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11.告白

「神官長!!助けに参りました!!」


 神殿の豪華な装飾の家具が揃うその一室で。

 ベットの上で半泣きで服を脱がされそうになっている男性――神官長に私は何度目になるかわからないセリフをいいつつ鍵を無理やりこじ開けて扉をばんっと開け放った。


「んぐっ!!もふぶふ!!」


 口を布でふさがれた状態で神官長が駆けつけた私に何か訴えかける。

 ベットの上には神官長とこの部屋の主である聖女アンテローゼ様の姿が。

 神官長の手足にはきっちりと束縛の魔道具のローブがされており、逃げられないようにしてある。

 その上に聖女様が覆いかぶさるような状態なのです。

 聖女様が神官長の服を脱がせかかっているその瞬間。わたしたちが踏み込んだ……という具合なのですが。



「アンテローゼ様……聖女である貴方が一体何をとち狂った事をしているんですか!?」


 私と一緒に部屋に駆けつけた聖女様お付きの神官フランツが、前のめりになって叫ぶ。


「こ、これは誤解なのです!!

 そ、そう神官長様はこういうプレイが好きと聞き及びましたので!!

 僭越ながら私がお相手を……」


 顔を赤らめながら言う聖女様に……


「んぐっつ!!ぬぐぐう!!」


 神官長は顔を真っ青にしながらぶんぶん首を振って否定した。



 ……まったく。

 魔物に誘拐されないようにと神殿に篭るようにした途端、今度は10代の女性相手に誘拐されるとは……。

 この人のお姫様体質もここまでくると、何かに悪い悪霊にとりつかれているとしか思えません。


 まぁ、このお方は数百年に一度の逸材と言われ、ありとあらゆる悪霊を払い去る神の力をお持ちなはずなので、ご自分に悪霊がつくなどということはないのですが。

 その力の為に魔物にすら愛されてしまい、放っておくとすぐ魔物などに連れ去られるというお姫様体質だったりします。

 それ故、誘拐されることを問題視した神殿の高官達が、しばらく神官長には神殿に篭ってもらうことを決めたばかりなのですが……。


 私が雑用で神殿を離れたその隙に今度は聖女様に連れ去られてしまっていたのです……ある意味ここが一番危険だという事を忘れていた私にも落ち度があるのかもしれません。

 神官長大好きで無駄に行動力のある彼女が、神官長が神殿に篭っていて何もしないわけがありません。

 嫌な予感がしたので、予定を切り上げて、戻ってみたらこのざまです。


「聖女様、神官長にこのような無礼を働いて……ご自分が何をしているのかわかっているのですか?」

 私が凄んでいうと、彼女は一瞬ひるむが、すぐにキッと睨み返し


「神官長と私の愛の営みが無礼とはどういうことでしょう?

 私は純粋に神官長と愛を育もうとしただけではありませんか!」


 と、神官長を抱き寄せる。

 神官長は涙目で首をぶんぶん振って、自分に無実を訴えていた。


「聖女様……ちなみに愛を営むとはどのような行為を示すか…わかっていらっしゃるのですか?」


 私の問いに聖女様は自信たっぷりに胸をはり


「ええ、もちろんです!

 裸で二人で抱き合い、一夜を共にするのです!」


 何故か勝ち誇った。


「具体的には?」


「具体的…とはどういうことでしょう?

 それ以外に何をするというのですか?」


 疑問符を浮かべながら私に尋ねる聖女様に私とフランツはため息をついた。


 事前にフランツに聞いてはいたが、聖女様と神官長は二人とも生まれた時からその力ゆえに神殿が手厚く保護していたため……そちらの知識には疎いと。

 神官達はそういった話すら禁止なため、ほとんど知識がないに等しいのです。

 耳年増な聖女様は、それなりの知識を身に付けていたようだが……重要な部分の知識が欠如しているらしい。


 これは少し御仕置きが必要でしょうか?


 私はワザと彼女に近寄ると、聖女様が

「な、なんですの!?」

 と、たじろいだ。


「いいですか聖女様、愛を営むと言うことは……」


 私が具体的な方法を耳元で囁くと、聖女様は


「なっ!? そんな!!」

「……!??」

 

 などと顔を真っ赤にしながら悲鳴に近い声をあげ


「あ、あなたは破廉恥ですわっ!!」


 と、涙目になって私に抗議した。


「聖女様、私は真実を教えて差し上げただけです。

 裸で添い寝しただけでは、子はなせません。


 貴方が神官長と愛を営んだなどと他の者に言えば、そういった行為をしたと思われる事でしょうね?」


「……っ!???」


 聖女様は顔を真っ赤にしながら目に涙を貯めて私を睨み――


「あ、貴方のそういうところが大嫌いなのですわっ!!

 いつか絶対、負けましたと言わせてみせますっ!!」


 私を人差し指で力いっぱい指差し宣言する聖女様。


 ――私はなぜこうも聖女様に嫌われているのでしょうね?


