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第十五話 初デート(前編)


授業、部活を毎日こなし迎えた日曜日。

千里は朝六時に軽めのロードワークと筋力トレーニングで汗を流す。

軽くシャワーを浴びて、疲れを抜くとお出かけ用の服装を選ぶ。


上は黒のタンクトップに、長袖のホワイトジャケット。

下はデニムパンツに黒いニーソックスという格好だ。

そして愛用の白いハンドバックを片手に家を出た。


最寄の駅である亀増かめます駅から、約30分電車に乗ってJR水道橋駅に着いた。

拳人との待ち合わせ場所は東京ドーム前であった。

待ち合わせ時間は午後一時であり、今時計は12時55分であった。

千里は大きな人ごみを抜けて、東京ドーム前へと向かう。


「あ、姫川さん!こっち、こっち!」

聞き覚えのある声に視線を移すと拳人の姿が視界に入る。

拳人は黒地のTシャツに白いジャケットを羽織り、下は青のデニムというスタイル。

シンプルなスタイルだが、拳人が着るとそれでも十分お洒落な感じに見えた。


「もしかして待った?」

「ううん、5分前に来た所」

「よ、良かった。 それじゃ目的地のスポーツ店に行く?」

「うん、姫川さんは予算いくらあるの?」

「3万ちょっと。とりあえずグローブ欲しいかな」

「ボクシング用具って高いからね。基本通販で買うケースが多いよね。東京ですら置いている店少ないから、欲しい品物買うのも吟味するよね」

「うん、まあ競技人口が少ないスポーツだから仕方ない部分よね」

「せっかくの日曜日ですし、買い物終わったらこの辺でブラブラする?」

「え?」


千里は予想外の言葉に一瞬固まった。

でもすぐに我に返り、指で頬をかきながら「……そうしよっか」と答えた。

そして二人は仲良く連れ添って街を歩く。

ボクシングのメッカである後楽園ホールのあるビルを通り過ぎた。


「あそこに後楽園ホールがあるのよね?」

「うん、意外と狭いようで広いよ」

「あははは、変な例えだね!」


そうこう会話を交わしているうちに、目的地である格闘技専門のスポーツ店に到着。 店内はボクシング用具だけでなく、キックボクシング、空手、極真空手、総合格闘技の用具やグッズで埋め尽くされていた。 千里もこの光景には少し圧倒された。 レジのカウンター辺りにやたらと体格の良い店員らしき男が立っている。


