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14.夫婦編2

「神官長!助けに……」


 バシンッ!!


 私がいつものお約束のセリフを言いかけたその時。

 頬を叩く音が部屋に響く。


 えっと。


 私とフランツが部屋に到着すれば、そこにはベットの上で頬を叩かれて今にも泣きそうな聖女様と、乱れた服で怖い顔をして聖女様を睨む神官長の姿が。

 神官長がまた聖女様の部屋に連れ込まれたと聞いて慌てて来てみればこの状態だったわけで。


「アンテローゼ。私は貴方をそのような不誠実な人間に育てた覚えはありません」


「神官長様…」


 初めて頬を叩かれたのだろうか?聖女様が呆然とした顔をしている。


「私は貴方を甘やかしすぎたのでしょうか?

 婚約者のいない独身男性ならともかく、妻帯者にこのようなことをしていいと本気で思っているのですか?」


「で、でもっ……私は本気で神官長の事をお慕いして……」


「妻帯者に手をだしていい理由にはなりません。

 貴方は聖女なのですよ?

 他の者たちの模範になるべき存在の貴方が自ら聖書の教えを破るのですか?

 不倫はもっとも恥ずべき行為です。貴方が知らないわけがないでしょう?」


「そ、それは……」


「フランツ」


 ぼーっと聖女様が怒られる様子を見ていた、フランツに唐突に神官長が声をかけ


「は、はい!」


 フランツがやっと我にかえる。


「アンテローゼを懲罰室へ。

 今日はそこで反省してもらいます。


 今回はそれだけで済ませますが、もし次があれば、査問会にかけることになります。

 あまり私を失望させないでください」


 言って、神官長は立ち上がり、乱れた服を整える。

 聖女様は何も言えないのか、そのままベットに項垂れていた。


「アンテローゼ、貴方はレイナをあまり好きではないと言っていましたが、もし彼女が普通の女性だったら私に手をだしましたか?」


「……え?」


「心のどこかでレイナなら、なぁなぁにして許してくれると思ったから私に手をだした。違いますか?」


「……!?」


「貴方は嫌いといいつつ、レイナの優しさに甘えすぎています。

 反省してください」


 神官長は口ごもって何も言えない聖女様を一瞥すると、そのままベットから立ち去った。


「行きましょう。レイナ」


 言って、私の手をとる神官長の手はこころなしか震えている。



「貴方らしくありませんね」


 今までにない怖い顔で私を引っ張る神官長を見上げ話しかければ、酷く心が動揺する。

 私は白龍の力もあるので時々人の心が覗けるのですが――。

 動揺したせいか、神官長の心が伝わってくる。


 それと同時に、何故か脳裏に小さい時の神官長が体罰を受けている光景が頭に入ってきた。

 いつも同じシスターに激しい折檻をうけている。


 神官長が男として身体が反応してしまうと激しい体罰をうけ、興奮するなど聖職者にあるまじき行為であり婚姻前の性行為は罪だと散々叩き込まれた記憶が私にも伝わってくる。 


 この人が婚姻前の性行為を頑なに拒否したのもそのことが影響していたらしい。

 伴侶と以外はしてはいけない――それが暴行を加えてくるシスターの教えだった。


 物凄く性に対して罪悪感があったせいで、いままで目を背けていた記憶が鮮明に私の頭の中にはいってきた


 そして、聖女様が不倫をしようとしたことで、過去のトラウマが一気に蘇ったのだ。

 不倫は聖書において、何よりも罰せられるべき罪であると。


「す、すみません」


 私の手を強く握りすぎたと勘違いしたのか、神官長が慌てて手を離す。


「かまいませんよ」


 私が言うと神官長は嬉しそうににっこり微笑んだ。


 ああ、こんな可愛い神官長を体罰をしたなどという、シスターには心底腹が立ちます。

 神官長の記憶ではいつも同じシスターに暴行されているので、もしかしたらこのシスターの独断行為かもしれませんが放置していた神殿連中も許せません。


「シスターリゼビアのせいですか?」


 私が聞けば、神官長が困った顔になる。


「知っていたのですか?」

「ええ、風の噂で」


 本当は今、知ったのですけれど、記憶を覗いたなどとは流石に言えません。


「ムカツキますね。私がそのシスターを撲滅してきましょうか?」


 私が言うと、神官長は苦笑いを浮かべ


「彼女も決して悪い人間ではなかったのですよ。

 ただ、聖典の教えを守ることに固執しすぎ厳格すぎました。

 時代に合わなかったとでもいいましょうか……ですから私が解任しました。

 彼女はアンテローゼにまで同じような事をしようとしましたから」


「ああ、なるほど」


 聖女様が嫌に神官長に懐いている理由がわかりました。

 そうやって自分が嫌だったことからは彼女を全力で守ってきたのでしょう。

 惚れてしまうのも致し方ない事なのかもしれません。


「……こんなことを言うと、レイナには引かれてしまうかもしれませんが……。

 結婚しないなら、せめて子供をと、女性をあてがわれた事は何度かあったのです」


「それは意外ですね」


 と、私は素直な感想を述べた。


「神殿はもっと厳粛なのかと思っていました」


「神の愛子の子は高確立で高い神力を宿していますから」


「ああ、つまり種馬ということですか」


 私の身も蓋もないセリフに神官長はクスリと笑い


「そうです。神力がなければ、世界に悪霊がはびこってしまいますから。

 私は同意などしていなかったのですが、寝室に勝手に招き入れてきまして……

 でも、その……女性の裸を見るたびに吐いてしまって……彼女達には悪いことをしてしまいました」


 言ってシュンとなる。

 ……ああ、フランツが私と神官長の結婚を神殿連中が大歓迎しているといったのはこういうこともあったわけですね。

 忌み子である竜人でも、子供がなせればいいという考えだったのかもしれません。


「でも、私の裸は大丈夫ですよね?」


「愛していますから」


 言って微笑む。

 どうしましょう。本気で可愛いのですが。

 今すぐにでも食べてしまいたいのですが、そんなことをしていい雰囲気ではありません。

 流石に私もそこらへんはわきまえているつもりです。


「私もですよ」


 と、微笑めば、神官長も嬉しそうに微笑むのだった。

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