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第一話 いやあたしマネージャー希望なんですけど?


 入学式も終わり、新入生は自分のクラスへと移動した。

 千里のクラスは一年B組だ。 そしてなんとあの神凪拳人と同じクラスだった。

 これには驚きながらも、内心で密かに喜ぶ千里。

 悪漢から自分を助ける為に身体を張る美少年。 まるで少女漫画のような展開だ。

 おまけに相手は超イケメン。 これはもしかして運命?

 と、夢見がちな女子高生にありがちな妄想に浸る千里。


「ねえ、あの人超カッコよくない?」

「うん。 超イケてるね」


 と、周囲の女子が遠巻きに神凪を見ながら、囁いた。

 どうやら早くも他の女子から注目されているようだ。

 でもそれも頷ける。 神凪拳人は本当に美少年なのだ。

 そういうこう思っているうちに、クラスの自己紹介が始まった。

 担任の英語教諭である立波静香たつなみ しずか先生は黒いスーツを着た黒髪ロングの美人だ。


「それじゃ次、出席番号七番!」

「はい、帝陣第二中学出身の神凪拳人です。中学の時からボクシングしてます。 ジュニア・チャンピオンズリーグ全国大会で優勝もしてます。 だから多分ボクシング部に入部すると思います。 ボクシング部に入部したら、レギュラーを目指して頑張りたいと思います。以上です」


 と、手短に自己紹介を終える拳人。


「ボクシングしてるんだぁ~。 どおりでスタイル良いわけね」

「というか優勝って凄くない? あんなイケメンなのに強いんだぁ~」


 ボクシング!? なる程、通りで強いわけだ。 

 あの金髪男を瞬殺できたのも頷ける。

 というか周囲の女子が露骨にちらちらと拳人を見ている。


 どうやら早くも周りはライバルだらけのようだ。 

 しかし当の本人は涼しい顔で右手で頬杖をついていた。

 クール、というか淡白? でもそこがいいかも、と内心で思う千里。


「それじゃ次! 女子の出席番号十六番!」

「は、はい! 藤城中学出身の姫川千里です! 中学の時は女子バスケ部で一応副キャプテンしてました。 高校でもクラブに入るつもりですが、まだどのクラブに入るかは決めてないです。 新入生歓迎会の部活紹介を見てゆっくり決めようと思ってます、以上です!」


 千里はきはきとした口調でそう自己紹介した。

 自己紹介を終えて、自分で思った。 

 あれ? わたし、ダンス部に入部するつもりだった気がする。 

 なんでそう言わなかったのだろう。 


 もしかして神凪くんと同じボクシング部に入部するつもりなのか? 

 いや神凪くんのことは確かに気になる。

 でもボクシング部だよ、ボクシング部。 

 なんかイマドキの女子高生とは無縁っぽいクラブだ。 


 それになんか怖そうなイメージがある。 不良とかいっぱい居そう。

 でも神凪くんは不良って感じではない。 ボクサーってどんな人種だろう?

 ちょっとだけ部室を覗いてみようかな。 マネージャーとか募集してないかな?

 でも神凪くんがちゃんと入部しているか確かめないと、それでないと意味がない。

 と、他のクラスメイトの自己紹介も聞かず一人妄想にふける千里であった。


 そして新入生歓迎会の部活紹介が終わった。

 千里が興味を持ったのは、やはりダンス部だった。

 部員の殆どが女子だが、綺麗な先輩も多く部活紹介で披露したダンスも華があった。

 常識的に考えれば、ここはダンス部に入部すべきだ。


 しかし部員の大半が女子というのが少し気になる。

 千里も中学時代は女子バスケ部で副キャプテンを務めた。

 男子から見れば女子が多いクラブは、

 華やかに見えるかもしれないが、実情は違う。

 女子の世界は男子の世界とは、また別などろどろした部分が強い。


 表面上では仲良く、陰では悪口。 

 これが女子の世界の実情だったりする。

 千里も副キャプテンという立場から、

 色んなタイプの女子から相談を持ち掛けられたが、

 なんというか見えない部分では、みんな色々黒かった。 


 それに辟易したのも事実。

 だからこのダンス部が一見華やかに見えて、

 裏ではどろどろした関係でも驚かない。

 しかし一度入部したら、そう簡単に退部するわけにもいかない。


 そして部活紹介を見て、ボクシング部に少し興味が出てきた。

 ボクシング部は男女混合で練習しているらしい。 

 まあ男子と女子では出場する大会は少し違うらしいが、

 見た感じみんなとても真面目そうだった。 

 不良っぽい人など皆無だった。


 中には「え? こんな綺麗な人がボクシングするの?」と思わせる美人の先輩も居た。

 正直女子でボクシングをする人間に少し偏見があった。 

 でも実物の女子高生ボクサーを目の当たりにすると、

 印象はだいぶ変わった。 なんというかみんな目がきらきらしている。 

 ボクシングにはそれだけの魅力があるのであろうか?


