六日目
私とアレクは晴れて恋人同士になった。
そのことを何より喜んだのは両親だった。
「娘を頼みます」と涙を流していた。
今日は二人で王室主宰の舞踏会に行く。
「私が…いや、俺がドレスを選んであげる、クッ」
アレクは女言葉が抜けないようで苦労している。
私が「どんな言葉を話そうが大好きよ」と告げると
「かわいすぎる…!」
と天を仰いでいた。
私はアレクの見立てでブルーのドレスを着た。
メイクもアレク。
「じっとして…、もう息をかけないで」
私がいたずら心を出して息をふっとアレクの顔にかけるとくすぐったそうな表情をした。
「口紅…の前に」
アレクが私の唇を奪った。
私は思わず赤くなる。
「役得よ」
アレクは笑う。
用意が終わった私たちは王城に向かう。
私は舞踏会は二度目である。
社交界のデビュタント以来だ。
あのときもアレクにエスコートしてもらった。
男性恐怖症のためダンスを申し込まれる前に帰ったから、楽しい記憶はない。
今回は心がうきうきする。
足もふわふわ、気持ちいい。
きっと隣にアレクがいるからだ。
正確には両思いのアレクが。
「来たか、アレク!」
第一王子プルート様が近づいて来られる。
私は淑女の礼をとった。
「アンネリーゼ嬢も久しぶり」
「もったいなきお言葉」
プルート様はアレクの肩を叩きながら、「ついに射止めたのか?」と笑っている。
アレクは苦笑している。
その時、視線を感じ振り向いた。
視線の先にはものすごい美少女がいた。
煌めくストロベリーブロンドの。
年は14ぐらいか。
私を睨んでいる。
「あれがカレン様よ」
いつの間にか横にいたタマラが言う。
「刺されないようにね」
扇で口元を隠しながら笑う。
「あんな美少女を袖にするなんて、もったいないわ」
「何を言うのよ。アンネのほうが何倍もかわいいわ」
プルート様から解放されたアレクが会話に加わる。
「ごちそうさま」
タマラは笑いながら行ってしまった。
「ばか」
私が照れると
「その表情はじめて。今すぐキスしたいわ」
とささやかれた。
ばか。
ダンスがはじまる。
アレクと踊ったあと、プルート様に誘われる。
王子相手では断れない。
私は内心青ざめながらプルート様の手をとる。
(ここまでは大丈夫)
私の腰に腕がまわる。
ダンスがはじまる。
(吐き気がない!蕁麻疹でない!失神しない!)
私は楽しくダンスを終えた。
アレクが驚いたように近づいてくる。
「私、治ったかも!」
男性恐怖症!
ためしに別の方ともダンスをする。
楽しい。
「よかったわね」
アレクはどこか寂しそうに言う。
「喜んでくれないの?」
「私だけのアンネも良かったの。男心は複雑よ」
アレクは困ったように笑った。
「レッスン大成功ね!」
私はとびきりの笑顔を向けた。