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02.プロローグその2

「神官長!!助けに参りました!!」


 ワイバーンの巣の端っこで、所在無さげに膝を抱えてちょこんと座っている男性――神官長に私は何度目になるかわからないセリフをいいつつ駆け寄った。


 ここは断崖絶壁の途中に作られた「天災級」と人々に恐れられる魔物「ワイバーン」の巣。

 いま産卵期間なのであろう――巣の中には彼の他に卵が所狭しと並べられている。


 彼はそんな巣の隅っこで。所在なさげに彼は座っていたのだ。


「レイナ……その……なんといっていいか。

 このように誘拐されてしまって……貴方に迷惑をかけることになってしまいました。

 面目ありません」


 神官長がすでに涙目になりつつ私に謝る。


「気にしないでください。神官長。

 まさか神殿の渡廊下を歩いてるだけで、ワイバーンに強制連行されるなどと誰が想像できましょう」


 そう――神官長である彼は恐ろしいほどのお姫様体質だった。

 何故かいつも魔物に誘拐されては私に助けられるを繰り返している、絵本の中のお姫様も真っ青になるほどのお姫様っぷりなのです。

 彼の名誉のために言いますが、彼は決して弱い方ではないのですが……。


 どちらかといえばエルフの中では強い部類に入るでしょう。

 ですが、ワイバーンはエルフや人間などといった種族では決して敵う事のない天災級の魔物。

 さすがの彼でもワイバーン相手に一人では無力に近い。


 本来神々結界の張ってある街中に来ることなどない魔物――それがワイバーンのはずなのですが。


 結界の整備をしているほんの数分。神々の結界が弱まってしまった所を狙いをすましたように、ワイバーンは現れ、彼を誘拐していったのです。


 流石に今回ばかりは神官長に同情します。


「ですが……せっかく、誘拐癖が治れば告白のチャンスをいただけるとお話をいただいたばかりだったのに……。

 まさか四日もたたず、誘拐されてしまうとは……」

 と、頭を垂れた。


 はい。しましたね。そんな約束。

 彼が三日前、サキュバスに誘拐されたとき、話の流れでそんな約束をしてしまいました。

 まぁ、告白するなどと宣言している時点で気持ちは伝わってしまっているはずなので、告白に意味があるのか不明なのですが。

 彼が告白に慎重になるのもわかります。

 神官長も、私に何度もプロポーズしようとしてくれてはいたのです。


 ですがそこでもお姫様体質が発揮されるといいますか……。

 私にプロポーズしようとするたび何故か本来その場所にいるはずもない聖女様が登場し

「ちょっと待った!!」

 と、花束をもって王子様ばりの登場をし、邪魔をなさるのです。

 彼女も神官長が大好きですからね……。

 あの行動力は見習いた……くありませんね。切実に。


 ……ああ、そういえば、プロポーズしようとした途端、聖都が魔族の襲撃を受けたこともありました。

 それに、邪神を封じた結界が解けそうになった事も……。


 はい、確かにロクな事がありませんね。

 世界のためを思うならプロポーズはしない方がいいのかもしれません。


 まぁ、そんなこともあって、彼も邪魔の入らない落ち着いた場所でプロポーズしたいという願望があるのでしょう。


「今回は不可抗力ということで、なかった事に致します。

 ですからそう落ち込まないでください」


 私がそう言うと、神官長はパァァァァと顔を輝かせ


「本当ですか!はい!元気がでました!」


 と、三十路の男性とは思えないほどのはしゃぎっぷりで微笑んだ。


 本当にこの人は――やる事なす事可愛くて困ります。

 いままで私相手にこれだけ素直に感情をぶつけてくる人はいませんでしたから。

 だから――虐めたくもなるのですけれど。


 私はかがんだ体制で彼に両手を「はいっ」と伸ばす。


「……?

 はい?なんでしょうか?」


 その行動の意味がわからず神官長が不思議そうに私を見た。


「さぁ、帰りましょう。抱きかかえて空を飛びますので、こちらへどうぞ」


 私がにっこり微笑むと神官長がやや引きつった笑をうかべ


「その……貴方に抱きかかえられるのが嫌というわけではないのですが……

 こう毎回、助けられる度に私が抱きかかえられる格好なのはどうかと。

 一応私にも男のプライドが……

 できれば背中に背負われるとかいうのは……」


「背中は羽が生えるので無理です。

 いくら竜人の私でも羽がなければ飛べません。

 この断崖絶壁の巣からでるには飛ぶしかありません。

 我侭を言わないでください神官長。

 ワイバーンが戻って来る前にここを出ましょう」


 と、言ってにっこりと彼に手を伸ばした。

 本当は問答無用で抱きかかえた方がはやいのですがそれではつまらない。

 困った顔が見たいじゃないですか。

 例えワイバーンごときが帰ってきたとしても、私ならワンパンで倒せますし。


 神官長は口をぱくぱくとさせた後


「レイナは……本当に意地悪ですね」


 と、少しふてくされた顔で恨めしげに私を見つめる。

 どうやらからかっているのがバレてしまっているようです。


 まぁ、そのふてくされた顔が可愛いから、意地悪をしてしまうのですけれど。


「はい?何の事でしょうか?」


 にっこり微笑むと、神官長は諦めたかのように私の前にちょこんと立ち、顔を赤らめながらも私の肩に手を回す。

 その姿が可愛くて


「いい子ですね」


 と、微笑んで、そのまま神官長を抱きかかえた。


「……いつか、私が貴方を抱きかかえられる日はくるのでしょうか?」


 ため息まじりに言う彼に


「さぁ?どうでしょう?」


 答える私。


 彼のプロポーズを別に受けてもいいのではないかと思う反面。

 この関係を崩したくないという想いがあるのもまた事実。


 飛び立つ時に、抱き寄せて、まるで偶然そうなってしまったかのような振りをして、軽く額に口づけすれば、神官長の顔がなんとも言えない表情のあと、みるみる赤くなる。


 チラチラ私の顔を見ますが、私が気づかない振りをしていると、たまたまだったと悟り、悲しそうな顔をしてため息をついた。


 その姿が可愛すぎて――つい虐めたくなってしまう。

 貴方が可愛すぎるのがいけないのですよ。


 いままで、誰にも何の感情も抱かなかった私が――こうして愛おしくて仕方ないと思えるはじめての相手。

 だからこそ……虐めたいのですけれどね。

 自分でも好きな相手にはこれほどSっ気があったのには驚きましたが。


 こんな私に惚れてしまった事を同情いたします――ね?神官長様?


 私が彼に微笑むと、神官長もそれに気づいてか、少し顔を赤らめて微笑みかえしてくる。


 どうか――いつまでもこの関係が続きますように――。

 光の神に私はそっと祈るのだった。


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