五日目
翌日私は熱を出した。
医師の見立てでは軽い風邪とのこと。
弱い体が嫌になる。
ベッドで寝ていると思い出すのはアレクとのこの数日間。
私たちは仲がいいが、アレクは騎士の仕事があるし、こんなに頻繁に会ったのははじめてだった。
いつもやさしいアレク。
会いたいな。
そうぼんやり考えているとドアがノックされた。
「お嬢様、お客様です」
侍女の声に振り向くといたのはタマラだった。
黒髪に大きなブルーの瞳のタマラは私の親友だ。
「アンネ、大丈夫?」
心配そうにベッドの側に来る。
「もう平気よ。まだだるいけど」
私が力こぶを作ると、タマラはほっとした様子を見せた。
私はタマラに椅子をすすめた。
「タマラ、ご結婚おめでとう」
私は改めてお祝いを口にした。
「ありがとう、アンネ」
タマラは嬉しそうに頬笑む。
しばらくタマラの旦那様の話で盛り上がる。
「毎日一緒にいても飽きないの。すごく楽だけど、ときめくの。」
タマラは頬を染めながら惚気る。
「一人でいるより楽なのよ。楽しいの」
その言葉にアレクを思い出す。
「アンネもアレキサンダー様と近々?」
タマラがうふふと笑う。
「え、そんなんじゃないわ」
急にアレクの話題になり焦る。
「そうなの?最近毎日通いつめじゃない。ついに『殿下の剣』も落ち着くのかと噂なのに」
「何を言ってるの?アレクは女性ダメじゃない」
タマラは不思議そうに首をかしげる。
「それは初耳。…私はアレキサンダー様の本命はアンネだと思っていたわ」
私は聞き入る。
「あ、それとアレキサンダー様にカレン様がお熱よ。パーロット伯爵家の美少女。うかうかしていたらとられちゃうわよ」
その時、侍女がアレクが見舞いにきたと告げに来た。
「じゃあ帰るわ。すべてあなたのよい方向にいきますように…」
タマラはアレクと入れ違いに帰っていった。
「アンネ、もういいの?」
アレクが部屋に入ってくる。
アレクは私が好き?
さっきのタマラの言葉が頭から離れない。
「大丈夫?」
額に手をあてられる。
大きな手。男性なのに全然嫌じゃない。
やさしい手。
「もう元気よ。心配かけてごめんね」
アレクの心配そうな、真剣な表情が私を落ち着かなくさせる。私は視線をそらした。
「アンネ…?」
「アレク、カレン様はいいの?」
私は話題をそらそうとして失敗した。
アレクは驚いたような顔をした。
「パーロット伯爵令嬢?どこから聞いたの?なんともないわよ。」
アレクは笑う。
「だって私はこうよ?」
「いいえ、アレクは素敵だわ」
私はアレクを見つめた。
「アンネ…」
「まだ、五日だけど今までありがとう。恋人レッスンはもういいわ。」
だってこのままでは好きになってしまう。
「アレクの貴重な時間をありがとう。とても楽しかった」
私は笑顔を作った。
「アンネ、俺はーー!」
「今日はもう帰ってもらっていい?ごめんーー」
瞬間、私はアレクの胸の中にいた。
「話を聞いてくれ」
私ははじめて見るアレクの姿に戸惑っていた。
「アレク?」
アレクはやさしく私から離れた。
熱っぽく私を見つめる。
「アンネが好きだ。愛してる。」
私の頬に手をあてる。
唇がゆっくり合わさる。
触れるか触れないかのやさしいキス。
私は固まった。
「ずっと好きだった。物心ついたときは虜だった。アンネが男がだめになってからは、怖がらせないように女言葉も練習した」
私はまだ固まっている。
「男性の恋人?みんなただの友達だ。そもそも女言葉を話すのは君の前だけだ」
「アンネ!」
私はビクッとした。
「愛してる」
やさしく抱きしめられる。
それはとても幸せな時間で…、私は改めて自分が誰を好きなのか知った。
「私もアレクを愛してる」