楓
〈優雨さん、そう言えば、ハナミさん最近来ませんね。〉
〈もしかして、まだ仲直りしていないんですか?〉
〈ダメじゃないですか!ハナミさん、綺麗な人だからすぐに他の男性に取られちゃいますよ。〉
優雨さんの彼女さん、ハナミさんは、とても美しい人で、よく笑うステキな人でした。夏になると、よく私の影に隠れて、お話をしていました。その時の優雨さんは、楽しそうな顔をしていて、私もついつい笑ってしまって…。
〈あ…。〉
〈優雨さん、電話をかけるんですか?〉
〈やっぱり、まだ好きなんですね!良かったー。これでまた、ハナミさんと一緒に住めますね。〉
「あっ、ハナミ?この前はごめん。ちょっと酔っ払ってて…。本当にごめん」
『ううん。別にいいの。私こそごめんね。小さい事で怒っちゃって。』
〈ハナミさん。なんて優しいんでしょうか。本当は、優雨さんが悪いのに…。〉
彼は、電話ごしの彼女の声を泣きそうな目で聞いている。彼女の優しさに、感動しているのだろうか?
「なぁ、ハナミ。今から会えない?」
〈おやおや、優雨さん、さっそく甘えているんですか?もう!ちゃんと反省しているんですか?〉
『うん。いいよ。どうせ暇だったし』
〈よかったですね。優雨さん。〉
それからしばらくして、彼女がやって来た。二人は楽しそうに話している。さっきまで喧嘩していたのが嘘みたいに。
〈ふふふ。二人共楽しそうですね。〉
〈…。〉
〈可哀想な隣の松の木。
松の枝には、無数の傷が。
きっと、家の主人がやったんでしょう。
しかし、松は、このためにここに存在している。傷つけられるために買われたんだと。
あーなんて可哀想な松の木。
だけど私はその隣で嬉しそうに笑っている。
あー悲しい。きっと松は、痛くて夜な夜な泣くのでしょう。〉
「ハナミ、やっぱりお前といると楽しいよ」
「なら、怒らせないようにしてね。優雨くん」
「はい。気をつけます。」
彼は、彼女の頬に優しくキスをした。
〈ラブラブじゃないですか。もう、喧嘩しないでくださいね〉
彼女の頬が赤く染まる。すると、恥ずかしいのか、手で顔をおおいかくす。
「あははは!お前、顔真っ赤かだな」
「うるさいなー」
〈ふふふ。本当に真っ赤か。トマトみたいです。〉
〈あっほら。やっぱり、綺麗な顔立ちしてるじゃないですか、ハナミさん。
〈…幸せそうですね〉
〈恋人達が笑えば、
お空も笑う。
お空が笑えば、
雲も笑う。
いつになれば、
隣の松は笑うのだろう。〉