13.夫婦編
「神官長、襲いにやってきました!」
何時ものお約束のセリフのノリで、私が言えば
「そ、その、なぜ私が組み敷かれているのでしょうか?」
神官長が、白いタキシード姿で情けない顔でベットに私に組み敷かれている。
そう―今日は私と神官長の婚礼の儀式の日。
やたら長い、儀式を終えて、やっと解放されて自室にもどった途端、神官長を襲った次第です。
いえ、これでも私は大分我慢したんですよ?
神官長は思った以上に身持ちが堅いといいましょうか……。
どんなに誘っても婚礼の儀式が終わるまでダメですと断れられしまう次第でして。
そこは神に仕えるものとしての、プライドがあったのでしょう。
無理やり押し倒したい衝動に駆られましたが、これから長く続く婚姻生活を考えますと、我慢するほかなかったわけで。
「神官長。おあずけを食らって、私にしては頑張りました。
これ以上は我慢できません」
と、言うと、神官長は顔を赤くして
「その、夫婦になったことですし、私も覚悟は出来ているのですが……。
私の知識が間違っているのでなければ、普通は立場が逆な気がするのですが……」
「神官長はどのように知識を仕入れたのでしょうか?」
「えっと、その……絵巻物などです。
男性が組み敷かれているとういうのは見たことがありません」
そういった話を読んだ事が恥ずかしかったのか、何故か顔を赤くそめる。
その顔が可愛すぎてこのまま襲って喘がせたい所ではありますが、無理やり襲った場合、のちのち面倒になる気がするのでそれなりの承諾は得ないといけません。
「それは大体、騎士が男性で、姫が女性だったのでは?」
神官長はうーーんと考えて
「はい。そうだったと思います」
「神官長は勘違いしていらしゃいます。
騎士が組敷く立場なのであって、男が組敷くというわけではありません」
私が言うと、神官長はなぜか「おお!?」という表情になって
「盲点でした!そうですね!身分ですか!何故私は男性が、組敷く立場だと思い込んでいたのでしょう!」
と、何故か感動しだす。
はい。相変わらず発想が斜め上で騙されやすいお人ですが、今回はその騙されやすさを感謝しないといけません。
「では、納得していただけたようですので」
にっこり私が微笑めば、
「あ、あの、その……」
「はい?」
「私が組敷く方だと思っていましたので……そちらばかり調べてしまっていまして……。
組み敷かれる側というのは知識がまったくないのですが……」
「調べていたのですか?」
「え!?いや、その!?
知識がまったくないのも男としても年上としてもどうかと思いまして!?」
物凄く悪いことがバレたかのような表情で神官長が言い訳しだす。
わざわざそんなことまで前知識を仕入れようとするのが神官長らしいというか、調べないとそういった知識がまったくないのが神官長らしいというか。
私がクスリと笑うと神官長がショボンとした顔をした。
「神官長はただ私に身体を任せてくださればいいのですよ。
気持ちよくしてさしあげます」
と頬に手を添えれば、みるみる顔が赤くなっていく。
「そ、そのレイナ」
「はい?」
「夫婦でも……名では呼んでいただけないのでしょうか?」
「呼んで欲しいですか?」
「その……出来れば役職ではなく、名で呼んでほしいです」
「そうですね。では……」
言って彼の耳もとで名を呼べば、彼は嬉しそうに微笑んだ。