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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハッピーエンドは掴めない

作者: 桜芽鵺葉



昔々あるところにアイシアという名の少女がいました。

金色の髪に水色の瞳の好奇心旺盛な少女です。


アイシアがいつものように家庭教師の先生から逃げ出していると、庭で不思議な白いウサギを見つけました。

なんとウサギはスーツを着て、二本足で歩いています。


「まあ、不思議なウサギだわ!」


アイシアは持ち前の好奇心から、ウサギを追いかけます。

しかし、ウサギはこんなことには慣れっこでした。

何しろ、ウサギはスーツを着ていて、二本足で歩いていて、さらには英語もフランス語もドイツ語も話せるのです。

当然そんなウサギはロンドン中を探しても他にいないので、しょっちゅういろんな少女に追いかけられてきました。


なのでウサギは慣れたように庭にある白薔薇に身体を隠しながら、少しづつ距離を取ります。


アイシアはただ闇雲にウサギを追いかけまわしてもダメだと気がついて、灯油を白薔薇にかけました。

ポケットからマッチを取り出して火を灯します。

そしてマッチを白薔薇に投げ捨てます。

白薔薇は勢いよく燃えて、庭にどんどん火が広がります。


ウサギはびっくりしたように飛び出て、庭のプールに飛び込みました。アイシアも慌ててプールに飛び込みます。


プールは深さに終わりがないのか、底が見えません。

だんだん沈んでいきます。


アイシアが目を凝らしてもウサギは見あたりません。


「ウサギってエラ呼吸する生き物だったかしら?」


アイシアはウサギが溺れてないか心配になりました。

プールの中で腕を組んで、うーん、と悩みます。


「魚は確か、エラ呼吸よね」


アイシアがぽつりとつぶやきます。


「そうだよ!」


プールの中のニワトリが答えました。

紫色のニワトリがプールの中を泳いでいるのです。


「ならウサギもエラ呼吸ね!」


アイシアは目をぱぁっと輝かせて言います。


「そうだよ!」


プールの中のニワトリが答えました。


「ところでニワトリさん、ウサギを見なかった?」


アイシアがプールの中でニワトリに尋ねます。


「ニワトリなもので、難しいことはわからないです」


ニワトリはプールの中を泳ぎながら答えました。


アイシアはそれもそうよね、と納得しました。

アイシアはニワトリにバイバイと言って、そのままどんどんプールの底へ沈んでいきます。


「このままどこまで沈むのかしら」


やがて光が届かないほど暗くなってから、アイシアは自分がいつまで沈めばいいのか気になってきました。

もうだいぶ沈んだ気がします。


上を見ても、下を見ても、真っ暗なのですから。


アイシアはこのままずっとただ沈むよりは自分でなんとかしなくちゃと思い、プールの壁を壊すことにしました。


とにかくプールから出たかったのです。


アイシアは暗闇の中、手を伸ばしながら壁を見つけました。アイシアが拳をぎゅっと握りしめたその時。


「ひっ…痛いことはしないでください…!」


壁が怯えてしまいました。


「ごめんなさい。でも私、あなたを殺さないとプールから出られないの。ごめんなさい。」


アイシアは拳を振り上げます。


「ごめんなさいごめんなさい!痛いことしないでください!痛いの嫌なんです!殴られるのも蹴られるのも嫌なんです!」


壁はとうとう泣き出してしまいました。

壁は口を大きく開いて、うわあんと泣いてます。


アイシアは壁の口の中に吸い込まれてしまいました。



「出れたみたいね」


口の中は、部屋でした。

プールの中じゃないから、水はもうありません。

アンティーク調のおしゃれな一室で、テーブルが1つ部屋の真ん中に置かれてます。

アイシアはテーブルに近づきました。


テーブルの上には「ご自由にお飲みください」とフランス語で書かれたメッセージカードと、紫色の液体が入ったガラスの小瓶が置かれてます。


