表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Capital Forest  作者: わたりとり
99/213

24-1.敵か味方か

私は誰とも仲が良くない

 「ガランが『時計』を失ったとハヴェオが話していたらしい」という噂がカピタルじゅうに広まるのに、時間はかからなかった。

 グレズリーの所に客が来るたび、さも新しいニュースのように、しかも必ず「大きな声では言えないが」と前置きして話をされるので、うんざりするとハルは言った。

「みんな、すごく困ったような、それでいてすごく嬉しそうな顔で話し始めるんだ。『もう知ってます』なんて言えないよ。いっそのこと、臨時集会でも開いてみんなの前で発表すればいいのに。そうすれば僕だって、コソコソと何度も同じ話を聞くような真似、しなくて済むんだ。すごい迷惑だ」

 ハルには珍しく辛辣しんらつだ。

「聞きたくないなら、断ればいいじゃないか」

「断りたいさ。でも、それはガランの側に付くという事なんだ。そう受け取られるんだ。僕はハヴェオの味方なんかしたくない、だからといって、ハヴェオの言うことを信じる人達を敵に回したくはないよ」

 ウィルはぎょっとした。

「まさか! いったい誰だよ、そんな意地の悪い人間? 話を聞かないだけで敵呼ばわりって、そんな馬鹿なことがあるか」

 ハルは首をすくめた。くすんだ色の古い服を着て、大人びた顔で言った。

「馬鹿なことじゃない。たしかに、カピタルはみんな優しくていい人達ばかりさ。でも、ウィルが思ってるよりも、大人はずっと――なんていうか――こういう噂が好きなんだ。待ってるんだ。楽しんでるんだ。ラタのマクヴァン騒ぎで、僕はいやというほど思い知った。ハヴェオのやりかたは汚いけど、本当に上手いと思う」

 そう聞いたところでいまいちピンと来なかったウィルも、三日経たないうちに思い知った。マカフィに、先発隊の者達に、エマおばさんにバーキン老人に、ともかく会う人会う人から「知ってるか?」と問いかけられ、最後には「で、どう思う?」と聞かれたからだ。

「どうって、ただの噂だろ。本当かどうかわからないんだろ」

 と返したウィルに、マカフィはいみじくも言った。

「じゃあお前は、ハヴェオさんの話は嘘だっていうんだな。ガランの味方に付くってことだな」

 さすがに「俺の敵ってことだな」とは言わなかったが、彼の口調にはそれにかぎりなく近い響きがあった。

 ウィルは泊り駆けをやめた。村を空けている間に一気に事が動きそうな気がして、落ち着かないからだ。

 唖然とするくらいあっけなく、カピタルは、ガランに付くかハヴェオに付くかという話で覆い尽くされてしまった。噂は常に、どちらに付くかという本心を見せないまま語られている。しかし、噂が繰り返されるということそのものが、ガランよりハヴェオのほうが優勢という証なのだ――連日の聞き役を、「どれくらいハヴェオの味方が多いのか、調べるつもりで聞くよ」とわりきったハルが、夕食の後そう分析した。

 グレズリーの新しい助手、ケインは、男版エマおばさんと呼びたいくらい噂好きだった。暇を見つけてどころか暇を作ってでも村人達と長話ばかりしていて、とうとうグレズリーに小言をもらったとハルが教えてくれた。彼がどっちに付いているかは、聞かなくてもわかる。シーサの調教をしに行ったところを捕えられ、こう言われたからだ。「君は『開拓者』だからな。あの噂はもちろん知っているのだろう?――なに、知らない? どうでもいいって? そんなことじゃいかんな、大切な話だ、俺が詳しく教えてやろうか」

 いりません、と撥ね付け、ウィルはさっさとシーサを引き出して調教に向かったけれど、ハルによれば、それはすでにガランの味方に付いたという態度なのだそうだ。

 そう思いたいなら、勝手にしろ。

 会っても噂話を持ち出さなかったのは、調教のとき立ち会ってくれるセルゲイとニッガくらいだった。話が彼らの耳にも入っていることは間違いない。黙っているということ、そのものが、ハヴェオの側に立つ気は無いという意思表示なのだとウィルは感じた。グレズリーは、ケインがウィルにまとわりついたとき「ケイン! いいかげんにしないか!」と驚くほどの大声で叱り飛ばしていたから――ガラン側じゃないか、と思う。

 いっぷう変わった態度を取っている男もいた。ビリー・ヒルだ。

 追加の抗体注入を受けに行って、ちょうどハヴェオがビリーの家から帰るところを見たウィルは、初めて自分から噂を持ち出した。どう思っているか、知りたかったからだ。彼はハヴェオと兄弟のように仲がいいとバーキン老人から聞いている。当然、ガランの側には付かないだろうが……

「俺がその噂を知らないとでも思うか。何が聞きたい」

 ビリー・ヒルは威嚇するように、ぶっとい注射針をこっちに向けた。ウィルは思わずぎゅっと目を閉じたが、かろうじて逃げたい気持ちを押さえつけた。

「ビリーさんと反対の側に付いた人間のことを、どう思うのか。それを聞きたいです」

「少なくとも、お前には対してはこれまでどおりだ。親父の遺言があるからな」

 さっさと服を脱げとベッドを指差し、彼はぶっきらぼうに答える。ウィルが欲しいのは、そんな答えでは無かった。手に押し付けられたマクヴァン入りのお茶を押し返し、くい下がった。

「そうじゃなくて。以前、言ってましたよね。仕事で誰かを特別扱いしたりはしない、相手がどんな人間でも同じ事をするって。それは今でも変わらないんですよね」

「ずいぶんと生意気を言うな、竜使い」

 彼は目をぎょろぎょろさせ、じっとこちらを睨みつけた。しかしその後、びっくりするほど朗らかに笑って言った。

「俺は変わらんさ。どちらにも肩入れする気は無い。安心しろ、自分の立場はわかっているつもりだ――ところでお前は、ずいぶん変わったな」

 そうだろうか。自分ではわからない。

 今のカピタルのほうが、よっぽど変わってしまったと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