この気持ちの行方
お互いに好きな人、気になる人はいないのかという話……どうして、こうなったんだろう。そして今、放課後の教室で二人きりというシチュエーション。
多少の悪戯のつもりで、問い返したつもりだった。そしててっきり、照れながらそんな人はいないだの、教えないだの、そんな空気になると思っていた。
だが……達志を見つめる由香に、そんな雰囲気はない。真剣な瞳で達志を捉え、胸元を押さえ深呼吸を繰り返している。
「…………私……」
頬が赤いのは、夕日のせいだろうか。瞳が潤んでいるのは、気のせいだろうか。でなければ、この雰囲気はまるで……
そして由香は、覚悟を決めたように口を開く。達志は、息を呑む。
次に由香の口から紡がれる言葉、それを聞き逃さないように……神経を尖らせて。由香の口から、次の言葉が……
「たっ……」
「おや、タツに由香先生じゃないですか」
言われると同時、どこからか別の声が乱入する。それは甘く呑み込まれそうな空気にあった二人を正気に戻すには充分で。
声の聞こえた教室の入り口へと、二人は弾かれたように顔を向ける。そこにいたのは眼帯をつけた少女、ルーアであった。
「る、ルーア……?」
「いやぁ、私としたことが忘れ物をしてしまいまして。それより、お二人は何を?」
「こ、これは……」
いつの間にかかなり接近していた由香が、急いで距離を離す。しかし、あの場面をばっちり見られてしまったわけで。
「る、ルーアちゃん……えっと、聞いてた?」
「はて……何か話してたんですか?」
しかしどうやら、その会話までは聞かれていなかったようだ。ルーアの様子は隠し事をしている風でもないし、ただ首を傾げている。
「ううん、それならいいの……あ、その私! 職員室に用があるから!」
聞かれてなかったことにほっとして。しかしさっきまで自分がしていたことを思い出したのだろう、一気に顔を赤くして……
「おい!」という達志の言葉も聞かず、その場を走り去ってしまう。その後ろ姿を見守ることしかできず、伸ばした手は行き先を失う。
「どうしたんでしょう、いつもなら『由香先生じゃなくて如月先生でしょ』って返ってくるのに。様子が変ですねぇ、何かあったんですか? タツ」
由香がいつもの様子でないことに気づいたルーアは、一緒の空間にいた達志へと視線を向ける。だが達志は、心ここにあらずといった風で。
「さ、あ……」
ただこう返すしか、できなかった。




