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Capital Forest  作者: わたりとり
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12-1.砂と卵

僕達だけ生き残って、この場所は砂漠になるってことだ。それでもいいの?

 マカフィは「また明日」と言ったが、新月祭の翌日は安息日だった。

 もちろん、エヴィーの小屋作りはお休みで、静かな朝になった。

 ……と思っていたら、ラタがやって来た。ネイシャンに頼まれた『ジショ』を届けに来たのだ。

「はい、これ。ハルは? いないの?」

 テントの中を覗き込むラタに、ウィルは眉をしかめて答えた。

「出かけた。入ってくるなよ、わざわざ」

「だって、辞書の使い方を教えてあげなさいって言われてるもの。ウィル、本を最後まで読んだことないんでしょ? 遠慮しないの」

「一回もないみたいに言うな。俺だって、本くらい読める――」

 言いかけて、絶句した。

 パラパラめくったページが、虫より小さい文字でびっしり埋まっている。ページの端から端まで。分厚い本の初めから終わりまで。習ったことのない単語が、ずらずらずらずら、どこまでも並んでいた。

「なんだ、これ! こんな本、どうやって読めって!?」

 ラタは、ほらみなさい、とぶつぶつ言いながら、表紙のをめくり目次の欄を開いた。

「辞書はね、言葉の意味を説明してくれる本なの。順に並んでいるから、探せば必ず見つかるわ。ほら、見て。分類別けされているでしょう? それで、一番最後の分類が自然物の名前なの。植物や生き物も、載ってるわよ」

「へえ」

 手にとって見ると、また文字・文字・文字の洪水だ。挿絵もないから、なにがなんだかわからない。抗体注入の注射針がびっちり並んでいるような気がしてきた。

 目をつむり、頭を振った。

「だめだ。俺、吐き気がする」

「馬鹿言ってないで、ちゃんと使ってよ! この辞書、とっても貴重なものなんだから!」

 いらない! 使いなさい! と押し問答していると、ハルが帰ってきた。手に、めったに配給されない竜の卵を抱えている。

「おはよう、ラタ。……なに怒ってるの?」

 ラタから事情を聞いたハルは、ウィルが突き返した辞書を熱心に調べ、言った。

「この辞書、学校にあるやつよりずっと詳しいね。――自然物の分類まであるって? 僕、読んでみたいな。ウィルが話してくれた生き物も、きっと載ってるよ」

「載ってたらなんて書いてあるか、教えてくれよ。これで解決だ」

 急いで言うと、ラタは眉を吊り上げた。

「ウィル! そういうズルをするなら、先生に報告するからね」

「どうぞ。ネイシャンだって言ってたぜ。俺とハルを足して一人前だって」

 いや、もうちょっと違う表現だったかな? とは思ったが、かまわず言い放つと、ラタは「ハルを半人前みたいに言わないでよ。あなたじゃあるまいし!」と嫌味たっぷりに返した。

 いいかげん嫌気がさしてきて、ウィルはラタの攻撃を無視することにした。

「ハル、そろそろ出かけようぜ。ところで、その卵は?」

「グレズリーさんに頼んで、もらってきたんだ。ソディックさんに渡そうと思って。手ぶらじゃ悪いからさ」

 昨日の夜、ソディックの所へ話を聞きに行くと打ち明けたとき、ハルは同行させてほしいと熱心に言った。自分もメルトダウンのこと、シールド・ポールのことを、直接聞いてみたいからと。

 じゃあ行こう、とテントを出たウィルに、今までの喧嘩を忘れたようにラタが尋ねた。

「ソディックって、あの実験ばかりしている人のこと? なにしに行くの?」

 並んで歩きながら、彼女はしつこく聞いてきた。

「相当変わってる人って噂だけど。毎日、なにしてるのかしら。彼の仕事はなんなの?」

 ウィルが答えないので、ハルが横から助け舟を出した。

「僕達も、よく知らないんだ。だから、その話を聞きに行くんだよ。じゃあね、ラタ。辞書のこと、ありがとう」

「あら、ハルから御礼を言われても――」

 ぐずぐず言うラタを振りきり、二人はなかば走るようにテントを離れた。

 ソディックが住む西区へ向かいながら、ウィルは思った。

 確かに、なんの仕事をしているのか、謎の人物だ。「イカレてる」というマカフィの断言からすると、よっぽど偏屈な仕事をしているのか、それとも仕事などしていないのか――話を聞いてみないことには、わからない。


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