魔法少女X #4
その日、ミチコの部屋にマーシャがやって来ました。
「ごきげんよう、調子はよろしくて?」マーシャが言いました。
「まあまあってとこね。」ミチコが言いました。
「知ってますわよ、政府に協力してあれこれやってたんですって?」マーシャが言いました。
「私はただ利用されてただけよ。」ミチコが言いました。
「それでも、経験を積むことが出来て良かったのではありませんこと?」マーシャが言いました。
「フッ、どうかしらね?」ミチコが言いました。「そんなことより、仕事の話?」
「そうですわね。ターゲットが決まりましたの。」マーシャが言いました。
「あなたの狙いは宝石よね?」ミチコが言いました。
「ええ。この町の美術館に展示されることになったエメラルドを手に入れたいのですわ。」マーシャが言いました。
「ふーん……。」ミチコが言いました。
「美術館の警備はそこらの宝石店とはワケが違って、何やら仰々しい雰囲気の警備会社が警備を行っているのですわ。」マーシャが言いました。
「ひょっとしてSSS……?」ミチコが言いました。
「詳しいんですの?」マーシャが言いました。
「まあ、多少はね。」ミチコが言いました。
「それは頼もしいですわ。あの会社の警備はネズミ一匹通さない程で私も困っていたところでしたの。」マーシャが言いました。
「ネズミ一匹が通れないんじゃあなたもお手上げよね。」ミチコが言いました。
「ですので、ここは是非ともあなたの力をお借りしたいのですわ。」マーシャが言いました。
「SSSとやり合って、またあのレイコとかいう魔法少女と戦うハメになったら私一人じゃ手に負えなくなりそうね。」ミチコが言いました。
「レイコ……?」マーシャが言いました。
「あの会社の魔法少女よ。」ミチコが言いました。
「あの会社には魔法少女まで所属していますの?」マーシャが言いました。
「一人だけみたいだけどね。」ミチコが言いました。「でもソイツがなかなか手強いのよ。」
「魔法少女がいるということは、ひょっとして妖精も……?」マーシャが言いました。
「かも知れないわね。」ミチコが言いました。「ホントにいるかは知らないけど……。」
「これは私が思っていた以上に厄介な仕事になるかも知れませんわね。」マーシャが言いました。「諦めた方が良いのかも知れませんわ。」
「もう少し味方がいれば良いんだけど。」ミチコが言いました。
「味方になってあげても良いわよ。」そう言いながらランが部屋に入って来ました。
「あなたは……。」ミチコが言いました。
「誰ですの?」マーシャが言いました。
「私はラン。」ランが言いました。
「政府の人間よ。」ミチコが言いました。
「この間は世話になったわね。」ランが言いました。
「頼まれたから助けただけよ。」ミチコが言いました。「それよりも何のよう?また政府の仕事?」
「個人的にお礼がしたくて、ね。」ランが言いました。
「えっ……?」ミチコが言いました。
「宝石強盗をするんでしょ?協力するわ。」ランが言いました。
「政府の人間が犯罪に手を貸して良いワケ?」ミチコが言いました。
「この町の美術館には黒いウワサが絶えないわ。SSSの精鋭チームが警備を担当しているのがその証拠よ。だからこの機会に少し叩いておくのも悪く無いわね。」ランが言いました。「一番の理由はさっきも言ったように、あなたへの個人的な恩返しだけど……。」
「まあ、手を貸してくれるなら助かるわね。」ミチコが言いました。
「どういうプランで行くつもりだったの?」ランが言いました。
「警備員達に見つからないように忍び込んで、人知れずターゲットを盗むのが私のやり方ですわ。」マーシャが言いました。
「でも、警備にスキが無いのよね?」ミチコが言いました。
「SSSを相手に隠密行動は無理があるわね。」ランが言いました。「やるなら派手にやるしか無いと思うわ。」
「たった二人であの警備員達に立ち向かうつもりですの?」マーシャが言いました。
「数では劣っていても攻撃力は私達の方が上じゃ無いかしら?」ランが言いました。
「でも、レイコが現れたら厄介よ。」ミチコが言いました。
「レイコ……通称ゼロね。」ランが言いました。
「そんな二つ名があるの?」ミチコが言いました。
「ええ。レイコのレイを取ってゼロよ。」ランが言いました。「たまにその呼び名が使われているわ。」
「そのような隠語が作られるということは、そのレイコという魔法少女がSSSの警備を打ち破る上で余程の脅威となっているということなのですわね。」マーシャが言いました。
「間違い無く脅威よ。」ミチコが言いました。「二人だけで勝てる見込みはある?」
「そうね……。」ランが言いました。
「それに、この間の一件でマーシャから貰ったバイクが無くなっちゃったのよね。」ミチコが言いました。
「どういうことですの!?」マーシャが言いました。「あのバイク……調達に苦労したのに……。」
「アシに関しては心配要らないわ。」ランが言いました。
「えっ……?」ミチコが言いました。
「後で言おうと思ってたんだけど、あなたのバイク、あの後路上に放置されていたものを魔法庁で回収して修理を行っているわ。」ランが言いました。
「ホントに……?」ミチコが言いました。
「本当よ。」ランが言いました。
「それは良かったですわ。」マーシャが言いました。
