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プロローグ

 よくさ、‘ギャップ’に惹かれるっていう奴いるじゃない?


 ほら、しっかりしてそうな女の人に実は結構弱いところがあったりとか。バリバリのキャリアウーマンがものすっごく家庭的な人だったりとか。


 ギャップでモテる!なぁんて書いてある雑誌の記事もあるしさ。


 そういうの、わからないでもないんだけど。


 でも。


「そのギャップがいいんだよね〜」


 ……そう言った、そこのあんた。


 あんたに教えてやりたいことが、ある。




 ギャップっていうのはね。


 あっていい人間と…………あってはいけない人間がいるのよ。







「麻由ちゃんって、ほんっとかわいいよね」


 最近あたしに一生懸命自分アピールしてるエリート銀行マンが、そう言う。


 うん、知ってる。あたしはかわいいよ。


「え〜?そうですかぁ?そんなことないと思うけどなぁ……?でも、本橋もとはしさんみたいにかっこいい人にそう言ってもらえるなんて、すっごくうれしいな」


 ニッコリ、ってね。


 内心思ってることなんて、ひとつも出さずに笑顔で謙遜。


 そんなあたしに、本橋というお坊ちゃまは、


「はは、そう?……麻由ちゃんが喜んでくれるなら、いくらでも言うよ?」


 そう言って、少し長めに伸ばした髪を左手でかきあげた。


 自分がかっこいいことを十分に理解した上で、計算された動きだ。


 ……そうだね。その見せびらかせてる金ピカの趣味悪い時計と指輪、それさえなければ、いい男かもね。


 顔だけ、だけど。


 カップルに今大人気っていう高級イタリアンに舌鼓を打ちつつ、目の前には、この前友人に紹介された、趣味は悪いけど高い時計とアクセサリー、高級ブランドスーツで身を固めた、見た目のいい男。


 まぁ、ぼちぼちの好条件。


 ……でもなぁ。


 こいつ、あたしのこともなんかの装飾品と一緒にしか考えてないんだろうなって思う。連れて歩くのに、知り合いに見せるのに、自慢できる彼女。それが欲しいんだろうって。


 それが、丸わかりなんだよね。


 ……まぁ、条件重視で相手選んでるあたしに言われたくないかもだけど。


 そんなこと考えながら、適当に相槌を打っていたら、本橋がスッとリボンの巻かれた箱を取りだした。


「――かわいい麻由ちゃんに。君に似合いそうなのを見つけたから、これ」


 そう言ってテーブルを滑ってきたのは、少し細くて長めの箱。


 うん?このサイズは、ブレスレットかな?


「え……でも……」


 こんなの頂けませんと、頂いたら見返りを求められるんじゃないかって、そういう気持ちをにじませながら、困ったように箱には手をつけずに、本橋の顔を上目遣いに見上げる。


 案の定、本橋は余裕の笑みで、ニッコリと笑った。気取って。


「いいから。それを受け取ったからって、君をどうこうするつもりはないし、押し付けがましい態度を取るつもりもないよ。ただ、これを見た瞬間、君にって思ってしまって……。つい、そのまま買ってしまったんだ。恥ずかしいけどね」


 本橋が照れたようにかすかに笑う。


 へぇ〜。なかなかの名演技じゃない。


 ……でも、そういうのはさ、何にもわからないお嬢さん相手にしなきゃね?


 こちとら自分を演じ続けて、そろそろ数えるのも嫌になるくらいの年数経ってんのよ?そんなのに今更騙されますかっての。


「ほんとにいいんですか?頂いて……」


「もちろん。受け取ってもらわなきゃ、僕が困るよ。……せっかくだし、開けてみて?」


 笑みを崩すことのない本橋の言葉に、ゆっくりと箱に手を伸ばした。


 リボンの巻かれた真っ白な箱を空けると、さらにベルベッドの箱が入っていて、それを少しスライドさせるように開ければ、プラチナの、二連になった華奢なチェーンブレスレットが入っていた。


 ……あらぁ〜?絶対金ピカが出てくると思ったのに。


「うわぁ〜!すっごくきれい!これ、ほんとに頂いてもいいんですか?」


 ブレスレットを取り出して、目を輝かせた(ように見えるだろう)あたしに、本橋は思惑通りと言わんばかりの笑みを浮かべた。


「そんなに気に入ったなら、つけてみたら?」


「はい!」


 本橋の言う通りに、今しているブレスレットを箱におさめて、代わりにそのチェーンブレスレットをつける。


「……どう、ですか?」


「うん、よく似合ってるよ……まるで君のために作られたみたいだ」


 うわ〜、気障キザだねぇ。


 ……ちょっと寒イボ出ちゃったし。


「もぉ、本橋さんったら……。でも、ありがとうございます。大事に、しますね」


 ニコって、かわいく笑っておく。


 まぁね。これは確かにきれいだし。ブレスレットに罪はないし。


 …………でもね。


 おかしくない?


 ゴールド大好きなあんたが、これを選ぶわけがないじゃない?


 それにこういうシンプルなデザインって、あたしみたいなかわいい系のタイプより、大人の女って感じのきれい系な人の方が似合うと思うんだよね。


 ……一体、誰と選びに行ったのかな?エリートくん?


 ニコニコと笑みを絶やさずにいるあたしに、本橋は軽くワイングラスを持ち上げて乾杯の仕草をする。あたしも一応それに従って、グラスを揺らした。


 何に乾杯なんだか。もう、手に入れたつもりなわけ?


 ……やっぱ、ダメ。こいつパス。


 条件は結構いいと思うし、条件優先で選んでるあたしとしては、ちょっと惜しい気もするけど。


 いくらなんでも、こんな、付き合う前から怪しい気配を感じる男は、願い下げ。


「そうだ!あたし、とっても大好きなおすすめのお店があるんですよぉ。……ちょっと穴場なんですけど。もしよかったら、今度、本橋さんも一緒に行きませんか?あたし、このお礼にごちそうしちゃいます」


 極上の(と人から言われる)笑みでブレスレットを揺らしたら、予想通り、本橋は勝ち誇った笑みで食いついてきた。


「へぇ!それはうれしいな。うん、ぜひ今度はそこに行こっか」


 あたしから食事に誘ったことなんてないもんね?もらった!とか思ってる?


 でも、そんなに甘くはないんだな、これが。


「はい!楽しみにしてて下さいね」


 あたしも、楽しみにしてるから。


 あなたの引きつった顔が見られるのを、ね。





麻由編、始まりました。

相変わらずつたない文章ですが、よろしくお願いします。

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