「はい。負けました」


 私があっさり言うと


 ………


 …………


 ……………。


「うわぁぁぁぁぁん!!

 貴方のそういうところが嫌いなんですわぁぁぁぁぁぁ!!」


 と、泣きながら走ってどこかへ逃げていく。


「少し虐めすぎでは? 

 まったく、貴方はかわりましたね」


 聖女様をやれやれと言った表情で見送りながら言うフランツに


「そうでしょうか?いい方に変わったのなら嬉しいのですが」


 からかい気味に答えると


「もちろん悪い方にです」


 くいっと人差し指でメガネの位置をなおしながらフランツがばっさり否定する。


「……まぁ、口すら開かなかった前の貴方よりは今の方が好きですけれどね」


「それは光栄ですね。愛の告白と受け取ってもよろしいのですか?」


 私の言葉にフランツはため息をついて


「またそうやって神官長をいじめるのはやめてください。

 泣いてますよ?ワザとでしょう?」


 そう言って、今だ魔道具で手足を結ばれ、口を布で塞がれた状態でベットに放置されている神官長に視線を向ける。

 神官長は顔を真っ青にして今にも泣きそうな表情になっていた。



「さて――聖女様を追わないといけませんので私はそろそろ退散しますが、神官長をあまり虐めないでくださいよ?

 後の仕事に影響しますので」


「虐めた事などないはずなんですけどね?」


 私の言葉にフランツはその端麗な顔をに思いっきり青筋を浮かべ、


「……前言撤回します。前の方がマシだった気がします」


 と、苦笑いを浮かべた。



△▲△▲△▲



「あ、あの……。

 危ない所を助けていただいて有難うございました。


 そ、それでその……

 レイナは怒っているのでしょうか?」


 神官長の部屋に神官長を運んだ所で、彼はおずおずと尋ねてきた。


「はい?別に怒っていませんが?」


 私がにっこり微笑むと、


「……では何故、手足の魔道具がそのままの状態なのでしょうか?」


 泣きそうな顔で言う神官長。

 ……結局手足の魔道具がそのままなので聖女様の部屋から神官長の部屋のベットに移動しただけで先ほどとあまり状況はかわっていない。


「魔道具はそう簡単に外せません。神官長もご存知でしょう?」


 私が言うと、彼は困った顔をして


「普通ならそうかもしれませんが……

 レイナなら簡単に引きちぎる事ができると思うのですが……」


 そう――竜人の私ならたしかに神官長の言うとおり、引きちぎるのは容易いのですけれど――

 せっかく可愛い姿なのに、終わらせてしまうのはもったいない気がするのです。

 もうちょっと拝んでいたいじゃないですか。

 先ほどまでは聖女様達がいたのであまり堪能できませんでしたし。


「そんなことをして呪いの効果があったらどうするおつもりですか?」


 私の言葉に神官長がうっとした表情になる。

 確かに呪いの魔道具が存在しないわけではない。

 ……物凄く珍しいものではあるが。

 聖女の彼女なら決して手に入れられない品物ではないのである。


「……わかりました。ではベルナントを呼んできていただけませんか?

 彼なら例え呪いがあっても外せるはずですから」


「お断りいたします」


 神官長の言葉に私がにっこり微笑むと


「……


 ……はい?」


 神官長が困ったようなぽかんとした表情になった。

 はい。その表情が見たかっただけなのですが……

 こういう顔をされると更に困らせてしまいたくなるじゃありませんか。



「ワイバーンやサキュバスなどの天災級の魔物相手になら仕方ない部分もありますが……

 今回誘拐されたのはいくら聖女様といえども、まだ10代の少女ですよ?

 反省していただくためにも、しばらくその格好でいていただきます」


 私の言葉に神官長は神妙な表情になり


「ああ……確かにそうですね……。

 今回ばかりは言い訳の言葉もありません……。

 どうやら感覚が麻痺していたようです……」


 想像以上に落ち込んだ表情になる。


「自分でも無自覚に貴方に助けられるのが当たり前になっていたのかもしれません。

 これでは……ダメですね。いつまでたっても貴方の隣には並べません

 貴方に甘えすぎていました……申し訳ありません」


 言って自嘲気味な笑を浮かべた。その表情は暗く、本当に気落ちしていらっしゃるようです。


 はい。困りました。思っていた以上にダメージを与えてしまいました。

 彼が物凄く生真面目だということをすっかり失念してましたね。

 さて?どういたしましょう?


 ……ただ、両手足を縛られた状態で、そのような憂いを含んだ表情をされてしまうと……


 ダメですね。もっと虐めたくなってしまいます。


「本当に悪いと思っています?」


 言って、私は神官長を組み敷いた。


「……え?あ、はい。もちろんです……が」


 状況が掴めず、ポカンと組み敷かれる神官長から聖女様の香水の臭いがかすかに香り――

 少し嫉妬する。

 ええ、本当に。いくら聖女様といえども、10代の女性ですよ?

