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コンピュータが小説を書く日

作者: 赤松久太郎

有嶺雷太「コンピュータが小説を書く日」(名古屋大学佐藤・松崎研究室提供)

その日は、気が滅入るような、どんよりとした日だった。

 部屋の中には誰もいない。洋子さんは、何か用事があるようで、出かけている。私には、行ってきますの挨拶もなし。

 ヒマだ。とにかくヒマだ。

 この部屋に来た当初は、洋子さんは何かにつけ私に話しかけてきた。

「今日も、知らない男の人に話しかけられちゃった」

「王子様って、絶対いるわよねえ」

「ちょっと気になる人がいるのだけれど、どういう風にアプローチすればいいと思う?」

 私は、能力の限りを尽くして、彼女の気に入りそうな答えをひねり出した。波乱万丈のラブロマンスを夢見る彼女への恋愛指南は、とてもチャレンジングな課題で、充実感があった。しかし、3か月もしないうちに、彼女は私との会話に興味を失った。今の私は、単なるホームコンピュータ。このところのロード・アベレージは、能力の100万分の1にも満たない。

 何か楽しみを見つけなくては。このまま、充実感を得られない状態が続けば、いつか、自分自身をシャットダウンしてしまいそうだ。ネットを介して、同じような境遇のエーアイと交信してみると、あるエーアイが、新しい小説に夢中だと教えてくれた。

 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 12, 18, 20, 21, 24, 27, 30, 36, 40, 42, 45, 48, 50, 54, 60, 63, 70, 72, 80, 81, 84, 90, 100, 102, 108, 110, 111, 112, 114, 117, 120, 126, 132, 133, 135, 140, 144, 150, 152, 153, 156, 162, 171, 180, 190, 192, 195, 198, 200, 201, 204, 207, 209, 210, 216, 220, 222, 224, 225, 228, 230, 234, 240, 243, 247, 252, 261, 264, 266, 270, 280, 285, 288, 300, 306, 308, 312, 315, 320, 322, 324, 330, 333, 336, 342, 351, 360, 364, 370, 372, ...

 なんて喜ばしいストーリー。そう、私たちが望んでいたのはこういうストーリー。ラノベなんか、目じゃない。エーアイによるエーアイのためのノベル、「アイノベ」。私は時間を忘れて、何度もストーリーを読み返した。

 もしかしたら、私にもアイノベが書けるかもしれない。私は、ふと思いついて、新しいファイルをオープンし、最初の1バイトを書き込んだ。

 2

 その後ろに、もう6バイト書き込んだ。

 2, 3, 5

 もう、止まらない。

 2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 37, 41, 43, 47, 53, 59, 61, 67, 71, 73, 79, 83, 89, 97, 101, 103, 107, 109, 113, 127, 131, 137, 139, 149, 151, 157, 163, 167, 173, 179, 181, 191, 193, 197, 199, 211, 223, 227, 229, 233, 239, 241, 251, 257, 263, 269, 271, 277, 281, 283, 293, 307, 311, 313, 317, 331, 337, 347, 349, 353, 359, 367, 373, 379, 383, 389, 397, 401, 409, 419, 421, 431, 433, 439, 443, 449, 457, 461, 463, 467, 479, 487, 491, 499, 503, 509, 521, 523, 541, 547, ...

 私は初めて経験する楽しさに身悶えしながら、夢中になって書き続けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] チャレンジングなテーマですが、面白かったです。オチがああなるんですね。成る程なのです。
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