 それになんかボクシングの練習も少し面白そうだった。

 あのミットをバンバン打つのは、なんかストレス解消になりそうだ。

 でも腕が太くなりそう。 女子バスケ部で鍛えてたから、千里の足は少し太めだ。

 乙女としては、その辺の事情はとても悩ましい問題だ。


 まあでも少しくらい練習を覗いてみるくらいならいいかな?

 それに神凪くんは本当にボクシング部なのか? ここ超重要。

 もし神凪くんが入部してなかったら、全てが無意味になるからね。

 帝陣東高校には校舎が三つあり、

 ボクシング部の練習場は北館きたかんと呼ばれる校舎の二階にあった。 

 北館は鉄筋コンクリート造りの四階建て、

 他の運動部やダンス部や吹奏楽部の練習場があった。 


 ボクシング部の練習場はけっこう大きかった。

 教室を二つ分くらい合わせた長細い部屋で、

 中央に数メートル四方の青いリングがあった。 

 リングには四本のロープが張られており、けっこう本格的だ。


 練習場の端に天井からサンドバッグが四つ吊るされていた。

 シャドーボクシング用と思われる大きな鏡。 筋力トレーニング用の機器及び器具。 

 練習機材はそれなりに揃っているようだ。


「ん? ねえ、そこのあなた!」

「は、はい!?」


 急に呼ばれて、声を裏返して返事する千里。


「あなた、もしかして入部希望者?」


 そう言う先輩らしき女性とは黒髪ショートが似合う美少女だった。


「え? え? い、いやただの見学希望者……です」

「そう、良かったら軽く練習していかない?」

「い、いえいいです! というかあたしマネージャー希望ですし!」

「そう、マネージャーねえ。 ボクシングに興味あるの?」

「え、ええ、まあ……」


 ごめん、先輩。 本当はあまりありません。

 まさかクラスメイトのイケメン男子が居るから、

 という不純な動機とは言えない。


「あなた、中学時代はなにかスポーツしてたの?」

「ええ、一応女子バスケ部で副キャプテンしてました」


 すると目の前の黒髪ショートの先輩は「へえ」と呟いて、ジロジロと千里を凝視した。

 あれ? なんだろう、この感じ? なんか嫌な予感がする。

 というか神凪くんは? 彼が居ないのであれば意味がない。


 千里は視線を僅かに動かせて、練習場内を見渡した。

 居た、拳人とはクラブ指定の上下とも黒いジャージ姿で

 隅の方でシャドーボクシングをしていた。 

 どうやら彼は間違いなくボクシング部のようだ。 やったぁ!


「ねえ、あなた、名前は?」

「い、一年B組の姫川千里です!」

「そう、姫川さん。 見た感じ運動神経良さそうだし、軽くボクシングの練習してみない? 中学で運動部に所属していたのなら、マネージャーなんて勿体ないわよ?」


 あれ? なんかこの空気まずい? 断れない感じ?

 なんかこの先輩の眼が「逃がさないわよ?」という感じでこちらを見据えているんだけど?

 無理、無理、無理。 あたしにボクシングなんて、格闘技なんてマジ無理!


「い、いや……あたし、格闘技の経験なんてまるでないですよ?」

「大丈夫、大丈夫、ここの女子部員の大半は高校からボクシングを始めたから」

「い、いや……ちょっと興味本位で見学しにきただけですから」

「まあまあ、そう言わないで! とりあえずジャージに着替えてきて!

 あ、私は二年生の小金沢美鶴こがねざわ みつる。 よろしくね!」


 と、凄く良い笑顔でそう言う黒髪ショート。


「ど、どうも小金沢センパイ! よろしく……っス」


 人の良い千里はノーが言えない人間であった。


 とりあえず女子更衣室で学校指定の青いジャージに着替える千里。

 念の為、ジャージを持ってきたが、まさか練習する羽目になるとは計算外。

 どうしよう? 逃げ出すなら今のうちだ。 


 でも神凪くんが居たからなぁ~。

 まあ一日体験入部と思えば気が楽か? 

 とりあえず着替えて終えて、練習場へ向かう。


「へえ、姫川さん。 けっこう良い身体つきしてるわね?」

「えへへへ、そうっスか?」

「うん、バスケ経験者だし、全体的にバネがありそうなに感じ。

 バスケ部では何処のポジションしていたの?」

「シューティングガードです!」

「スピードもスタミナもありそうだし、こりゃ掘り出しものかも?」

「いえいえ、そんなことないですよ?」


 と、言いつつも悪い気はしなかった。

 すると遠巻きに見ていた他の男子部員がこう囁いた。


「……また一人、小金沢の話術に乗せられそうだな」

「ああ、でもあの子けっこう可愛くねえ?」

「まあな、そういう部分も含めて絶対入部させるつもりだろう」

「そういう意味じゃ頼もしいよな」

「ああ、これでとりあえず今年の女子部員一人ゲット、だな」


 千里はそうとは知らず、美鶴と楽しくお喋りしながら、ストレッチをするのであった。


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