一発丁寧に躱して、肉迫する。

お互いの息がかかるような至近距離。 従来の拳人ならこの危険な距離での打ち合いは避けて、

足を使うところだが、この場はあえて足を止めて接近戦で正面から打ち合う。


――ここは逃げずに打ち合う! そして隙あらば倒してみせる!!


拳人はそう胸中で強く念じながら、御子柴の放つ破壊力ある左右のフックをガードする。

ガードする度に腕がビリビリと激しく痺れた。 だがすかさずショートパンチの連打で応戦する。 交差するパンチ。 刹那の瞬間入れ替わる身体。 

筋肉が歪み、骨が軋む。 高まる心臓の鼓動。


この瞬間、拳人と御子柴は言い知れぬ高揚感に包まれていた。

拳に思いを込めてお互いにパンチを力の限り繰り出す。 会場の観客が歓声をあげる。

御子柴の左右のフックが狂ったように吹き荒れた。

拳人は両腕を折り曲げて、その怒涛のようなフックの連打をブロックする。


だが御子柴はガードの上から、ひたすら左右のフックを連打する。 

連打、連打、連打。 

吹き荒れた嵐のような連打を執拗に打ち込んだ。

次第にガードする拳人の両腕も限界に達しようとしていた。

だが徐々に御子柴の連打の速度が遅くなる。 

それでも手を出し続ける御子柴。


苦しそうな顔で呼吸を乱しながら、手を出す御子柴。 

どうやらスタミナの限界が近いようだ。

そして次の瞬間、拳人が右腕を下げた。 

御子柴の左フックをダッキングで躱し、その右腕からアッパーカットを放った。


その放たれた右アッパーはカウンター気味に御子柴の顎を捉えた。

御子柴がぐらりと身体をふらつかせて、腰がキャンバスに落ちかけた。 

だが御子柴は耐えた。 ダウンを拒否した。


意識がやや朦朧とするなか、歯を食いしばり素早く体勢を立て直した。 

だがレフェリーはストップをかけて、御子柴のダウンを取った。

帝陣東の応援席が大歓声を上げた。 御子柴は首を左右に振り、「効いてない!」とアピールしたが、レフェリーはカウントを8まで数えた。 

そして「ボックス!」と叫んで試合を再開させた。


拳人はこの機を逃すまいと素早くパンチを打ち込んだ。

汗と血が飛び交うリング。 観客席から沸き起こる歓声。 目の離せない打ち合い。

このわずか二分間における激しい攻防。 


短いようで長く感じる魔法の時間。

今この時、この瞬間の為にオレはボクシングを続けていたのかもしれない。 

だから最後まで全力を尽くして戦う。


「ラスト一分!」


リングサイドの千里がそう叫んだ。


――勝つ、なんとしても勝つ、この男に勝ちたい、

――オレは彼女に、姫川さんに笑ってもらいたい。

――彼女には涙は似合わない。 彼女には笑顔が似合う。

――そしてオレが勝つことで、彼女が笑って欲しい!

――だから最後まで全力を尽くして戦う。 

――それが、俺が戦う理由だ。

――残り一分か。 ならギリギリ行けるか?  


