プロローグ
私はアンネリーゼ。
栗色にヘーゼルの瞳の平凡な18歳。
一応貴族。子爵家だけど。
私はため息をつく。
「どおしたの?アンネ」
向かいに座っている幼なじみのアレキサンダー…アレクがシトロンティーを飲みながら笑う。
「幸せ逃げちゃうわよ」
私は黙って手紙を差し出す。
「あら、タマラ結婚決まったの?」
タマラというのは共通の友達だ。
同じ子爵令嬢ともあって、私にとって親友と言ってもいい。
「最後の砦がー」
私は机につっぷした。
「ちょっと、あなた目立つんだからはしたないことやめなさいよ」
アレクが私の頭をなでる。
言わせてもらうが目立つのは私ではない。
金髪にサファイアのような鮮やかな青い瞳のアレクだ。
彼は絶世の美男子である。
今はカフェにいるが、娘さんたちの視線が熱い。
「私がいるじゃない。大好きよ、アンネ」
アレクは私の頬を両手ではさんだ。
辺りから声があがる。
私はさすがに少し赤くなる。
「女たらし…」
「ばか」
アレクがいたずらっぽくウインクする。
私とアレクは店を出た。
と、通りを歩く若い男性とぶつかる。
「失礼、お嬢さん」
「いえ…」
私は吐き気をこらえてうつむく。
腕には蕁麻疹が出ていた。
「大丈夫?」
アレクに支えられて私は公園のベンチに腰かけた。
「まだ治らないの?」
「全然だめ。」
ようやく落ちついた私は頭を抱えた。
「この体質が呪わしい…!」
私は極度の男性恐怖症である。
アレルギーといってもいい。
会話ぐらいなら大丈夫だが、直接の接触がだめなのだ。
「難儀ねえ。きなさいよ」
私はアレクにもたれた。
伯爵子息であるアレクとは物心つく前からの幼なじみである。
身分は違うが、母親同士が親友だったのだ。
「ねえ、アンネ…。私は気持ち悪くないの?」
アレクがささやく。
「アレクは家族みたいなものだから」
私は微笑んだ。
「なら、リハビリしない?」
「リハビリ?」
「そう、私と一週間恋人ごっこするの」
「ありがたいけど…、あなた恋人の衛兵隊のロンギネス様は?」
アレクには男性の恋人がいたはずだ。
「別れたわ。とっくに」
アレクはあきれたように笑った。
「また?もったいないわー」
衛兵隊のロンギネス様と言えば絵姿が出回る美形である。
ちなみにアレクの絵姿も人気がある。
「このままじゃアンネ、あなたいきおくれよ」
私はショックを受ける。
「わかったわ!お願いいたします!」
こうして私たちの一週間が始まった。