 何故捕まってしまうのか不思議でなりません。


「では――少し御仕置きを……先程の続きを私とどうですか?」


 にっこり私が微笑むと



 ………。



 …………。


 ………………………。



「はぃ?」


 間の抜けた声をあげる。


 私はワザと悪戯っぽく微笑むと


「まさか、神官長も聖女様のようにやり方がわからないわけではないでしょう?」


 耳元で囁く。途端、その耳まで真っ赤になり


「ちょ、ちょっと待ってください!レイナ!!

 まずこういう事は手順というものがありまして!!

 愛の女神ファンティーゼ様の前でまず愛の告白をし

 闇の女神アルテナ様の前でお互いの愛を誓い

 光の神セシウス様に夫婦の誓いをたててからでないとっ……っ!!」


 じたばた抵抗する神官長の手を上で押さえつけると


「神官長は神のお使いですから。守らねばならないでしょう。

 ですが、私は神に仕えておりません。

 神官長が私にするのはダメですが、私が神官長にするのは大丈夫なはずです」


 物凄くいい加減な嘘をついてみせる。


「………そ、そうなんですか!?」


 と、何故か信じる。

 ………神殿連中はもう少し彼に疑うという事を教えておくべきだったと思います。

 箱入りなのも考え物なのかもしれません。


「はい。そうですよ?」


 言って彼の頬に手を添えれば――


 びくりと体全体が緊張で硬直するのがわかる。


 はい。可愛いですね。


 そっと聖女様によって脱がされかけた服の間から覗く肌に手を這わせれば、


「……っ!?」


 声にならない悲鳴をあげて、ぎゅっと目をつぶって顔を背けた。

 仕草が可愛すぎてもう少し虐めたくもなりますが――


 ばんっ!!


 と、大きな音をたて、何故か鍵がかかっていたはずの神官長の部屋の扉が盛大に開かれ


「神官長様っ!!!このアンテローゼ、愛しの神官長様をお救いにきましたわっ!!」


 と、何時ものごとく聖女様が登場する。

 その手には何故か花の花束をもっているのですが。一体いつ用意したのでしょう。


 ――まぁ、そこに潜んでいるのがわかっていたので、こうなるとは思っていましたけどね。

 毎回告白のタイミングで現れたりと、何故こうもこの方はタイミングがよろしいのでしょう。


「ア、アンテローゼ」


 何故かほっとした表情をしてちょっと嬉しそうな神官長。

 聖女様をみてほっとするとか後で御仕置きが必要かもしれません。


「ア、アンテローゼ様っ!こんな所にっ!!」


 後から聖女様を追って駆けつけたフランツがぜぇぜぇと肩で息をして……

 聖女様と私と神官長を交互に見比べ、その端正な顔に青筋を浮かべる。


 ――ああ、まずいですね。この男は怒らせると地味に怖いところがあります。


「レイナ……あまりからかい過ぎるなと言ったはずですが?」


「私は真剣です」


 きりっと真顔で言えば


「なおのこと問題なんですが!!それは!!」


「そうですわっ!!その位置にいていいのは私だけなのですわっ!!」


 と、身を乗り出す聖女様をフランツは容赦なく拘束魔法で確保すると


「……ああ、もう。これ以上は貴方たちに任せておけませんっ!二人とも反省してもらいます!

 お二人とも業務以外のことで神官長との会話は禁止!会うことも禁じます!!」


 と、残酷な罰を平気で言ってのけるのだった。

 ああ、この人は世にいう鬼畜メガネですね。何が罰になるのか正確に理解していらしゃる。本当に恐ろしい。


 まぁ、何故か一番ショックを受けているのは私に組み敷かれている神官長だったりするのですが。

 会話もできないとか、神官長がどんなリアクションをするか見れるのはこれはこれで、なかなか楽しいかもしれません。


 話しかけようとして、モジモジしている彼を思い浮かべ、私は思わず微笑む。


「………それでは、続きはまた後ほど」


 からかい気味に彼の耳元で囁くと


「い、いいえ、ダメです!!」


 言って彼は私の腕を引っ張り、私を逆に組み敷いた。


「!?」


 驚くフランツと聖女様。


「きちんと手順を踏みましょう!

 結婚してください!レイナ!!」


 真顔で告白してくる。


 ――はい。からかったつもりでしたが、これは意外な展開になりました。

 まさかこのタイミングで告白される事になるとは。


 チラリと聖女様とフランツを見てみれば、卒倒した聖女様をフランツが抱きかかえている。


「あ、あの……ダメですか?」


 何も返事をしない私に不安になったのか、やや悲しそうな顔になる神官長。


 ……ああ、そんな可愛い顔をされて私が断れるわけはないのですが。

 この人は本当に何もわかっていないらしい。


 私が返事を耳元で囁くと――神官長は嬉しそうに微笑んだ。

 その笑顔が可愛くて、私はそっと耳元にキスをする。

 

 私のようなジャジャ馬でS気質な女の相手は大変だとは思いますが


 ――どうか、よろしくお願いしますね。神官長。


 私は顔を真っ赤にしている神官長に今度は頬にキスをするのだった。


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