あの筋肉の付き方は並じゃない、恐らくあの人も何らかの格闘技をやってそうだ。

そう思いながら、千里は店員の傍に寄って行った。


「すみませーん、あのうボクシング関連の用具って何処に置いてますかー?」

「お、こいつは珍しい。可愛らしいお客さんだな。お嬢ちゃん、ボクシングするのか?」

「ええ……まあ」

「それで欲しいものは何なんだい?」

「えーと……10オンス以上のグローブが欲しいです!」

「了解、良い品あるよ。ちなみに予算はいくらあるんだい?」

「3万ってところですね!」と、千里は愛想にそう答えた。

「なら充分だけど、お嬢ちゃんとそこの彼氏は高校生なのかい?」


見かけによらず気さくな店員がさらりとそう言った。


「はい、帝陣東ボクシング部のエースとあたしが一年生の期待の星です!!」

「おお、帝陣東かあ! なかなかの名門じゃん、実は俺もキックやってるんだけど、ジム生に結構元ボクサーいるよ。個人的にもボクシングもキックも両方好きだしね」


いつの間にかすっかり打ち解けた空気になっていた。


「神凪くん、先に買う?」

「うん、とりあえずリングシューズが見たいな」

「了解、ちょっと待っててね。すぐ持って来るよ」


体格の良い店員は奥に引っ込み、がさごそと品物を探し始めた。


「しかし姫川さん、意外とよく喋るんだね」


拳人の言葉を聞いて、千里は得意気にふふんと鼻を鳴らした。


「そう? まあ愛想よくしていれば、まけてもらえるかもしれないでしょ?」

「えっ……ああ、俺はそういうの苦手なんだよ」

「了解、了解。ならあたしがするよ」

「あーあったよ、彼氏さん、足のサイズいくつ?」

「えーと27です」

「オーケー、オーケー。27ね」


 いつの間にか拳人は彼氏扱いされていた。だが悪い気はしなかった。

この場はあえて訂正する必要もないかな、と拳人は内心で思った。


「はい、27センチ。色は黒だけだけどいいかな?」

「問題ないです。ちょっと履いてみていいですか?」

「どうぞ、どうぞ」体格の良い店員は陽気に答えた。


 拳人は今履いてるスニーカーを脱いで、手渡された黒いリングシューズに足を入れる。

地面を踏む感触も良い。それでいて強い踏み込みの衝撃にも耐えれそうな強度。

これは予想以上に良い品だな、と拳至は満足そうに微笑を浮かべた。


「どう、いい感じでしょ?今ならお買い得だよ」

「ねえねえ、お兄さん。少し値段を勉強してみません?」


千里が笑顔を浮かべて人懐っこくそう言う。


「えー、定価は一万超えで、セールで9720円だよ。他には置いてないレア物だよ?」

「……そこを何とかお願いします!」


千里が両手を合わせて拝みこんだ。


「うーん、……9500円でどうかな?」

「もう一声!9000円で!!」

「バイトの俺にはそれは無理だよ、うーん……おおまけで9450円?」

「惜しい、9350円で!!」


壮絶な値段交渉が続く。


「お兄さん、良い筋肉してますね!」

「お、わかる。これでも鍛えてるからねー」

「わかる、わかる。わかります。 なんか見た感じのオーラが違います!

「わかった!9250円。持ってけ、泥棒!!」


体格の良い店員がドンとレジのある机を右手で叩いた。


「わーい、ありがとう。お兄さん!!」

「そ、それじゃ一万円でお願いします」


 拳人はやや困惑気味に財布から一万円札を取り出して手渡した。

お釣りを受け取り、千里の耳元で「ありがとね」と囁いた。


「いえいえ、さあ次は何を買うの?」

「そ、そうだね。とりあえず店内を見回って決めるよ」

「はいはい、ごゆっくりどうぞ! まったくお嬢ちゃんには負けたぜ。大した交渉術だ」

「いえいえいえ、今後はウチの部員にもここで買い物するように勧めますから!」

「本当かなあ?」


と少し疑う体格の良い店員。


「ホントですよ。あ、このお店って通販とか注文とかも可能ですか?」

「ああ、それなら可能だよ。まあ期待しないで待ってるよ!」

「いえいえ、期待はしててください!」


千里は満面の笑みを浮かべてそう言った。


「ねえ、姫川さんは買わないの?」と、拳人。

「あ、ああ……そうよね。じゃあお兄さん、10オンスのグローブを見せてください!」

「はいよ、ちょっと待っててね」


そして店員は三種類の10オンスのグローブを持ってきれくれた。

それら三種類を全部手にはめて、感触を確かめる千里。

千里は十分を悩んでから、赤い10オンスのグローブを選んだ。 


そこからはまた値引き交渉を開始。

二十分に及ぶ激闘?の末に18000円まで値引く事に成功。


「はい、はーい、もうそれでいいよ。 んじゃ彼女さん、彼氏さんと上手くやりなよ」


 代金を払い、品物を受け取ると、千里は元気な声で「はい!」と答えた。

拳人は小さく頭を下げて、千里と共に店内から去った。


「いやあ、まけた。まけた。どう? わたしの値引き交渉術?」

「……普通に凄いと思うよ。 俺にはとても真似できないよ」

「はい、だからわたしが交渉しました!」


 堂々とそう口にする千里の振る舞いに、拳人は少し呆れると同時に感心した。

千里のこういう裏表のない言動は良く悪くも人に強い印象を与えるな、と思う拳人。


「……まだ十四時か。 どうする? とりあえずご飯でも食べる?」

「いいね。そうしよう」

「んで何を食べる?」

「ネットで調べたら、近くのパスタ屋さんが美味しいみたい。 パスタならボクサーにも優しい食材だよね」

「了解。 ここは姫川さんに任せるよ」

「うん、任せて! じゃあ行きましょう!」と千里は元気な声で叫んだ。


そして拳人が微笑を浮かべながら、千里の後に続いた。



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