拳人は御子柴の表情をちらりと見た。 呼吸を乱して、苦しそうな表情だ。 

どうやら御子柴もそろそろ限界のようだ。

拳人はそこから余力を振り絞って、左、右、左、右と渾身の力を込めて連打を繰り出した。


ガードする御子柴の両腕に強烈な衝撃が走る。 

だが拳人はガードの上から、猛ラッシュを浴びせる。

ぐらぐらっと揺れながら、御子柴がニュートラルコーナーに追い詰められていく。


御子柴の背中がロープにくっついた。 しかしガードは下げずしっかり顔面を守っている。

拳人の両拳が御子柴の両腕をめまぐるしく打ちつづけた。

連打、連打、連打。 痛烈な左右のワンツーの連打が放たれる。


だが次第に拳人のスタミナも限界点に達しようとしていた。 

その時、御子柴の眼が一瞬鋭く光った。 

拳人の放った右ストレートを躱して、左のボディリバーブロウで拳人の右脇腹を強打。


強烈なボディを喰らった拳人の体が左右に揺れた。

御子柴はこの間隙を逃さず、ワンツーパンチを拳人の顔面に叩き込んだ。

拳人の腰が一瞬落ちかける。 御子柴は追い打ちをかけるように、左右のフックを強引に叩きつけた。


だが拳人も懸命に気力を振り絞る。 拳人は左フックから右ストレートを放った。

すると御子柴は拳人の右ストレートを短い動作で躱すと、そこから左フックをクロスさせて、カウンター気味に合わせた。


拳人は一瞬、身体をぐらつかせたが、懸命に耐えた。 

ダメージはあるが意識はしっかりしている。

ここからは精神力と精神力による消耗戦だ。 拳人はそう覚悟を決め前へ出る。


拳人は左右のフックを振るって、御子柴に叩きつけた。 

御子柴も恐れず拳人を迎え撃った。

両者の左ジャブが相打ちになった。 

しかし両者一歩も引かず、更にパンチを出し続ける。


「……凄い、凄いよ、神凪くん」


千里はリング上の拳人を見据えながら、興奮気味にそう呟いた。

千里は視線をリングで戦う拳人の姿に向ける。

リングで戦う拳人の姿は、全身から熱気と闘志が満ちていた。


観客のどよめきのなかで拳人は素早く動き、前へ前へと進む。 

そしてリング中央で御子柴と激しく打ち合った。


――こ、こいつ……ホンマもんの天才や!

――こ、これが才能の差というやつなのか!?

――し、しかしオレは負けんで! 少なくとも気持ちでは負けん!

――それがオレの最後の意地や! 天国の親父、観ててくれよ!


御子柴はそう思いながら、再び気力を奮い立たせた。

その時に拳人の右ストレートが御子柴の顔面に綺麗にクリーンヒット。

御子柴の鼻から血が噴き出し、血は御子柴の青いランニングシャツに飛び散った。


そこから拳人の左フックが御子柴のテンプルを強打。 

ぐらつく御子柴。

更に拳人は右アッパーで御子柴の顎を狙う。 御子柴はギリギリのタイミングで回避。


――こ、こいつ……強すぎる!?

――こ、こんなん不公平やんか!?

――なんやねん、こいつ、オレと同じ高校生やぞ!?


理不尽な現実に御子柴は、次第に恐怖で心が塗りつぶされていった。

しかし前方の拳人は無心でパンチを繰り出していた。

彼はただ勝利だけを目指していた。 その姿はまるで修行僧のようだった。


――残り時間、二十秒もない。

――神凪くん、あたしはもう満足したよ。

――天才のキミがあたしの為にここまで戦ってくれたんだからな。

――だから後はキミ自身の為に戦って!!


千里はそう心の中で叫んだ。

するとその願いが届いたのか、拳人が最後のラッシュを繰り出した。

しかし御子柴も最後の力を振り絞り、拳人のジャブを躱して右のクロスを放った。


だが拳人は間一髪で御子柴の右を躱した。 逆に御子柴の懐に入り込んだ。

まずは右アッパーで御子柴の鳩尾を強打。 

それと同時に御子柴は口からマウスピースを吐き出した。


更に左フックでテンプルを強打。 御子柴が朦朧としながら、ロープに背をもたれかかった。

最早勝負はついた。 だが拳人は最後の止めをさすべく、閃光のような右ストレートを御子柴の顎の先端に叩き込んだ。


強烈な衝撃が御子柴の全身に伝染する。 

御子柴の顔がわずかに天井に向いた。 

天井の照明が眩く照らされている。


その光の渦のなかで観客たちのどめきを聴いた。 

そのどよめきを訊きながら御子柴はマットの上に崩れ落ちた。

そしてレフェリーは腕を交差させて試合終了を宣告する。


応援席の美鶴達は呆然としながらその光景を眺めていた。 

リング上の御子柴はまだ長々とマットの上に横たわっていた。

第3ラウンド1分57秒。 

拳人と御子柴の四度目の戦いはこうして終わりを告げた。


リング上で拳人は珍しく雄叫びを上げて、自分のコーナーに戻り、千里にこう言った。


「ひ、姫川さん!! ど、どうだった!? オレのファイト」


こんな風に興奮した拳人は初めて観た。 その姿を見て、千里は思わず微笑んだ。


――へえ、神凪くんもこんな表情するんだ。 なんか可愛い。

――正直ボクシングをしたことを後悔しかけていたけど。

――うん、やっぱりボクシングやって良かったよ。

――こんなに心から燃えられるだもん。

――だからあたしは思ったとおりに答えるよ。


「うん、最高だったよ。 あたし、ボクシングに関わって良かった」

「ほ、ホント?」

「うん、神凪くん、キミは本当に凄いね。 天才だよ、メンタルは弱いけどね」

「そ、そうか。 そう言われてると立場がないな」

「でも最高のファイトだったよ。 もう悔いはないよ」

「よ、良かった。 本当に良かった……」


と、拳人は少し涙ぐんだ。 すると千里は笑顔でこう言った。


「ほらほら、そんな顔しない! キミは勝者なんだから笑って!」


観客達も拳人に向けて惜しみない拍手を送る。

その拍手を聞きながら、拳人はやや恥ずかしそうに微笑を浮かべた。


残すところエピローグのみです。

エピローグは明日の昼頃に投稿する予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 良い!!拳人格好いい!! 青春万歳!!ww 感動しました( ´∀`) こんな試合泣けますね! 拳人おめでとう!!
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