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Capital Forest  作者: わたりとり
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01-1.ママのお話

私たちもこの森に、足を踏み出さなければいけないわ

 マリー・ペドロスは子どもたちを集めてなにかとお話しするのが好きで、それがこうじて共同体「カピタル」で学校をつくってしまった人だ。

 全部で千人にも満たないカピタルは、ほとんどが老夫婦か独り者の所帯ばかりで、子どもたちの数は少なかった。だからマリー・ペドロスがつくった学校には、今は先生が三人しかいなかった。

 マリー・ペドロスは読み書きを教えている。リブラという若い男先生が鉛筆の数えかたから複雑な方程曲線まで教え、ネイシャンという女先生が怪我の直し方とか太陽を見て時間を知る方法とかを教えていた。

 でも、人数が少ないからといって、学校が陰気に落ちこんでいたわけではない。子どもたちはよちよち歩きから学校に来てよかったし、もう教わることがなくなった大人達でもしょっちゅう顔を出しに来た。懐かしがってやって来る大人達は、子どもたちの宿題をいっしょに見てやったり、まだおしめのとれない生徒の世話をやいたり、けんかしているやんちゃ坊たちを叱ったりで、なにやかやと忙しかった。二つの小さな教室と落書きだらけのブランコがある庭は、いつも人の笑いであふれていた。

 マリーの学校はまた、託児院でもあった。親が病気で家に帰れない子どもや、帰るところのない子どもは、勉強が終わってもこの学校に残り、そしてそこが我が家となるのだった。

 カピタルでは捨て子などという残酷なことはけしてなかった。子どもはほんとうに望まれて産まれてきたから。ただ悲しいことに、お産をきっかけに体調を崩し帰らぬ人となる母親がたくさんいた。いい医者がいなかったので、状況は悪くなるばかりだった。子どもはたいてい男親か、親戚の人たちで大切に育てられたが、親戚も誰もいない場合は、マリーが一人前になるまで引き取るのだった。もっとも、そうでない子どもたちも、学校が終わってもなかなか帰りたがらずに、迎えにきた大人達をてさんざん手こずらせて結局マリーの家に泊っていくことが多かったが。

 こんなわけで、マリーはママ・ペドロスとも呼ばれていた。引き取っている子どもだけでなく、カピタル中の大人達から呼ばれていた。ママというにはもうだいぶ歳だったのだが、マリーもママと呼ばれることが好きだった。カピタルで、ただ単に「ママ」といったらそれはマリーのことだったし、それにふさわしかった。

 マリーは読み書きと歴史を受け持っていたけれど、本も退屈な年表も使わなかった。教えるべき事はすべてマリーの口から、お話として子どもたちに受け継がれているのだった。マリーのお話はいつも新鮮さと驚きに満ちていて、子どもたちは次々とお話をねだった。大人達も、「たしか前に聞いたと思うけど」と照れ笑いしながら、お話に釣りこまれることがしょっちゅうだった。

 マリーのお話は、いつもこんなふうにはじまる。

「さあ、今日はなんのお話をするんだったかしら? そう、キディが言っていたわね、『竜使い』の話をするんだったわね。それでいい? みんな、セルゲイさんが飼っているフィブリンをからかったりしているけど、本当は竜はとても強い生き物なのよ。みんなが知っているよりも、もっとずっと足が速くて、かっこいいいの。私たちがこの森を見つけたのだって、竜と『竜使い』がいてくれたからよ……」


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