アイシアはロンドン生まれのロンドン育ちの少女なのでフランス語は全くわかりません。読めない手紙を無視してガラスの小瓶を手に取りました。


そして床に叩きつけました。

ガラスが割れて、床に紫色の液体が溢れます。


アイシアは気にせず部屋を見回します。


ウサギはどこにもいません。

アイシアはこの部屋から出ようと思い。アンティーク調のランプを振り上げて壁に投げつけました。


ぼろぼろと崩れた壁の外は森です。

たくさんの木が生えていて、酸素が豊富そうな森です。


アイシアは森の中を進みます。


森には綺麗な花もたくさん生えてました。

アイシアの背丈よりも高い巨大な花たちです。


「こんにちは。ウサギを見なかった?」


「ちょっと!誰に向かって口をきいてるの!」


アイシアに話しかけられた花が怒りを露わにします。


「あなたよ」


アイシアがそう言うと、花たちはヒソヒソと聞こえるように「ありえない」「おかしいわ」と言います。


「あのねぇ、人間は花に話しかけないのよ!わかったら私と口を聞かないでちょうだい!話しかけられて喜ぶとでも思ってるの!?これだから人間は!」


花が怒りながら葉っぱでアイシアを外へ押しやります。


アイシアは森から追い出されてしまいました。


追い出された先は大輪の白薔薇のある庭でした。


「あら?おうちに戻ったのかしら?」


燃やし尽くしたはずなのに不思議だわ、とアイシアは思いました。そして、もしかしたら薔薇は燃やしても生えてくるのかと気になってしまいました。アイシアは灯油を探して再び白薔薇にかけて、ポケットのマッチの火を灯し白薔薇に向けて投げました。


綺麗な白薔薇が、勢いよく炎に包まれます。


白薔薇が燃やされてから、アイシアはここが家の庭ではないと気がつきました。庭はアイシアの家の庭よりもずっと広くて、アイシアの家よりもずっと大きな城が建っていたからです。


「間違えてしまったみたいね」


アイシアはふふっと笑います。


庭ではトランプの兵隊たちが必死に消火活動を始めます。

アイシアは気にせず城に近づきました。


もしかしたらウサギが中にいるかもしれません。


城の中では女王様が椅子に座っていました。

金色の髪に水色の瞳の綺麗な大人の女性です。


女王様は包丁で切ったばかりのウサギの生首をアイシアの近くに投げ捨てました。優雅にアイシアに微笑みかけます。


椅子から立ち上がり、1歩づつ階段を降りながらその段にいるトランプ兵の首を包丁で切っていきます。


たくさんのトランプ兵の首が切られます。

返り血で女王様の白のドレスは真っ赤に染まります。


「女王様を倒すんだよ。」


ウサギの生首が喋ります。


「どうして」


アイシアは名前に問います。


「女王様はみんなの首をはねる悪い人だ。誰かが倒さなきゃいけないんだよ」


ウサギの生首が首から赤い血を流しながら言います。


やがて女王様は100段あった階段を降りてアイシアの目の前に来ました。


アイシアは女王様が持っていた真っ赤な包丁を奪い、女王様の首を思い切り切りました。


「万歳!」


「万歳!」


「万歳!」


「万歳!」


たくさんのトランプ兵の生首たちがアイシアを称えます。

悪い女王様を倒してくれてありがとうとウサギが言います。

アイシアは全ての生首を拾ってそれぞれの身体にくっつけました。みんながみんなアイシアに感謝します。



女王様を倒したアイシアはこの国の新たな王女様です。



月日を重ね、やがてアイシアは立派な女王様に成長しました。



毎日誰かの首をはねる立派な女王様に。




End.


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― 新着の感想 ―
[良い点] 女王のお仕事がちゃんと引き継がれているところ。 [一言] アイシアは女王の素質があるからここにたどり着いたのか、それともたどり着いた人間はみんな女王と同じになってしまうのか、悪夢のようだけ…
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