10.いちゃいちゃ編4
「神官長!助けに参りました!!」
どこかの馬鹿が復活させてしまった邪神と対峙する神官長とその他取り巻き神官や国々の騎士達と邪神の間に私が割り込んだ。
ここはすでに戦場で、邪神退治のために、多くの兵士達があつまっている。
「ありがとうございますレイナ!」
と、喜ぶ神官長と
「ずっと隣にいたのに何でいきなり……」
と、私の言葉に頬をひきつらせる神官長の取り巻き神官その1フランツに私はにっこり微笑み
「これを言わないとなんだかやる気がでないんです」
と、私は笑顔で返す。
それにしてもです。
まさか前回抜かれてしまった神官長の魔力で、邪神を復活させるとは夢にも思いませんでした。
魔法陣は壊しただけではダメだったようです。
今回ばかりは私のミスなので、全力で倒したいと思います。
暗雲が立ち込める丘の上で「ハーッハッハ邪神様の復活だ」などと、言っている魔族と何やらその後ろに現れた巨大な扉。
そして、それは扉を開けて普通に現れた。
邪神ボンギュラウ。
骸骨の頭に、ボロボロのマントを羽織った巨大なそれが、邪気を放ちながら、世界に降臨する。
「ああ、世界の終わりだ」
「怯むな迎え撃て!」
などと、声が聞こえている。人間やエルフ如きでは確かにこの邪神の放つ邪のオーラだけで身がすくむことでしょう。
私はその姿を凝視した。
まぁ、復活途中で止める事もできたのですが、ここで倒しておかないと、また魔族が邪神様復活のためーと神官長を誘拐する恐れがあるので、もう根本から倒しておきましょう。
「それでは神官長、ちょっと倒してきます!」
私がにこやかに言えば
「た、倒せるんですか!?」
「そんな近所に買い物に行くようなノリで……」
驚く神官長と、呆れるメガネことフランツ。
「はい。ただ……」
言って私はくるりと神官長の方に振り向いて自分の頬をつついてみせる。
「……?」
と?マークを浮かべる神官長。
「こういう時、騎士には無事帰って来てねのキスを送るのは神官長の勤めかと思われます」
私が言えば、神官長の顔がみるみる赤くなった。
「え!?いや、確かに絵巻物でそういう話は読んだ事がありますが!
こういう場合男女逆ではないでしょうか!?」
「邪神に立ち向かうのが女なのですから、問題ありません」
「あ!なるほど!言われてみれば!」
ぽんと手を叩く神官長に
「神官長、貴方はその騙されやすい所をなんとかすべきです」
と、メガネ君のツッコミがはいる。
ちっ。余計な事を。
「しかしその、貴方一人で邪神に向かうなど大丈夫なのでしょうか?自分も一緒に……」
「流石に今回の相手は貴方を抱っこしながら闘う余裕はありませんのでここで待っていてください」
と、私の戦力外通知言葉に神官長がちょっとうなだれるが、今回は仕方ありません。
邪神相手ですから、さすがの私でも両手くらいは使わないと勝てないでしょう。
「と、いうわけで、頑張ってのキスをお願いします」
私がニコニコの笑顔で言えば
「え、いや、あの、その………」
顔を真っ赤にする神官長。
はい。可愛いですね。そのまま食べてしまいたいくらいです。
その時。
ブオッ!!
邪神の放った邪気で、当たり一体のどうでもいい騎士やら神官やらが飛ばされていく。
もちろん私のバリアで私たちは無事ですが。
「くっ!?邪神がっ!!」
と、構える神官長。
ああ、もうちょっと神官長の困った顔を堪能したかったのですけれど!
こう、赤くなってアワアワしている姿がたまらなく愛おしいのに。
なんですか、あの邪神ウザイですね!
「ああ、ウザイですね。
わかりました、すぐに倒してきますので頑張ってのキスは帰ってきてからお願いします」
私がキリッとした顔で言えば
「それ順序がおかしくないですか……」
と、余計な事をいいだすメガネ君。
「わかりました!頑張ったね!のキスに変更ということで!」
「え、いやあのその!」
顔を真っ赤にして、何か言いかけた神官長を無視して、私は邪神のところまで飛んでいった。
とりあえずアワアワ顔を堪能するためには邪魔です。倒してきましょう。
私が邪神の前に飛び降りると、体半分がでかかった邪神が、私の姿を目視するなり。
パタン。
恐ろしい速度で再び扉の中に戻っていった。
……。
流れる気まずい沈黙。
はい。何なんですか!?人の姿を確認するなり引っ込むとか物凄く失礼じゃないですか!?
「え、ちょっと邪神様?」
魔族があっけに取られて、扉に話しかければ、扉は何事もなかったかのように消えていく。
しーーーん。
「えーーと」
戸惑う魔族に、ため息をつく私。
なんですか。マジむかつきますねあの邪神。
これじゃあ頑張ったねのキスがもらえないじゃないですか!?
私が魔族の胸ぐらをつかんで
「何であの邪神は引っ込んでいったんですか!?さっさと出しなさい!」
と、私がいえば
「あ、貴方が寿命で死ぬまではこの世界には出てきたくないそうです……」
と、魔族。
ああ、邪神のくせに情けない。
なんですか!?それでも男ですか!?
私が神官長のアワアワ姿を堪能するために全力でかかってくるのが義務のはずなのに!?
「そ、それでは自分はこれで……」
立ち去ろうとする魔族を私はとりあえずパンチで滅するのだった。
▲△▲
「よかった!レイナ無事で!」
私が神官長の所へ戻れば、嬉しそうに神官長達が寄ってくる。
「はい。復活する前に魔族を倒して復活を阻止しました」
キリッと言う私。
流石にもう、か弱い乙女vというのは無理にしても、邪神に一目散に逃げられる女というのは不名誉すぎるので適当に嘘をつけば
「誰がどう見ても貴方を見て引っ込んでいったんですが……」
と、メガネ君。
はい。なんですか。何かいいましたか?聞こえません。
「あ、あのレイナ。
ほ、本当にしてもその……宜しいでしょうか?」
神官長が顔を真っ赤にしながら聞いてくる。
「はい!ご褒美は義務だと思うのですが?」
私が言えば、神官長は耳まで赤くして、数秒アワアワしたあと、うーんと考え、意を決したように私の肩に手を置いた。
「あ、あのもう一度確認します。
実は冗談で、本当はされるのは嫌というのは……」
と、生真面目な彼が聞いてくる。
本当に生真面目ですね。これで貴族のお嬢様相手ならうっとおしいと思われるくらい生真面目です。
まぁ、神殿にきっちりガードされすぎて女性免疫すらない神官長に、女性を優雅にエスコートしろというのは無理からぬ話ではありますが。
もちろん私には可愛すぎてご褒美なのですけれど。
「女性に何ども確認をとるのはどうかと思いますよ?」
私がにこりと笑って言えば、神官長がすみませんと平謝りし、
「そ、それではいきますっ!」
と、まるで戦地に赴くかのように目を閉じたその瞬間。
「神官長様っ!!助けにまいりましたわっ!!」
と、ばばーんと聖女様が登場するのだった。
……はい。ある意味私にとっては邪神よりも恐ろしい存在を忘れてました。