「それに、戦力に関しても……。」ランが言いました。
「何……?」ミチコが言いました。
「魔法庁からの支援は受けられないけれど、一人だけ協力してくれそうな人物に心当たりがあるわ。」ランが言いました。
「誰……?」ミチコが言いました。
「ついて来て。」ランが言いました。
ミチコとマーシャはランに連れられて街外れにある古いガレージにやって来ました。
そこには一人の少女が住んでいました。
「久しぶりね、ハルナ。」ランが言いました。
「ランちゃん……?」その少女が言いました。
「調子はどう?」ランが言いました。
「悪くないね。」ハルナが言いました。
「それは良かったわ。」ランが言いました。
「何しに来たの?そっちの子達は……?」ハルナが言いました。
「私はミチコ。Xって言った方が分かるかしら?」ミチコが言いました。
「どっちもピンと来ないかな。」ハルナが言いました。「その手の仕事からは足を洗ったから……。」
「何言ってるのよ。あなたが私達から距離を置いてからも巷で騒ぎを起こしていたのは有名な話よ。」ランが言いました。
「あなた達政府の不始末の尻拭いをしただけだよ。」ハルナが言いました。
「まあ、こちらとしても助かってはいたけど……。」ランが言いました。
「で、そっちのネズミは……?」ハルナが言いました。
「こっちのネズミはマーシャと言いますの。」マーシャが言いました。「お見知りおきを……。」
「ネズミの妖精は初めて見るけど、良いものだね。」ハルナが言いました。「品がある。」
「光栄ですわ。」マーシャが言いました。
「で、何をするの?今は政府の仕事はやらないハズなんだけど……。」ハルナが言いました。
「政府の仕事じゃないわ。Xの仕事よ。」ランが言いました。
「X……。ミチコ……。確かに、政府の使う名前じゃないね。」ハルナが言いました。
「政府について詳しそうな口ぶりのところ悪いけど、あなたが距離を置いてる間にこちらも色々と変わってたりするのよ。」ランが言いました。
「それでも本質は変わって無いでしょ?」ハルナが言いました。
「ええ。世界の平和の為に活動してるわ。」ランが言いました。
「それで、Xはどうなの?」ハルナが言いました。
「私……?私はただの悪党よ。」ミチコが言いました。
「何をしようとしてるんだっけ……?」ハルナが言いました。
「美術館から宝石を盗み出すの。」ミチコが言いました。
「宝石……?」ハルナが言いました。「危険な代物なの?」
「ただの宝石ですわ。」マーシャが言いました。
「マーシャは宝石が好きなの。この子のコレクションの為に私は魔法少女になったのよ。」ミチコが言いました。
「政府はなんでこの二人に手を貸すの?」ハルナが言いました。
「政府が手を貸してるんじゃないわ。私が個人で手を貸しているのよ。」ランが言いました。
「何で……?」ハルナが言いました。
「個人的に借りがあるからよ。」ランが言いました。
「まあ、この町で魔法少女として活動していたら政府のメンバーに貸しが出来ることもあるか……。」ハルナが言いました。
「それはそうと、協力して貰えない?」ランが言いました。
「良いよ。」ハルナが言いました。「どうせヒマだし……。」
「退屈凌ぎで犯罪に手を貸すなんて、とんだクズね。」ミチコが言いました。
「そういうあなたは……?」ハルナが言いました。
「クズよ、折り紙付きのね。」ミチコが言いました。
「だろうね。」ハルナが言いました。
「フフッ。」ミチコが言いました。
「で、どんな計画なの?」ハルナが言いました。
「派手にやるわよ。」ランが言いました。
「だろうと思った。」ハルナが言いました。
「美術館はSSSが警備しているわ。場合によってはゼロとの戦闘も考えられる。」ミチコが言いました。
「ゼロって何……?」ハルナが言いました。「ゼロワンなら知ってるけど……。」
「レイコのことよ。」ミチコが言いました。「知らない?」
「知らない。」ハルナが言いました。
「SSSの幹部の魔法少女よ。」ランが言いました。「あなたは知らないのよね。」
「どうやら一線を退いていた期間が長過ぎたみたいだね。」ハルナが言いました。
「元々ハルナはSSSとは関りが薄かったものね。」ランが言いました。
「あそこの警備員に殺されかけて以来、あまり関わらないようにしてたからね。」ハルナが言いました。
「大丈夫なの?」ミチコが言いました。
「大丈夫だよ。この機会にあの会社とも親密に接することにするよ。」ハルナが言いました。
「それが良いわね。」ランが言いました。
「決行は……?」ハルナが言いました。「今すぐ……?」
「今すぐって言いたいところだけど、もう少し時間が掛かりそうね。」ランが言いました。
「私のバイクが直るまで待ってて貰える?」ミチコが言いました。「ちょっと事故っちゃって……。」
「マジカルテックサイクルじゃないんだね。」ハルナが言いました。
「私のとっておきのバイクですの。」マーシャが言いました。
「この計画は政府と無関係だから、政府の装備を渡す訳にはいかないのよ。」ランが言いました。
「まあ、乗り物はあって損は無いだろうし、そのバイクが直るのを待つとしようか。」ハルナが言いました。
「ええ。」ランが言いました。
「その時はよろしくね。」ミチコが言いました。
「うん。」ハルナが言いました。
おわり